2009年07月27日
第45話 これからの道[白龍物語]
第45話 これからの道
夜希は、端っこの席でひとり静かに皆の楽しそうな様子を眺めながら披露宴を楽しんでいました。
「夜希先生。…あっ…大神官さま。」
遥珂が夜希に呼びかけて、顔を赤くしました。
夜希は、端っこの席でひとり静かに皆の楽しそうな様子を眺めながら披露宴を楽しんでいました。
「夜希先生。…あっ…大神官さま。」
遥珂が夜希に呼びかけて、顔を赤くしました。
夜希は子どもの頃から世話をしていた遥珂と会えた事を嬉しく感じながら、
「構いませんよ。」
と告げて、隣の開いた席を遥珂がわかるように示しました。
「僕…相談があって。」
「はい、いいですよ。なんでしょうか?」
いつもと変わらぬ夜希の優しい声。
遥珂はほっとしました。
「先日、エリア1を見てきたんです。それで…あの…あそこで働けないかと思って。」
夜希は驚きました。
「エリア1…ですか。」
「あそこの、魂を地球に送り届けている龍たちとか。僕…僕も、そんな仕事がしたいなって思ったんです。他のところはずっと見てきたけど、ぴんと来なくて。」
遥珂は夜希の反応に慌てたように、早口で言いました。
遥珂は、あのあともずっとあちこちを見学して回っていました。
そして最後に残ったのがエリア1でした。
エリア1はこれから地上に生まれる魂たちが過ごすエリア。
生まれてからの人生プログラムの計画をたて、それに最適な家族を選び、つながりを築くための作業を行い、そして実際に生まれ出るまでの日々を過ごす場所。
そのために、無関係なものとのつながりを避けるために、天津神といえども気軽に立ち入る事は許されない場所でした。
むしろ生まれ出る魂たちには、地上でのサポートをする神々、国津神がつく。その連絡とつながりは、担当の神官たちの仕事のひとつでもありました。
先日、廻と遥珂のたっての頼みで夜希が動き、廻のつきそいで遥珂はエリア1を見学してきました。
エリア1に入る時、そして出る時にすべてのオーラのつながりを絶つことが条件でした。
中で働いていた者はすべて神官。
軍のドラゴン部隊がいると聞いていたのですが、それは外縁地域だけの事。
侵入と、間違えて出てしまう魂を防ぐためにわざと勇猛な存在を配置させていたものでした。
案内の神官は言葉少なく、ポイントだけを説明し、質問にはきちんと答えるものの決して余計な事は喋らず。
エリア1の神官たちはそうやって転生する魂たちに余計な情報の負担を与えず、ただ、必要なサポートをするのです。
遥珂は最初その素っ気無さに「ちょっと怖いかな・・・」と思いました。
遥珂の心を惹いたのは、魂たちを地上へ送り届ける-中には、生まれるまでの期間、何度も母親のお腹の中とエリア1を行ったりきたりするものもいる-その仕事でした。
それは、たとえばユニコーン。たとえばコウノトリ。
他にも、いろいろな存在が魂たちの往復をサポートしていて、翼竜タイプのドラゴンや、白龍たちもいたのです。
「…そうですね。」
夜希は考え込みながらゆっくりと説明しました。
「ご存知だと思いますが、エリア1を担当する神官たちは、すべての繋がりを絶っています。
お世話する魂だけとつながり、その魂が生れ落ちて次のサポートにつないだら、またその魂との繋がりをも絶つ…。」
想像以上に孤独な仕事なんですよ。
と、夜希は説明しました。
説明しながらも、アズマ一家のあふれる愛を受けてなおかつ孤独を抱いて育ったこの白龍は、もしかしたらそれが可能な魂を持つのかもしれない…と、心の奥で感じてもいました。
何より、遥珂の世話は夜希がしてきたのです。
いまは離れているとはいえ、遥珂の性格も性質も、夜希は知り尽くしていました。
…あとは、覚悟だけかもしれない。
「僕。ツインの彩河と会いました。でも、彩河は彩河の道があるって。それで思ったんです。僕は僕の道をきちんと捉えよう、と。」
そして探し続けてであったのが、エリア1だった。
夜希はうなずきました。
「それほどおっしゃるなら…。ご両親に相談してからとなりますが…」
「構わないわよ。」
いつの間にか横に来ていたエフェクトが、にっこりと笑いました。
「アズマも、反対しないわ。」
と言って、向こうの方で来客につかまって酒を酌み交わしているアズマを示します。
「遥珂が、遥珂の道をみつけたのなら。行ってらっしゃいって送り出すだけ。」
エフェクトは、遥珂を引き寄せると額にキスしました。
「でも、試してみてやっぱり違うと感じたらうちはいつ戻ってきても構わないわ。…そういう事はできるの?夜希。」
