天使とお茶会 第七夜
暗い階段をどれほど下ったのでしょう。
遂に降り切ったあなたは、少し通路を進むとそこに大きな扉を見つけました。
黒檀でできたそれは精緻な細工がほどこされ、通路の質素さとは正反対です。
あなたがそっと触れると、重さを感じさせず音もなく扉が開きます。
扉の向こうは、夜の世界でした。
真っ暗ではないけれど、明るくはありません。
何本もの柱が天井を支えていますが、その天井はあまりにも高いのか見えません。
柱は列柱となり、あなたの行き先を示しているようでした。
そして、闇の遠い果てに一つの星が輝いているのをあなたは見つけます。
その光めがけて、あなたは歩き始めました。
再びどれほど歩いたのでしょう。
列柱が途切れ、大広間のようになっている所に出ました。
そこはとても広く、壁も天井も柱も美々しく飾られていますが、誰もいません。
しんと静まり返っています。
広間の奥は一段高くなっていて、奥の壁にあなたが目指してきた光が見えました。
光の下には玉座があり、そこに座っている人物がゆっくりと立ち上がります。
「ポセイドンさま。」
私はひざまずいて深々と頭を下げました。
ポセイドン神の玉座の後ろに立っていた天使が、ふわりと音もなく私の前にやってきました。
彼は微笑みました。
「やぁ。良く来たな。」
「ルシフェル。お久しぶりです。」
天使ルシフェルはゆっくりとハグしてくれました。
「ここ来るまで、色々とあっただろう? よければ、話して聞かせておくれ。」
私はポセイドン神と天使ルシフェルと一緒に丸いテーブルを囲み、
優しい闇と星のような柔らかな光が届く中で
暖かいお茶をいただきながら、促されるままこれまでの話をしました。
あなたが語ることに、彼らはいちいち頷き返します。
広間は徐々に明るくなっていきました。
柱に飾られた蝋燭に灯りが灯っていきます。
空中に浮かぶ様々なクリスタルがその光をさらに反射しています。
奥の星は、ますますその輝きを増していきます。
その星を見詰めていると、声が問うてきました。
「闇とはなんだ。光とはなんだ。答えの一端くらいは掴めたかな。」
はっとその声の主に目を向けると、ポセイドン神の姿はどこにもなく、
瞬き一つすると、今度は全てが漆黒になっていました。
その黒を背景に瞬かない星たちが輝いています。
星は数をなし、星団を形作っています。
その宇宙で、私とルシフェルは佇んでいました。
星は猛烈なスピードで動き、一つの星団が私たちを呑みこんでいきます。
銀河系…
太陽系……
第三惑星・地球
青い水の星が、宇宙に浮かんでいます。
「なぜお前はこの星を選んだ?そして、人として何を学ぼうと思ったのだ?」
私はこの風景を思い出しました。
そう、龍の姿で地球に落ちて行った、その前。
私はどうして地球にやってきたのだろう。
…まさか物見遊山ではないよな?(^◇^;その前があるよね???
すると、目の前に泣きたくなる程美しい、地球の風景が次々に浮かんできました。
ああそうだ、私は美しい地球に来たかったんだ。
そしてこの美しい地球で暮らしたかったんだ。
この美しい地球を美しいままで守りたかったんだ。
「そして、今生では何を知るために地に降りた?」
何を知るために?
前世の懺悔のため?
前世の失敗を悔いるため?謝るため?
いいえ、そうではない。
私は今生でこの星に生まれて学ぶ事を終えるためにきた。
地球人である事を卒業するために生まれてきた。
それはさらに地球を愛し守るためのステップとして。
見てごらん。
彼がそういいながら、指し示します。
急速に降下し・雲を抜け・大地が迫り・街並みが近づき、一つの家が見えてきます。
その屋根の下には、あなたがいます。
「今現在の自分に、何かメッセージはあるかい?」
今のわたし。
変化の途中にある。
そのまま進め。投げ出すな。変化を受け入れよ。
そして・・・
生まれる前の約束を果たせ。
一つ瞬きをすると、宇宙も地球も消え去っていました。
元の大広間に戻っています。
彼が手を伸ばすと、変わらず輝き続けている星の一部がそのてのひらに降りてきました。
「この光は私。光に対しては闇であり、闇にあっては光である。」
天使は、その手をあなたの額にあてがいました。
光がそっとあなたのうちに入り込んできます。
「お前の内を覗いてごらん。そこにも宇宙があるだろう。
今、見てきたばかりと同じものだ。
この広大な宇宙をお前は旅しているのだよ。
私は闇としてお前に寄り添い、光として導こう。
その額の証が標(しるべ)となる。」
手が離れていくと、星の光はあなたの眉間に吸い込まれて消えていきました。
「そして……天使とは何者か、分かったかね?」
穏やかに笑いながら、彼が問いかけてきます。
私は頷きました。
天使は、私の中の愛。私の中の光。私の中の影。
私自身を見守り導く、私の中に在り私を包み込む魂。魂から生まれたエネルギー。
「さぁ行きなさい、旅が終わる。」
ふと見上げると、玉座にはポセイドン神がふたたび腰掛け、優しい目で私に頷いてくれました。
玉座の裏、星の下には小さめの扉がありました。
あなたはそっとその扉に手をかけます。
扉の間から光があふれ出て、あなたを真っ白に染めました。
私はポセイドン神と天使ルシフェルに頭を下げると、その扉をくぐりました。
《第七夜・終》
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