2009年07月30日
第3話 零の覚悟[黒龍物語番外編2]
第3話 零の覚悟
さらに月の光さえも届かない滝の間の岩棚で。
零はひとりで泣いていました。
「違う。」
と、つぶやきます。
「いつも隠れて見てるばかりで。自分の心を見つめてないのは、私も同じじゃない…。」
さらに月の光さえも届かない滝の間の岩棚で。
零はひとりで泣いていました。
「違う。」
と、つぶやきます。
「いつも隠れて見てるばかりで。自分の心を見つめてないのは、私も同じじゃない…。」
そして、まだまだ楽しそうに続く宴の様子を見下ろします。
私は、径のように愛せるかしら?
例え相手が、ウジのわく状態になったとしても。
零もまた、径の行動に己の「愛する心」が本物なのかと、大きく揺さぶられたひとりでした。
披露宴のあと。
浴びるほど酒をのんだ為信は、翌日は二日酔いで情けない一日を過ごし。
最後は迎え酒を飲んで寝なおしたところを黄龍のエフェクトに窓からさらうように連れ出されて海に突っ込まれました。
それでも惨めな気分をまだ抱えたまま。
「俺、帰るわ。」
と、ぼそっとつぶやくようにいって、為信はエリア4の深部へと消えていきました。
やがて。
径と美雨が金星へと出発し、遥珂も家を出て神官見習いとなり。
いよいよ、ウェイも地球へと出発することを決めたある日のこと。
エフェクトは、径と美雨の新居のバルコニーでぽつねんと座って景色を眺めている零のそばに、ふいに現れて座りました。
二人で、黙って見晴らしのいい景色を眺め、滝の音を聞きます。
「…おばさま。」
零は、ぽつんと聞きました。
「彼は守護する存在と会話ができてないのね?」
エフェクトは空を見上げて、飛んでいく鳳凰・円の七色の光の軌跡を目で追いながら頷きました。
「ええ。どうやらそのようね。…うまくつながれなくて焦っているわ。」
零はその意味を理解していました。
守護する地上の存在とつながれなければ、大国主尊を継いだ彼の立場はかなり苦しいものになると。
それでも聞いてみます。
「あのまま国津神の役割が果たせなくなったら、彼はどうなるの?」
そうね…。
エフェクトは目をつぶって考えました。
魂はその役割を承認した。
なのに地上の存在の心は承認していないという。
魂と心がうまくつながっていない。
その地上の存在をサポートできていない。
それが為信の苦しい現状でした。
それは為信に守護の力がないと同じこととなり。
このままでは地上の存在と連動して果たしていかなければならない役割が、最悪の場合は全く果たせないこととなります。
「多分、神々の契約違反。…かなり厳しい罰を受けることになるでしょうね。」
零は、エフェクトの言葉に身体がぶるっと震えるのを感じました。
「…それは…」
「ええ。ここで立ち直らせるために与えられた刑とは全然意味が違うわ。」
約束を違えて向き合わない天部への罰則はそれは厳しいものだという…。
もしかしたら魂をばらばらにされて、地獄にばら撒かれるかもしれない。
…そうなれば地獄の亡者たちの餌となるのでしょう。
そしてまた地獄に魂は戻り、何度もそれを繰り返す可能性もあり。
「…おばさまは、それで平気なの?」
エフェクトは、零を見ました。
その金色の瞳は、冷静に零を観察しています。
しかし、声は優しいものでした。
「まだ、そうと決まったわけじゃないのよ。…もう少し時間はあるわ。
余裕があるというほどではないけど。」
それに。
…もう黒龍フェイとの約束は果たした。
私はもうこれ以上あの魂に手を出す事はできない…。
エフェクトは目をつぶって可愛かった小さな為信の姿を思い出しました。
そして、何度も苦しみながら試練を乗り越えてきた姿も思い出します。
エフェクトはふっきるように目をあけ、ふたたび零を見ました。
「それで、あなたは?」
エフェクトは笑いもせず怒りもせず、ただ、冷静に零に問いかけました。
零はこの言葉に、貫かれたようなショックを受けました。
私は…
私は、この能力を使って彼をリセットする事はできる。
例えば伽羅弧を去る前に…いいえ!
かつて母・紫乃に言われた言葉を思い出します。
”だからといって彼の魂の学びを邪魔しちゃいけないわ。”
”待つのよ。ただ、信じて待つの。”
自ら闇に落ちた父を母が何万年も待ち続けたように、私は…待てる?
封印された母を父が闇の中で待ち続けたように…待てる?
「いいえ。待てないわ。」
零は目に涙を浮かべたままはっきりといいました。
そして、うなずいたエフェクトの目をはっきりと見て涙を拭き、
挑むような目をして立ち上がります。
振り向くと、後ろにアーシャスと紫乃が立っていました。
「お父さま。お母さま。私、彼の元へいきます。」
はっきりと告げた零の言葉に、両親はやさしく微笑んで娘を抱きしめました。
「愛し子よ。お前の幸せを見守っている。いつでもな。」
父の低い声が、零の中にずん、と響きます。
紫乃は、娘に一本の枝を手渡しました。
「榊?」
零は不思議そうに母を見ます。
「これはあなたの役にたつでしょう。持ってお行きなさい。
…零。
あなたは私たちの光。
そして0という数字は輪=和。
全ての始まりそして終わり。
あなたの名の意味を忘れないようにね。」
こうして、零もまた伽羅弧を旅立ちました。
為信への愛を自ら認め、彼を助けるために。
つづく。
私は、径のように愛せるかしら?
