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2009年07月09日

第14話 浄化の雨[白龍物語]

第14話 浄化の雨

エリア1に面した山の中腹。
クリスタル城につながるそのあたりに、知る人しかその場所をなかなか確認できない、月読尊の道場がひっそりと存在しています。

そこは陰陽師の道場。
月読尊・アーシャスの長男、径はここで修業をしていました。

滝遊び
「滝遊び」 photo by TRO

径は、心の中のにがにがしい思いを噛み締めながら、楽しそうに遊びまわる一行を遠くから眺めていました。

彼が修行をしている陰陽師の道場には、そのふもとで遊びながら学んでいる遥珂やウェイたちの声やエネルギーがどうしても届いてしまうのです。
それは彼が修行によりエネルギーを敏感に拾えるようになったという証でもあったのですが。

さてそこで様子を見に行ってみると、弟の廻までもが教育係と混じって一緒に二人の面倒をみている。

さらに苦々しい思いが径の中にこみ上げてきました。
「…たかだか、拾った龍のために!」

悪く受け取ろうと思えばいくらでも悪い解釈ができる、騒ぎが絶えない軍神アズマの一家。
しかしそう思えば思うほど、あの一家の笑顔と結びつきは不思議なほど輝いていました。

「神々としては軽率すぎる。」

 人間や堕天使の様相のある神官なぞ家にいれて家族同様に扱い、
 さらに朔間の寺子屋授業も断って日々野山や海で遊ばせてるだけ。
 それも拾った見えない龍やしゃべれない不具の子のために!

径は、アズマが長城の上でエネルギーチャージしている姿も嫌っていました。
なぜ、あんなに無防備にみっともない姿をさらすのだろう、曲がりなりにも伽羅弧軍を率いる軍神の立場があるクセに、と。

さらに気持ちよさげに伽羅弧の上空を飛び回る黄龍のエフェクトが、たまに騒がしく海に飛び込むのも気に入らない。
黄金色の龍が飛ぶ時に、その鱗がまぶしく反射する光すらもイラつくものでした。

そしてさらに気に入らないのは、エフェクトがエリア2や地球など人間たちの魂の居場所へ平気で入っていく事。



…しかし、本当の原因は。

径自身、見ないようにと目を背け続けていた事。

弟弟子として一時期 陰陽師の修行を一緒にしていた、為信。
彼のせいでした。

 …なぜあんなにも軽々と五行を操る力をみせつけてくれたのか。

修行に来た時にすでに戦士としても黒龍としてもトップクラスの腕前を持っていた為信は、しかしそれでも奢る事なく静かに径の下で学び始めたのですが…
すでにその時点で、能力・技術とも径をはるかに上回っていたのです。

アマテラスの御子、それも長男としてかしずかれて育った径は、父アーシャスのもとで長年真面目に修行し、多少なりともエリート意識を持っていました。

ところがその修行の成果として手に入れた能力など、黒龍の為信にとっては基本ですらなかった…それほどに高い能力を目の前でみせてくれた為信に対し、径は激しい怒りを覚えていました。




「…そんな!お兄さまは軍隊では一兵卒として扱われていたわ。ご自分の努力で、あそこまで力をつけられたのよ!」

ある日、ばったりと森の遊歩道で出あった美雨と径は、径のちょっとしたイヤミな言葉からそのうち激しいやりとりを始めてしまいました。

「軍神の御子が軍に入って一兵卒だって?ありえないだろう。ふりだけして裏でいろいろやったんだろうさ。親の力を借りて。」

美雨はまたも顔が怒りで赤くなるのを感じていました。

 なぜこのひとはこんなに突っかかってくるんだろう…。

美雨には理解できませんでした。

「…そしてその挙句、事件を起こして。威厳をたもつために軍歴も消して、伽羅弧から追放だ。軍神スサノオさまも大したものだよ。」

 こんな…こんな曲がった解釈されてるなんて!!

多くの本を読んで言葉を増やし表現力が豊かになった美雨でしたが、ここまで酷い悪意の解釈をされると、さすがに言葉がみつかりませんでした。

「それで?君も龍なんだろう?何か能力があるのかい?」

径は美雨が黙っているのをいい事に、調子にのって言葉が止まらなくなっていました。

「ええ。ありますわ。」

その途端、いきなり雲があつまり、径の頭の上に滝のようなバケツをひっくり返したようなすごい雨が降ってきました。

「頭を冷してください!!」
美雨は目に涙を浮かべながら、走り去っていきました。

いきなり濡れネズミ状態になった径は走り去る美雨を呆然と見送り、やがてそのヒーリングの雨に打たれて心が落ち着くと、なんだかおかしくなってきました。

 …何をカリカリしてしまったんだろうな、俺は。
 気にする事ないじゃないか。
 為信は気のいい奴だったし。
 もう地球にいっちまったんだし。

径はそんな気持ちの切り替えが、実は美雨が降らせた雨の浄化力によるものだとは、しばらく気付きませんでした。

そしてその事に気づいてから。
径は、美雨がやたら気になって仕方なくなってしまったのです。

ただその頃にはもう美雨は径をみかけるとすぐに姿を隠すほどに嫌ってしまっていたようなのですが。


つづく。
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つぶやき。(2013-02-21 14:21)


Posted by 町田律子(pyo) at 19:00│Comments(2)龍物語
この記事へのコメント
>径は、美雨がやたら気になって仕方なくなってしまったのです。


おっとぉーーーー!!!!!(笑)

ちょっとちょっとー!(^0^)
なんだか勝手に、照れてしまいました・・・。
Posted by 雫 at 2009年07月09日 21:10
一滴ちゃん:
 うふふ、気になっちゃうよねぇ。^^
Posted by pyopyo at 2009年07月09日 23:26
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。
 
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