2009年06月14日
黒龍物語27-氷の針
第27話 氷の針
「お帰りなさい。お茶でもどう?」
リビングに通じるドアを開けたとき、いつものように光の中でエフェクトが笑いかけました。
為信はびくっとして立ち止まります。
「お帰りなさい。お茶でもどう?」
リビングに通じるドアを開けたとき、いつものように光の中でエフェクトが笑いかけました。
為信はびくっとして立ち止まります。
これは…まだ夢の続き?
為信は連続する悪夢の淵からやっと醒めて北牢を出され、無事に我が家へと帰ってきたところでした。
「為信。」
後ろから入ってきたアズマがぽん、と背中を軽く叩きました。
「あ…うん。」
その間にエフェクトは彼の前に来ていました。
「キスさせて。」
いつもの母の笑顔。
為信はちょっと背をかがめて額に母のキスを受け、次にぎょっとして母の顔をみました。
泣いている…
エフェクトの目からぽろぽろと涙がこぼれて、慌てたエフェクトは手できゅっと涙を拭きました。
「ごめんなさい。あなたが無事に帰ってきてくれて、嬉しいのよ。」
まだ涙が浮かぶ目を嬉しそうに輝かせながらにっこりと笑った母をみて、為信は自分がどれほど大変な状況だったのか、どれほど心配をかけていたのか、思い知りました。
「…ごめんなさい。心配かけて。」
どういたしまして。
おかげで今日のお茶はいつもの数倍は美味しいわよ。
母はいつもの明るい笑顔に戻っていました。
こん、こん。
為信の咳は、その日から時々出るようになりました。
はじまりは、誰も気にしないほど、ほんのちょっと。
そのうち、誰もが気になるほどに。
日を追うほどに、その咳こみは激しくなってきました。
まるで喘息の発作のような咳や苦しい呼吸。
その内、血でも吐くのじゃないかと思えるほどの激しい咳き込み。
その発作の連続に、為信は人を避けて部屋にこもるようになってきました。
「身体の中に、氷で出来た針のようなものが視えるわ。
内臓のあちこちに突き刺さっているんです。」
エフェクトは朔間に相談しました。
「自己否定によるものです。まだ、悪夢から完全に抜けてないのですよ。」
ああ、とエフェクトはため息をつきました。
普段の生活の中でも、為信はびくっと反応することがあり。
みてきた悪夢と生活が何度も重なりあっては境目がなくなり、
意思の力でなんとか悪夢を追い払って過ごしている…
為信の、闇を映し出すその黒い瞳は、さらに深い闇に沈んだままのようでした。
ある夜。
寝たまま咳き込みが続く為信の身体を、エフェクトはずっとヒーリングし続けていました。
エフェクトの手が為信を温め、身体の中に突き刺さった氷が溶け出します。
すると咳がおさまり、穏やかな寝息に変わりました。
しかしそれも一時。
ほっとしたエフェクトが手を離すと、しばらくしてまた氷が育ち、咳が始まります。
その、繰り返し。
「エフェクト。」
アズマが肩に手をかけました。
「無理だ。自分で自分を攻撃し続けているんだ。乗り越えなければ消えはしない。」
エフェクトは首を横にふりました。
「せめて…せめて一晩、穏やかに寝かせてあげたい。そう思うのも駄目なの?」
ああ。
ゆっくり寝かせてやりたいな…
アズマはそういいながら、エフェクトの肩を抱いて、その心の涙を受け止めました。
つづく。
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為信は連続する悪夢の淵からやっと醒めて北牢を出され、無事に我が家へと帰ってきたところでした。
「為信。」
後ろから入ってきたアズマがぽん、と背中を軽く叩きました。
「あ…うん。」
その間にエフェクトは彼の前に来ていました。
「キスさせて。」
いつもの母の笑顔。
為信はちょっと背をかがめて額に母のキスを受け、次にぎょっとして母の顔をみました。
泣いている…
エフェクトの目からぽろぽろと涙がこぼれて、慌てたエフェクトは手できゅっと涙を拭きました。
「ごめんなさい。あなたが無事に帰ってきてくれて、嬉しいのよ。」
まだ涙が浮かぶ目を嬉しそうに輝かせながらにっこりと笑った母をみて、為信は自分がどれほど大変な状況だったのか、どれほど心配をかけていたのか、思い知りました。
「…ごめんなさい。心配かけて。」
どういたしまして。
おかげで今日のお茶はいつもの数倍は美味しいわよ。
母はいつもの明るい笑顔に戻っていました。
こん、こん。
為信の咳は、その日から時々出るようになりました。
はじまりは、誰も気にしないほど、ほんのちょっと。
そのうち、誰もが気になるほどに。
日を追うほどに、その咳こみは激しくなってきました。
まるで喘息の発作のような咳や苦しい呼吸。
その内、血でも吐くのじゃないかと思えるほどの激しい咳き込み。
その発作の連続に、為信は人を避けて部屋にこもるようになってきました。
「身体の中に、氷で出来た針のようなものが視えるわ。
内臓のあちこちに突き刺さっているんです。」
エフェクトは朔間に相談しました。
「自己否定によるものです。まだ、悪夢から完全に抜けてないのですよ。」
ああ、とエフェクトはため息をつきました。
普段の生活の中でも、為信はびくっと反応することがあり。
みてきた悪夢と生活が何度も重なりあっては境目がなくなり、
意思の力でなんとか悪夢を追い払って過ごしている…
為信の、闇を映し出すその黒い瞳は、さらに深い闇に沈んだままのようでした。
ある夜。
寝たまま咳き込みが続く為信の身体を、エフェクトはずっとヒーリングし続けていました。
エフェクトの手が為信を温め、身体の中に突き刺さった氷が溶け出します。
すると咳がおさまり、穏やかな寝息に変わりました。
しかしそれも一時。
ほっとしたエフェクトが手を離すと、しばらくしてまた氷が育ち、咳が始まります。
その、繰り返し。
「エフェクト。」
アズマが肩に手をかけました。
「無理だ。自分で自分を攻撃し続けているんだ。乗り越えなければ消えはしない。」
エフェクトは首を横にふりました。
「せめて…せめて一晩、穏やかに寝かせてあげたい。そう思うのも駄目なの?」
ああ。
ゆっくり寝かせてやりたいな…
アズマはそういいながら、エフェクトの肩を抱いて、その心の涙を受け止めました。
つづく。
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Posted by 町田律子(pyo) at 19:00│Comments(0)
│龍物語
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。