例え相手が、ウジのわく状態になったとしても。
零もまた、径の行動に己の「愛する心」が本物なのかと、大きく揺さぶられたひとりでした。
披露宴のあと。
浴びるほど酒をのんだ為信は、翌日は二日酔いで情けない一日を過ごし。
最後は迎え酒を飲んで寝なおしたところを黄龍のエフェクトに窓からさらうように連れ出されて海に突っ込まれました。
それでも惨めな気分をまだ抱えたまま。
「俺、帰るわ。」
と、ぼそっとつぶやくようにいって、為信はエリア4の深部へと消えていきました。
やがて。
径と美雨が金星へと出発し、遥珂も家を出て神官見習いとなり。
いよいよ、ウェイも地球へと出発することを決めたある日のこと。
エフェクトは、径と美雨の新居のバルコニーでぽつねんと座って景色を眺めている零のそばに、ふいに現れて座りました。
二人で、黙って見晴らしのいい景色を眺め、滝の音を聞きます。
「…おばさま。」
零は、ぽつんと聞きました。
「彼は守護する存在と会話ができてないのね?」
エフェクトは空を見上げて、飛んでいく鳳凰・円の七色の光の軌跡を目で追いながら頷きました。
「ええ。どうやらそのようね。…うまくつながれなくて焦っているわ。」
零はその意味を理解していました。
守護する地上の存在とつながれなければ、大国主尊を継いだ彼の立場はかなり苦しいものになると。
それでも聞いてみます。
「あのまま国津神の役割が果たせなくなったら、彼はどうなるの?」
そうね…。
エフェクトは目をつぶって考えました。
魂はその役割を承認した。
なのに地上の存在の心は承認していないという。
魂と心がうまくつながっていない。
その地上の存在をサポートできていない。
それが為信の苦しい現状でした。
それは為信に守護の力がないと同じこととなり。
このままでは地上の存在と連動して果たしていかなければならない役割が、最悪の場合は全く果たせないこととなります。
「多分、神々の契約違反。…かなり厳しい罰を受けることになるでしょうね。」
零は、エフェクトの言葉に身体がぶるっと震えるのを感じました。
「…それは…」
「ええ。ここで立ち直らせるために与えられた刑とは全然意味が違うわ。」
約束を違えて向き合わない天部への罰則はそれは厳しいものだという…。
もしかしたら魂をばらばらにされて、地獄にばら撒かれるかもしれない。
…そうなれば地獄の亡者たちの餌となるのでしょう。
そしてまた地獄に魂は戻り、何度もそれを繰り返す可能性もあり。
「…おばさまは、それで平気なの?」
エフェクトは、零を見ました。
その金色の瞳は、冷静に零を観察しています。
しかし、声は優しいものでした。
「まだ、そうと決まったわけじゃないのよ。…もう少し時間はあるわ。
余裕があるというほどではないけど。」
それに。
…もう黒龍フェイとの約束は果たした。
私はもうこれ以上あの魂に手を出す事はできない…。
エフェクトは目をつぶって可愛かった小さな為信の姿を思い出しました。
そして、何度も苦しみながら試練を乗り越えてきた姿も思い出します。
エフェクトはふっきるように目をあけ、ふたたび零を見ました。
「それで、あなたは?」
エフェクトは笑いもせず怒りもせず、ただ、冷静に零に問いかけました。
零はこの言葉に、貫かれたようなショックを受けました。
私は…
私は、この能力を使って彼をリセットする事はできる。
例えば伽羅弧を去る前に…いいえ!
かつて母・紫乃に言われた言葉を思い出します。
”だからといって彼の魂の学びを邪魔しちゃいけないわ。”
”待つのよ。ただ、信じて待つの。”
自ら闇に落ちた父を母が何万年も待ち続けたように、私は…待てる?
封印された母を父が闇の中で待ち続けたように…待てる?
「いいえ。待てないわ。」
零は目に涙を浮かべたままはっきりといいました。
そして、うなずいたエフェクトの目をはっきりと見て涙を拭き、
挑むような目をして立ち上がります。
振り向くと、後ろにアーシャスと紫乃が立っていました。
「お父さま。お母さま。私、彼の元へいきます。」
はっきりと告げた零の言葉に、両親はやさしく微笑んで娘を抱きしめました。
「愛し子よ。お前の幸せを見守っている。いつでもな。」
父の低い声が、零の中にずん、と響きます。
紫乃は、娘に一本の枝を手渡しました。
「榊?」
零は不思議そうに母を見ます。
「これはあなたの役にたつでしょう。持ってお行きなさい。
…零。
あなたは私たちの光。
そして0という数字は輪=和。
全ての始まりそして終わり。
あなたの名の意味を忘れないようにね。」
こうして、零もまた伽羅弧を旅立ちました。
為信への愛を自ら認め、彼を助けるために。
つづく。
Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(2)
│龍物語
この記事へのコメント
なぜだか為信の苦しい状況と、零ちゃんの決心に涙がでました☆
Posted by minto at 2009年07月30日 08:24
mintoさん:
ありがとうございます。
よかったら二人に応援エネルギー送ってください♪
ありがとうございます。
よかったら二人に応援エネルギー送ってください♪
Posted by pyo at 2009年07月30日 13:23
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。