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2009年07月06日

第10話 お見舞い[白龍物語 第1章最終話]

第10話 お見舞い

こん、こん。と、開いたままの病室のドアがノックされました。
零が顔をだして「こんにちは」と挨拶します。

「やぁ。よくきたね。」
とアズマが声をかけると、零はうしろに引っ込んだままの美雨を中にいれました。

第10話 お見舞い[白龍物語 第1章最終話]

「美雨。」
娘の顔を見たエフェクトが嬉しそうに笑顔を向けます。

遥珂の手をひいたまま、零にうながされてやっと病室に入ってきた美雨は、母の顔をみてぽろぽろと涙をこぼし始めました。

「ご…ごめんなさ…わたし…ずっとお見舞いにこなくて…」
やっと搾り出すように美雨が話すのを、両親はにこにこと見ていまいた。


アズマは立ち上がって娘を軽く抱きしめると優しく背中を押しエフェクトの傍にいかせました。
エフェクトはまだ動けないベッドの中から、手をのばして美雨の手を握りました。
「美雨。キスさせてちょうだい。」

美雨は慌ててハンカチを取り出して涙をふき、母の唇に自分の額をもっていきました。
母に触れた途端、すーっと心が落ち着くのを感じます。

「お母さま。ごめんなさい。私、怖かったんです。…怖くて…」
何が怖かったのか、美雨は口にすることができませんでした。

昏睡状態に陥っていたエフェクトの顔はまるで死人のようでした。
あのまま目覚めてないと聞かされ、二度と母の笑顔を見ることができないかもしれない…美雨はそれがとてつもなく怖かったのです。

 でもそれはお母さまの心配というより、私自身の心配なんだわ。

美雨はそんな自己中心な想いに囚われていた自分がすごくいけない者のような気がして、たまりませんでした。


アズマはそっと美雨の肩に手をかけました。
「すまなかったな。怖い思いをさせた。」

いきなり父が目の前で消えたこと。
そのまま連絡もとれず、エリア4の調査にいったまま行方不明だと告げられたとき。

その恐怖は、父の身を案ずるというよりも自分の周りの壁がくずれてひとり放りだされたかのような恐怖でした。

何がおこったのかわからないまま、美雨はやはりそんな自分自身に非があるかのように受け止めていました。

しかし今こうして笑顔の両親をみると、そんな恐怖に囚われて動けなかった己の弱さが恥ずかしくなってしまいます。


「美雨。ありがとう。私がいない間、家を守ってくれてたのね。」
エフェクトはにっこりと笑いかけました。

美雨は心の中の葛藤を表に出すまいと必死になりながら、
母に誉められたのが嬉しくて笑顔になりました。

そしてやっと、そばにいる小さな赤ちゃんの顔を見る余裕が出ました。

「…え?」

赤ん坊は、静かに、目覚めていました。
小さなその身体に、ぱっちりとした目。
そのつぶらな瞳は、右目と左目の色が違っていました。

「…どうやら、黄龍と青龍がまざっちゃったようだな。」
アズマは興味しんしんといった様子でみている零に、子どものオッドアイについて説明しました。

「おじさま、名前はつけられたの?」
零はにっこりとききました。

「ああ…そうだな…」
アズマは手を伸ばすと赤ん坊のエネルギーを読み取り直し、そして言いました。

「ウェイだ。どうやら標(しるべ)となる子のようだ。」
「ウェイ…。」

美雨は生まれたての弟の顔をもう一度のぞきこんで、ふと横にいる母の顔をみました。
いつの間にかエフェクトは静かに寝ていました。

「エネルギーが戻りつつあるからな。急激な変化なので、眠くなるんだろう。」

ちょうどその時、廊下からアズマにそっと合図があり、アズマは抱き上げていた遥珂を下ろすと再び部屋の外で医務官との打ち合わせにいってしまいました。


「…どうする?帰る?」
零が小さく声をかけると、美雨は首を横にふりました。

「…もう少しここにいます。」
美雨は、そうしてただ、静かに寝ている母の顔をじっと見つめていました。




その後。
エネルギーは戻ったものの、傷の回復とリハビリに時間がかかってしまったエフェクトを、美雨は毎日遥珂をつれてお見舞いにいきました。

慣れてくると遥珂は医務院内を覚え、一人で歩き回るようになってしまいました。
目を離すと廊下に出ているので美雨は慌てましたが、医務官たちは遥珂を見かけると誰もが可愛がってくれました。

そのうち栗毛色の髪と目をしたハタという若い医務官が遥珂の能力に気がつきました。
そして美雨を誘い、ちょっとした実験とアドバイスをしてくれたのです。

遥珂は、まるでこうもりのように自ら出したエネルギーで物との距離を瞬時に測り、把握できる能力があったのです。

ただ、幼くてそれが何なのかを見極め切れていないだけ。
その指導さえきちんとできれば、何の問題もなく走り回れる子なのでした。


白龍物語 第一章「新たな子たち」 完

第二章につづく。

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つぶやき。
つぶやき。(2013-02-21 14:21)


Posted by 町田律子(pyo) at 19:00│Comments(6)龍物語
この記事へのコメント
Wayちゃんかー。
かわいい名前ですね(^^)
Posted by 雫 at 2009年07月09日 01:22
一滴ちゃん:
 はーい、ウェイちゃんです。
 なんでいきなり英語なんだ???と思ったけど(笑)
 みんな漢字で名前つけてるのにねぇ。
Posted by pyo at 2009年07月09日 14:34
pyoさん、ちと質問ですが、
ウェイちゃんはオッドアイとのこと、
青と黄色の目ですか?

あるいは、ウロコの色も青と黄色が混ざったような色でしょうか?

ちょっと気になったもので(^^;)
いや、たいしたことではないんですがね。
へへへへ。
Posted by 雫 at 2009年07月12日 22:43
一滴ちゃん:
 ウェイは、しぶい金色の目、もう片方は沖縄の海のような鮮やかなブルーです。
 髪は淡い…薄いブルー。白より青っぽいかな、程度の。
 鱗は青いんだけど、金色っぽく光ります。
 飛ぶとエネルギーの軌跡は金…黄龍ですね。
 どこかでみかけた?
Posted by pyopyo at 2009年07月13日 01:06
pyoさん
ウロコは青ベースの、金色っぽく光る・・
ですか。

去年ですが、伽羅弧っぽい山に寝そべる
青(みどり?)と黄色のウロコが混ざった
(二色が混ざったわけじゃなく。それぞれの色が出てた)
龍を見たもので・・。
それを昨日思い出しただけです。

二色って。ウェイ?と思って(^^;)

ありがとうございました!
Posted by 雫雫 at 2009年07月13日 05:32
一滴ちゃん:
 あ~そういえば子どもの頃はそれぞれの色が出た鱗してました。
 つい先日どかんと変容して…おっと。(^×^)
 この先は物語の先になっちゃうので~。まだナイショ。

 それにしても、昨年みた?
 時間はずしてるね(笑)凄いわ~。
Posted by pyo at 2009年07月13日 10:14
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。
 
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