2009年07月25日
第41話 玄武[白龍物語]
第41話 玄武
「兄上!大丈夫か?」
ガンガン割れそうな頭を抑えながら、径は起き上がりました。
身体中からぎしぎしとした悲鳴が起こりそうな気がします。
どれくらい…気を失っていたんだろう?
「兄上!大丈夫か?」
ガンガン割れそうな頭を抑えながら、径は起き上がりました。
身体中からぎしぎしとした悲鳴が起こりそうな気がします。
どれくらい…気を失っていたんだろう?
廻がすぐ横にいました。
ほっとした表情で、兄の無事を確かめます。
しかし径はすぐに、その場の異常を感じました。
暗い。
まるで闇そのものの中にいるようだ。
光を反射するものがない?
いや、光を吸収してしまう?
…どこなんだ?これは。
「…叔父上は?」
径はゆっくりと立ちあがりながら、廻に聞きました。
頭がズキンと痛みます。
「わからない。俺も叔父上の攻撃で気を失って。気がついたらこんな場所にいたんだ。」
廻も表情を暗くしながら、己の内からぼーっとしたエネルギーを出していました。
廻のクリスタルだけが、唯一の灯りのように周囲を照らし出します。
ゆらり、と、闇の中で何かが動きました。
径と廻ははっとしてその正体を見極めようとしました。
「美雨ちゃん!」
それは、巨大な蜘蛛。
二人よりはるかに大きな蜘蛛が、美雨を捕まえ、いまにも食べようとしているところでした。
美雨は気を失っているのか、ぐったりとしています。
兄弟は蜘蛛に向かって走り出しました。
各々、剣を手にしています。
しかし時遅く。
蜘蛛はすぐに美雨にキバをつきたてました。
バキっという骨の折れる不気味な音が闇の中に立ち上り、どこにも反響せずに空間に消えていきます。
径と廻が力をあわせて巨大蜘蛛を倒した時。
すでに、美雨はこときれていました。
走りよってうつぶせに倒れている美雨の身体をうわむきに返し、
廻は「うっ!」と言って数歩、ひきました。
凄まじい死臭。
蜘蛛に何か毒を入れられたのか。
美雨の肉体はすぐに肌が溶け始め、醜く崩れ始めました。
そしてあっという間にウジがわき、とても近寄れるような状態ではなく。
しかし径はその美雨の屍の中にまだクリスタルがあることに気がつきました。
すぐに印を切って式を出します。
死の闇と毒に引き込まれないように守りをつけると、径はウジの中に手をつっこみ、美雨の身体からクリスタルと龍の玉-その中にある魂も一緒に-を取り出しました。
魂さえ無事なら、復活が可能だ。
もしこの異空間に魂を置いていってしまえばあとで回収が難しくなるかもしれない。
そうなると美雨の魂は永遠に失われてしまう。
径はそのことだけを瞬間に考え、行動したのでした。
そして別の式を出すと、取り出したクリスタルと龍の玉を包んで護りの結界とし、大事に懐にしまいました。
「とにかく、ここから出よう。」
「ああ。」
兄弟は歩き出しました。
だが。どこに向かえばいいのかわからない。
特殊訓練場…亜空間にいたはずだ。
その出入り口のポイントさえ掴めば、どこだろうと通常空間に戻れるはず。
径はふたたび頭痛が激しくなってきた事に気がついていました。
身体中の節々の痛みも徐々に激しくなり、やがて筋肉や内臓が悲鳴を上げているような気がしてきました。
もしかしたら…。
径は、もしかしたら己の命も長くないかもしれない、と思いました。
内臓が傷ついたのかもしれない。
この激しい痛みは。
径は印を切って式を出すと、痛む箇所へつけてみました。
とりあえず、息ができる程度に痛みは抑えられます。
しかしこれは一時的な応急処置でしかない…。
「廻。」
やがて径はたちどまると弟に声をかけました。
すでに息は荒くなっています。
径は懐から美雨のクリスタルと龍の玉を取り出しました。
「…預かってくれ。」
もし俺に何かあったなら…この魂だけは…確実に…たすけ…
しかし径は全てをいう事ができず、グウという声なのか呼吸なのかわからない音を出すと息が止まり、膝をつきました。
「兄上!」
廻の姿が見えなくなり、光が遠ざかり。声も小さくなって聞こえなくなります。
膝をつき、そして両手を地面につけた途端。
径の身体は一気に膨れ上がり、変化しました。
巨大化し、四足の獣に。
それは誰もみたことがないような、不思議な幻の獣でした。
それは大地を踏みしめ、闇をみつめます。
すると廻の手にあった龍の玉がひかり、中から細長い金色に光る紐のようなものが出てきて幻の獣にとびつき、からみつきました。
そのふたつのエネルギーが交差したとき。
幻の獣は力を込めて己の正面にある空間を切り裂きました。
その瞬間。
彼らは元いた特殊訓練場へ戻っていたのでした。
「北の玄武。西の白虎。」
エフェクトは、にっこり笑って径と廻をハグし、美雨も思いっきり抱きしめると頬にキスしました。
「やっぱり、あなたたちだったのね。アーシャスの読み通り。」
径と廻は、驚いて顔を見合わせ、目の前にたっている人影を確認しました。
美雨の肩を抱いているエフェクト。
そしてアズマ。
さらに、父…アーシャスもいたのです。
父親たちはにこにこと径、廻、美雨の3人を見ていました。
「痛みはどう?怪我はない?」
エフェクトにきかれた径は、全く痛みがない事に気がつきました。
廻もまた、何ともないよう。
ただ、二人は恐ろしく疲れていました。
倒れこみそうなほどに。
そう認識した途端、霧雨があたり一面に降り始めました。
それはヒーリングの雨。
優しい雨が、みるみる二人の疲れを癒していきます。
「美雨ちゃん。」
またも、美雨は泣いていました。
でも、嬉しそうに。
その時はじめて、径は、己が美雨の手をしっかりと握っている事に気がついたのでした。
つづく。
用語、キャラクター解説はこちら 目次代わりのタイトル一覧は、タグをクリックしてご覧ください。
ほっとした表情で、兄の無事を確かめます。
しかし径はすぐに、その場の異常を感じました。
暗い。
まるで闇そのものの中にいるようだ。
光を反射するものがない?