夜希はうなずきました。
「はい。まず、それなりの修行を積んでいただかなくてはなりません。神官としての基本的な修行から始めて、その後希望を出して、さらにその部署での修行となります。」
夜希はわかりやすくかいつまんで説明しました。
「その途中で適性がないとわかれば、替える事も可能ということね。」
エフェクトはうなずきました。
「どう?遥珂。やってみる?」
「はい!」
遥珂は明るく返事しました。
「…ところで。」
こほん。とエフェクトはちょっと目を遠くにやって周囲を見渡してから視線を戻し、小さな声で夜希に聞きました。
「その最初の修行って…もしかして、神官長がやってるの?」
夜希は笑って答えました。
「はい、元神官長ですが…わたしが大神官に就任したことで引退なさいましたので。いまは神官見習いの育成の方を担当されています。」
エフェクトは遥珂の肩を抱いていいました。
「かなり厳しいわよ、遥珂。頑張ってね。」
『僕は、守護龍としてやってみようと思ってるんだ。』
ウェイは、進む道を決めた遥珂に言いました。
『為信お兄さんから話を聞いて、守護龍っていいかも、って思ったんだ。それで、お父さんに相談したら、お父さんが守護している人のところに行って来いって。』
「それ、どこなの?」
『地球のね、小さな島だって。だけどエネルギーは大きいらしいんだ。それにすぐに守護龍になるんじゃなくて、地球の波動に慣れることから始めて、見聞を広げろってさ。その人は、僕が生まれた頃から僕のことを知ってるからって。』
ウェイもまた自分の道、‘やりたい事’を見つけたのでした。
そしてまた。
新たな道を示されていた者たちが居ました。
径と美雨。ふたりは、しばらく伽羅弧を離れる事になったのです。
行き先は、金星。
そこにある大学への留学が、朔間から二人への結婚のプレゼントでした。
つづく。
用語、キャラクター解説はこちら 目次代わりのタイトル一覧は、タグをクリックしてご覧ください。
「構いませんよ。」
と告げて、隣の開いた席を遥珂がわかるように示しました。
「僕…相談があって。」
「はい、いいですよ。なんでしょうか?」
いつもと変わらぬ夜希の優しい声。
遥珂はほっとしました。
「先日、エリア1を見てきたんです。それで…あの…あそこで働けないかと思って。」
夜希は驚きました。
「エリア1…ですか。」
「あそこの、魂を地球に送り届けている龍たちとか。僕…僕も、そんな仕事がしたいなって思ったんです。他のところはずっと見てきたけど、ぴんと来なくて。」
遥珂は夜希の反応に慌てたように、早口で言いました。
遥珂は、あのあともずっとあちこちを見学して回っていました。
そして最後に残ったのがエリア1でした。
エリア1はこれから地上に生まれる魂たちが過ごすエリア。
生まれてからの人生プログラムの計画をたて、それに最適な家族を選び、つながりを築くための作業を行い、そして実際に生まれ出るまでの日々を過ごす場所。
そのために、無関係なものとのつながりを避けるために、天津神といえども気軽に立ち入る事は許されない場所でした。
むしろ生まれ出る魂たちには、地上でのサポートをする神々、国津神がつく。その連絡とつながりは、担当の神官たちの仕事のひとつでもありました。
先日、廻と遥珂のたっての頼みで夜希が動き、廻のつきそいで遥珂はエリア1を見学してきました。
エリア1に入る時、そして出る時にすべてのオーラのつながりを絶つことが条件でした。
中で働いていた者はすべて神官。
軍のドラゴン部隊がいると聞いていたのですが、それは外縁地域だけの事。
侵入と、間違えて出てしまう魂を防ぐためにわざと勇猛な存在を配置させていたものでした。
案内の神官は言葉少なく、ポイントだけを説明し、質問にはきちんと答えるものの決して余計な事は喋らず。
エリア1の神官たちはそうやって転生する魂たちに余計な情報の負担を与えず、ただ、必要なサポートをするのです。
遥珂は最初その素っ気無さに「ちょっと怖いかな・・・」と思いました。
遥珂の心を惹いたのは、魂たちを地上へ送り届ける-中には、生まれるまでの期間、何度も母親のお腹の中とエリア1を行ったりきたりするものもいる-その仕事でした。
それは、たとえばユニコーン。たとえばコウノトリ。
他にも、いろいろな存在が魂たちの往復をサポートしていて、翼竜タイプのドラゴンや、白龍たちもいたのです。
「…そうですね。」
夜希は考え込みながらゆっくりと説明しました。
