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2009年07月18日

第31話 社会見学[白龍物語]

第31話 社会見学

エリア2の図書館でのボランティアを始めた美雨。
径は時間を作って美雨を送り迎えするようになりました。

そして自然に図書館で時間をつぶしながら本を読んだり人間たちを観察するようになり、やがて人の心という面からみた地球の歴史、その関連性などに興味を持ち始めるようになりました。

第31話 社会見学[白龍物語]

「…本気で、考えてみてくれないかな。」

ある日、図書館からの帰り道のこと。
突然ぽそっと言った径の言葉に、美雨はとまどいました。
「わ…わたし。そんな事考えた事もなくて。」

下を向いた美雨に、径は、うん、と頷きました。
「ごめん。君の気持ちはわかってたけど。…これから、考えて欲しいなと思って。」

径に「本気でつきあってほしい」と言われた美雨は、実は径の気持ちに気づいていました。
でもどちらかというとそういう話になるのをずっと恐れていたのです。

 …いまのこのままじゃいけない…?

美雨の心は、激しく揺れていました。

チェリー



さてその頃。
遥珂とウェイは、廻に白龍のアドバイスについて話し、
「やりたいこと」について相談しました。

廻はすぐに授業をディスカッションの時間に切り替えました。
二人にそれぞれの考えをまとめる時間を作り、発表し、それについて意見を述べさせたり。
さらに廻自身の知識と視点からも情報を加えたりしました。

そして出た結論は、
「やりたい事をみつけだそう、それには多くを知ることが必要だ。」
ということ。

そして多くを知るための手段として。
伽羅弧のあちこちを‘社会見学’することにしたのです。



そうして偶然ばったりとであった、2人と3人。

「家に帰るところだったのよ。」
と、ちょっと頬を赤らめて話す美雨を見て、廻は‘ふ~ん…’と心の中でつぶやきながら二人をさりげなく観察しました。

「僕たちはいま軍を見学しにきたんだ。一緒にどうだい?」
廻は径と美雨を誘いました。


伽羅弧軍の訓練場では、ちょうど兵士たちのためのイベントが開催されていました。
剣の武術試合。
タイミングよく優勝戦がこれから始まるところでした。


径と廻は美雨と子どもたちのために見学の席をみつけてやり、二人は少し離れた後ろの方で壁にもたれて心話で話をしました。

『兄上。美雨ちゃんに名乗りをあげたのかい?』
『ああ。』
『僕もやろうと思ってね。』

径は廻の横顔を見てから
『そうか。』
と、静かに返しました。

『まぁ、二人ともふられる可能性がないわけじゃないがね。』

『どっちにしろ…彼女は、‘アマテラスの御子のお妃第一候補’だ。』
ふふっと笑いながら廻がいいました。
『盛り上がってたのは女官長とその周りくらいなようだけど。』

『もし女官長にばれたら…』
女官長が美雨ちゃんをほっとかないだろうな、
と廻が言おうとしたところ、径が先に返しました。

「叔母上と女官長の全面戦争、勃発だ。」

思わず声をあげて笑ってしまった二人は、真剣試合の緊迫したムードの中、慌てて口を抑えました。



『お父さんだ。』
ウェイが会場の隅にいるアズマと将軍たちをみつけました。

優勝者が決まると、アズマが出てきて兵士たちの健闘をたたえました。
その後、休憩を挟んで行われたのが優勝者・準優勝者と軍神スサノオとの対戦。
これがこのイベントでの褒美でした。

にこにことしながら出てきたアズマは、3名の兵士を相手に真ん中に立ち、腰の剣には手も触れずにただ、静かに立っていました。

そして始まると同時にいきなり軍神の戦いのエネルギーを全身から発振。
アズマの目が周囲を切り裂く鋭い刃物のように不気味に光ります。

その変容と凄まじい闘気に、径と廻は一瞬 息を飲みました。

 …戦神というのはこういうものか…。 

そのエネルギーの片鱗を受けただけで、血の気が引きます。

それほどの凄まじいエネルギーを発した戦神に対し、3名の兵士は一気に攻撃を仕掛けました。

いつの間に抜いたのか見えないほどの素早さでアズマは己の剣でそれを受け、返します。
その後の緊迫した鋭い戦いを、会場は息を呑んで見守っていました。

3名の兵士たちはかなり健闘したものの、
結局、軍神に叶うはずもなく。

大拍手のうちに、戦いは終わり、アズマはいつもの静かでフレンドリーな雰囲気に戻って兵士たちと握手すると、彼らと兵士たち全員を称え、解散を告げました。

兵士たちはエネルギーを鼓舞され、高揚しながらそれぞれの部署に戻っていきます。


見学席に残された美雨、遥珂とウェイの3人は、ただ呆然とその場から動きませんでした。
径と廻ははっと我に返り、3人を迎えにいきました。

「大丈夫かい?」
「うん…やっぱり軍はいいや。あわないみたい。」

蒼い顔をしていた遥珂とウェイは、なぜ父がふたりに剣を教えようとしなかったのか理解しました。
僕たちには、剣の道はどうやらないみたいだね、と。



美雨は考え込んでしまいました。
初めてまともに見た父の戦いの目。
それはかつて“悪魔のような”と評された戦闘時の兄の目とは違う種類のものではあったものの…。


 やっぱり…お母さまに相談しよう…。

その日の午後遅く。
美雨はエフェクトを捜して西塔にいき、室内にみあたらない事から長城の中心地へつながるドアを開けました。


ちょうど、長城のレンガの壁に背中からもたれてアズマと何か話しているエフェクト。
アズマが笑いながら愛しそうにエフェクトを引き寄せて、キスしたところでした。

仲のいい両親のこんな姿をみたのは初めてではないものの。
美雨はいきなり径に告白された場面を思い出し、動揺してしまいました。

心臓がドキドキしはじめ、そっとドアを閉めようとします。
しかし、次の父の言葉にはっとしてドアを閉める手が止まりました。

「エフェクト!いい加減その我慢する癖をやめろ!身体が悲鳴あげてるじゃないか!」
「あ~…やぶへび。」

逃げようとするエフェクトをしっかり抱えたまま、アズマはドアのところにいる美雨に言いました。
「美雨。お母さんをつれていって寝かせてくれ。すぐに医務官呼ぶからな。」


つづく。
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つぶやき。
つぶやき。(2013-02-21 14:21)


Posted by 町田律子(pyo) at 19:00│Comments(0)龍物語
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