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2009年07月23日

第37話 朝食[白龍物語 第5章]

白龍物語
第5章 名乗りの剣


第37話 朝食

優しい夜の闇が徐々にあけゆく朝の光の前触れを受けて退き始めた頃。
高い嶺の上にある長城には夜明け前の冷えた風が吹き渡っていきます。

そこに、どべ~っと寝そべる一匹の龍。

第37話 朝食[白龍物語 第5章]

そこにやってきた金色の瞳の持ち主が、寝ている青龍をけっ飛ばしました。
「通路の邪魔。」

ふん、と龍が鼻息をとばします。
「通行できる分は残してるさ。」

「役立たず。」
エフェクトはアズマの横に座ると、だらんと転がっていた髭を手にとってひっぱりました。

「子どもたちを残したまま、先に死んでどうするのよ!」
「…すまん。」

「何が守護の者よ!…昔のこととはいえ、妻を湖の底にしずめたまま、ほったらかしてたわけ?!」
エフェクトが髭をいじりまわしたので、アズマはくしゅんと小さくくしゃみをしました。

そして観念して人の姿にもどり。
龍にもたれていたエフェクトがバランスをくずして倒れそうになるのを手で支えてちゃんと座らせました。

「エフェクト。あれは俺が人間だったころのことだ。バルを探し出す前に、俺も敵の手にかかって死んでしまった。…だが。」

いまお前が同じような目にあったとしたら、俺は地獄の底まで探しに行く。
だから。
「頼むから、イザナミのように逃げたり隠れたりはしないでくれ。」

怒っていたエフェクトは、ふっと表情を崩して「うん。」とうなずきました。

そしてまた
「あの時、怨霊が美雨にも襲いかかってたらどうする気だったのよ。」
と、ふくれっ面。

「その時はその時。まぁ、王子さまが二人もいるからな、どうにか守ってくれたと思うが?」
アズマはにやりと笑いました。

「さぁねぇ。たとえば美雨が地獄に落ちたとして、あの二人は探しにいってくれるかしら。」
と、エフェクト。

「…地獄に落ちてほしくはないがな。うちのお姫さまには。」

アズマはまた龍の姿にもどると、エネルギーチャージを再開しました。
再生したばかりで、まだエネルギーの補充が必要だったのです。

「そうね。」
エフェクトは再び青龍にもたれると、夜明け間近な伽羅弧の空を眺めました。



朝目覚めた美雨が長城に出てみたとき。
そこには青龍と黄龍、2体の龍がねそべっていました。
おかげで完全に通路はふさがれ、見周りの兵士は龍の手前でUターンしている状況。

「お、お父さま、お母さま?!」
美雨の声に目覚めたエフェクトは「あ、やべ。寝ちゃってた。」と姿を戻し。

「美雨~。心配かけてごめんね~」
と、娘を抱きしめて額にキスをしました。

後ろから走ってきたウェイも抱きしめて、キス。
アズマも笑って起き上がりました。

「おなかすいちゃったわ。何かあるかしら。」

エフェクトはけらけらと言いながらキッチンに入り込みました。
ちょうど焼きたてのパンを切り分けているところを邪魔して端っこをつまんで食べ始めます。

「お、奥方様。エフェクトさま。すぐにお持ちいたしますのに。」
慌てた女官のエマに手をふって「おいし♪」と、パクつきます。

「うまそうだな。俺ももらおうか。」
アズマもあとから入ってきて、同じようにパンを横からつまみました。

不満そうなエマの顔をみて、アズマは笑いだします。
「これ位でキリキリしてたら、うちではつとまらんぞ。あ、スープもくれ。」

若い女官のサラが愉快そうな表情を抑えながらスープをいれてアズマとエフェクトに出しました。

それを持ってアズマがダイニングの方に移動したのでエフェクトも腰をあげ、
エマが慌ててダイニングに料理を運んでいきます。

久しぶりの家族の朝食が始まりました。

「そうか。遥珂は行ったか。」
ウェイから話をきいたアズマは頷きました。
「もう砂漠は完全に消えたようだ。ぎりぎりだったな。よく決断した、美雨。」

美雨はうれしそうにうなずきました。
「いまはどうしてるか…わからないけど。でも、クリスタルを持って行ってくれたから、いつかきっと連絡があると信じています。」

エフェクトはうれしそうにいいました。
「よくクリスタルの事に気づいてくれたわ。思いもよらなかったわよ。」

それに…と、ウェイの方を向いていいました。
「よく、1/3づつ分けようなんて咄嗟に思いついたこと。よくやったわ、ウェイ。」

ウェイも嬉しそうに頷きました。
『以前から考えてたんだ。ほらあの式典から。クリスタルがあるのと無いのだけで変わるなら、遥珂にわけられないかな、って。やってみたら…簡単だった。』

それぞれは、それぞれの心で遥珂への想いを感じていました。


「ところで。」
アズマが言いました。
「径と廻にはお礼を言わなきゃな。ちょっとしたパーティでも開こうか。」

「ええ…でも…」
美雨はいいにくそうに下を向きました。
「どうしたの?」
「径さん…あのあとずっと見かけなくて。忙しいのかも…。」

この数日間。
廻は毎日顔を出して美雨とウェイを慰めたり元気づけようと細かく世話をしてくれていたのですが、径は全くというほど姿をみせていませんでした。

「お嬢さま、噂になっておりますよ。」
女官のサラがつい横から口をだし、慌てたエマに抑えられました。

「どういう噂?」
美雨も慌てて聞きなおします。

「すいません、気配りの効かないもので。」
女官たちはすぐにキッチンに退きました。
どうやら向こうでエマがサラを叱っている様子。

「ま。二人が入れ替わり立ち替わりエスコートしてたら、噂にもなるでしょうね。」
エフェクトはけろっと言って、真っ赤になった美雨を楽しそうに見ました。

「…お母さまはどうでしたの?お父さまとのなれ染め。私、聞いたことありませんわ。」
美雨に返されて、こんどはアズマとエフェクトが慌てる番。

まさか先に子どもを作ってから…だったともいえず。
「ま、まぁ、あまり参考には…ならないかも。」
と、誤魔化しました。


「失礼します。医務官がお見えです。」
女官の声とともに医務官ハタが大股でつかつかと入ってきました。

「エフェクト様!お捜ししました。再生は無事すみましたが、せめて退院の許可をおとりになってからお帰りになってください。」

ハタの言葉に、全員の視線をあびて慌てたのはエフェクト。
「あ、ごめーん。ちょっとね、外出…。」

「すぐにお戻り…いただくほどでもないのですが。いいですか。あと3日ほどは、海には飛びこまないでくださいね。」

一瞬間をおいて、一同、大笑いしたのでした。


つづく。
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つぶやき。
つぶやき。(2013-02-21 14:21)


Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(0)龍物語
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。
 
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