いや、光を吸収してしまう?
…どこなんだ?これは。
「…叔父上は?」
径はゆっくりと立ちあがりながら、廻に聞きました。
頭がズキンと痛みます。
「わからない。俺も叔父上の攻撃で気を失って。気がついたらこんな場所にいたんだ。」
廻も表情を暗くしながら、己の内からぼーっとしたエネルギーを出していました。
廻のクリスタルだけが、唯一の灯りのように周囲を照らし出します。
ゆらり、と、闇の中で何かが動きました。
径と廻ははっとしてその正体を見極めようとしました。
「美雨ちゃん!」
それは、巨大な蜘蛛。
二人よりはるかに大きな蜘蛛が、美雨を捕まえ、いまにも食べようとしているところでした。
美雨は気を失っているのか、ぐったりとしています。
兄弟は蜘蛛に向かって走り出しました。
各々、剣を手にしています。
しかし時遅く。
蜘蛛はすぐに美雨にキバをつきたてました。
バキっという骨の折れる不気味な音が闇の中に立ち上り、どこにも反響せずに空間に消えていきます。
径と廻が力をあわせて巨大蜘蛛を倒した時。
すでに、美雨はこときれていました。
走りよってうつぶせに倒れている美雨の身体をうわむきに返し、
廻は「うっ!」と言って数歩、ひきました。
凄まじい死臭。
蜘蛛に何か毒を入れられたのか。
美雨の肉体はすぐに肌が溶け始め、醜く崩れ始めました。
そしてあっという間にウジがわき、とても近寄れるような状態ではなく。
しかし径はその美雨の屍の中にまだクリスタルがあることに気がつきました。
すぐに印を切って式を出します。
死の闇と毒に引き込まれないように守りをつけると、径はウジの中に手をつっこみ、美雨の身体からクリスタルと龍の玉-その中にある魂も一緒に-を取り出しました。
魂さえ無事なら、復活が可能だ。
もしこの異空間に魂を置いていってしまえばあとで回収が難しくなるかもしれない。
そうなると美雨の魂は永遠に失われてしまう。
径はそのことだけを瞬間に考え、行動したのでした。
そして別の式を出すと、取り出したクリスタルと龍の玉を包んで護りの結界とし、大事に懐にしまいました。
「とにかく、ここから出よう。」
「ああ。」
兄弟は歩き出しました。
だが。どこに向かえばいいのかわからない。
特殊訓練場…亜空間にいたはずだ。
その出入り口のポイントさえ掴めば、どこだろうと通常空間に戻れるはず。
径はふたたび頭痛が激しくなってきた事に気がついていました。
身体中の節々の痛みも徐々に激しくなり、やがて筋肉や内臓が悲鳴を上げているような気がしてきました。
もしかしたら…。
径は、もしかしたら己の命も長くないかもしれない、と思いました。
内臓が傷ついたのかもしれない。
この激しい痛みは。
径は印を切って式を出すと、痛む箇所へつけてみました。
とりあえず、息ができる程度に痛みは抑えられます。
しかしこれは一時的な応急処置でしかない…。
「廻。」
やがて径はたちどまると弟に声をかけました。
すでに息は荒くなっています。
径は懐から美雨のクリスタルと龍の玉を取り出しました。
「…預かってくれ。」
もし俺に何かあったなら…この魂だけは…確実に…たすけ…
しかし径は全てをいう事ができず、グウという声なのか呼吸なのかわからない音を出すと息が止まり、膝をつきました。
「兄上!」
廻の姿が見えなくなり、光が遠ざかり。声も小さくなって聞こえなくなります。
膝をつき、そして両手を地面につけた途端。
径の身体は一気に膨れ上がり、変化しました。
巨大化し、四足の獣に。
それは誰もみたことがないような、不思議な幻の獣でした。
それは大地を踏みしめ、闇をみつめます。
すると廻の手にあった龍の玉がひかり、中から細長い金色に光る紐のようなものが出てきて幻の獣にとびつき、からみつきました。
そのふたつのエネルギーが交差したとき。
幻の獣は力を込めて己の正面にある空間を切り裂きました。
その瞬間。
彼らは元いた特殊訓練場へ戻っていたのでした。
「北の玄武。西の白虎。」
エフェクトは、にっこり笑って径と廻をハグし、美雨も思いっきり抱きしめると頬にキスしました。
「やっぱり、あなたたちだったのね。アーシャスの読み通り。」