「ご存知だと思いますが、エリア1を担当する神官たちは、すべての繋がりを絶っています。
お世話する魂だけとつながり、その魂が生れ落ちて次のサポートにつないだら、またその魂との繋がりをも絶つ…。」
想像以上に孤独な仕事なんですよ。
と、夜希は説明しました。
説明しながらも、アズマ一家のあふれる愛を受けてなおかつ孤独を抱いて育ったこの白龍は、もしかしたらそれが可能な魂を持つのかもしれない…と、心の奥で感じてもいました。
何より、遥珂の世話は夜希がしてきたのです。
いまは離れているとはいえ、遥珂の性格も性質も、夜希は知り尽くしていました。
…あとは、覚悟だけかもしれない。
「僕。ツインの彩河と会いました。でも、彩河は彩河の道があるって。それで思ったんです。僕は僕の道をきちんと捉えよう、と。」
そして探し続けてであったのが、エリア1だった。
夜希はうなずきました。
「それほどおっしゃるなら…。ご両親に相談してからとなりますが…」
「構わないわよ。」
いつの間にか横に来ていたエフェクトが、にっこりと笑いました。
「アズマも、反対しないわ。」
と言って、向こうの方で来客につかまって酒を酌み交わしているアズマを示します。
「遥珂が、遥珂の道をみつけたのなら。行ってらっしゃいって送り出すだけ。」
エフェクトは、遥珂を引き寄せると額にキスしました。
「でも、試してみてやっぱり違うと感じたらうちはいつ戻ってきても構わないわ。…そういう事はできるの?夜希。」
夜希はうなずきました。
「はい。まず、それなりの修行を積んでいただかなくてはなりません。神官としての基本的な修行から始めて、その後希望を出して、さらにその部署での修行となります。」
夜希はわかりやすくかいつまんで説明しました。
「その途中で適性がないとわかれば、替える事も可能ということね。」
エフェクトはうなずきました。
「どう?遥珂。やってみる?」
「はい!」
遥珂は明るく返事しました。
「…ところで。」
こほん。とエフェクトはちょっと目を遠くにやって周囲を見渡してから視線を戻し、小さな声で夜希に聞きました。
「その最初の修行って…もしかして、神官長がやってるの?」
夜希は笑って答えました。
「はい、元神官長ですが…わたしが大神官に就任したことで引退なさいましたので。いまは神官見習いの育成の方を担当されています。」
エフェクトは遥珂の肩を抱いていいました。
「かなり厳しいわよ、遥珂。頑張ってね。」
『僕は、守護龍としてやってみようと思ってるんだ。』
ウェイは、進む道を決めた遥珂に言いました。
『為信お兄さんから話を聞いて、守護龍っていいかも、って思ったんだ。それで、お父さんに相談したら、お父さんが守護している人のところに行って来いって。』
「それ、どこなの?」
『地球のね、小さな島だって。だけどエネルギーは大きいらしいんだ。それにすぐに守護龍になるんじゃなくて、地球の波動に慣れることから始めて、見聞を広げろってさ。その人は、僕が生まれた頃から僕のことを知ってるからって。』
ウェイもまた自分の道、‘やりたい事’を見つけたのでした。
そしてまた。
新たな道を示されていた者たちが居ました。
径と美雨。ふたりは、しばらく伽羅弧を離れる事になったのです。
行き先は、金星。
そこにある大学への留学が、朔間から二人への結婚のプレゼントでした。
つづく。
用語、キャラクター解説はこちら 目次代わりのタイトル一覧は、タグをクリックしてご覧ください。
Posted by 町田律子(pyo) at 19:00│Comments(2)
│龍物語
この記事へのコメント
>生まれ出る魂たちには、地上でのサポートをする神々、国津神がつく
>いろいろな存在が魂たちの往復をサポート
生まれ出る魂には、様々なサポートがついているのね。
あらためて読み返すとすばらしいことだわ。
全てのサポートに感謝。
>いろいろな存在が魂たちの往復をサポート
生まれ出る魂には、様々なサポートがついているのね。
あらためて読み返すとすばらしいことだわ。
全てのサポートに感謝。
Posted by w_m at 2009年07月28日 17:33
w_mさん:
そうなんですね~。ほんと凄いわーって思っちゃった。
そうなんですね~。ほんと凄いわーって思っちゃった。
Posted by pyo at 2009年07月28日 19:34
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。