径と廻は、驚いて顔を見合わせ、目の前にたっている人影を確認しました。
美雨の肩を抱いているエフェクト。
そしてアズマ。
さらに、父…アーシャスもいたのです。
父親たちはにこにこと径、廻、美雨の3人を見ていました。
「痛みはどう?怪我はない?」
エフェクトにきかれた径は、全く痛みがない事に気がつきました。
廻もまた、何ともないよう。
ただ、二人は恐ろしく疲れていました。
倒れこみそうなほどに。
そう認識した途端、霧雨があたり一面に降り始めました。
それはヒーリングの雨。
優しい雨が、みるみる二人の疲れを癒していきます。
「美雨ちゃん。」
またも、美雨は泣いていました。
でも、嬉しそうに。
その時はじめて、径は、己が美雨の手をしっかりと握っている事に気がついたのでした。
四神-Wikipedia より
「四神(しじん)は、中国・朝鮮・日本で伝統的に、天の四方の方角を司る霊獣である。四獣(しじゅう)、四象(ししよう)、四霊(しれい)ともいう。
東の青竜(せいりゅう)・南の朱雀(すざく)・西の白虎(びゃっこ)・北の玄武(げんぶ)である。
つづく。
用語、キャラクター解説はこちら 目次代わりのタイトル一覧は、タグをクリックしてご覧ください。
Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(4)
│龍物語
この記事へのコメント
ほほほほ♪
簡単ですが、裏話。
アップいたしましたですぜぃ☆
簡単ですが、裏話。
アップいたしましたですぜぃ☆
Posted by 勇者ひかり at 2009年07月25日 07:48
おはようございますpyoさん!
pyoさん家のアーシャス、アズマ家のどっちか、あるいはハタなど関わってきた人物に(男性)
ロンゲいますか?耳より長くて方につかないくらいの・・・
ちょうど「ハウル」みたいなボブっぽい・・
昨日、その男がカップルで来ていて(もしかしたらpyo家の人物じゃないかもしれないけど)
わたしは肩膝ついて胸の前で両手をあわせ
礼をしていましたので・・
pyoさん家のアーシャス、アズマ家のどっちか、あるいはハタなど関わってきた人物に(男性)
ロンゲいますか?耳より長くて方につかないくらいの・・・
ちょうど「ハウル」みたいなボブっぽい・・
昨日、その男がカップルで来ていて(もしかしたらpyo家の人物じゃないかもしれないけど)
わたしは肩膝ついて胸の前で両手をあわせ
礼をしていましたので・・
Posted by 雫 at 2009年07月25日 09:41
もーみんなカッコ良すぎます
それにニクイ
憎いぜこんちくしょう
ひかりさんの裏話も楽しみです
それにニクイ
憎いぜこんちくしょう
ひかりさんの裏話も楽しみです
Posted by テン at 2009年07月25日 09:47
勇者ひかりさん:
わーい、ありがとうございます。
そうなんですよねぇ、廻、平気な顔してたのに隠れて泣いてたんですねぇ。
一滴ちゃん:
うーん…それだけの情報じゃ
…黒髪だったらそういう髪型は夜希かなぁ。
両手クロスさせるのは天使界のほうなのよね、
伽羅弧は普通片腕だし…
だけどカップル?
…はっ(@@; まて!まだ下書きにも書いてない話…(汗)もぉ~怖い子だぁ~
テンさん:
シンムー裏話、ぜひ読んでください♪
あっちも携帯対応してますよ~。
わーい、ありがとうございます。
そうなんですよねぇ、廻、平気な顔してたのに隠れて泣いてたんですねぇ。
一滴ちゃん:
うーん…それだけの情報じゃ
…黒髪だったらそういう髪型は夜希かなぁ。
両手クロスさせるのは天使界のほうなのよね、
伽羅弧は普通片腕だし…
だけどカップル?
…はっ(@@; まて!まだ下書きにも書いてない話…(汗)もぉ~怖い子だぁ~
テンさん:
シンムー裏話、ぜひ読んでください♪
あっちも携帯対応してますよ~。
Posted by pyo at 2009年07月25日 11:03
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。