2009年08月12日
第20話 視野[赤龍物語]
第20話 視野
医務院の美雨の病室に着くと、美雨は医師と看護士に囲まれて、何か処置を受けてるようでした。
エフェクトは廊下からその様子をみると、足早に先に病室に入りました。
「どうしたの?」
医務院の美雨の病室に着くと、美雨は医師と看護士に囲まれて、何か処置を受けてるようでした。
エフェクトは廊下からその様子をみると、足早に先に病室に入りました。
「どうしたの?」
「…お母さま…」
エフェクトの声を聞いて、美雨が小さな声で応えました。
「少し、目がおかしいの…。」
「…後ほど、あちらの方で。」
医師は径に小声でそういうと、看護士を連れて引き上げていきました。
美雨は、目がぼんやりとしてはっきり見えなくなったと言い、でも径と娘が来たとしるや満面の笑顔で迎えました。
それでも…美雨の笑顔には少し翳りがあるのを見て取り、径はさらに心が痛むのを感じます。
「ケーン…」と、また、彼の耳の奥にあの声が聞こえました。
「僕は、話を聞いてくるよ。」
径は美雨の額に軽くキスをして紅をエフェクトに預けると、病室から出ていきました。
美雨は少し切ない目でぼんやりとした視界の向こうに径が消えていくのを見送り、諦めたようにエフェクトの方を向きました。
エフェクトはきゅっと唇を噛み締めたあと、にっこり笑って
「さぁ、紅、お母さまよ。」
と紅を抱き上げて美雨のすぐ目の前に連れてきました。
美雨はちょっと躊躇したあとで両手を伸ばし、ベッドの上で恐る恐るわが子を受け取ると、膝の上に乗せて微笑みました。
「紅?初めまして。」
「おかあしゃま?」
「ええ。」
至近距離なら見える。
美雨は娘の顔をじっくり見て、幼い頃の自分とよく似てる事に気がつきました。
そして愛しそうにぎゅっと抱きしめます。
紅はちょっと不思議そうにエフェクトと美雨を見比べてから、にこっと笑って美雨の頬にキスしました。
「おかあしゃま」
といって、両手を首に回し、甘えます。
美雨は力の入らない手で娘を落とさないよう必死になりながら、心は愛しさでいっぱいになるのを感じていました。
「今朝いきなり見えなくなったとの事ですが。」
医師は、径に説明しました。
「検査したところ、どこも異常はありません。火傷された時に少し眼球に損傷はありましたが、それはすでに治療し回復されて何ヶ月も経っています。」
そして検査結果の資料を示しながらいいました。
「こちらのデータを見る限り…奥さまの目は、精神的なものが原因と思われます。」
精神的なもの…。
それは、地球人の情報分析を研究テーマとしてきた径には、どういうものかすぐに見当がつきました。
見たくない現実と向き合わざるを得ない時…。
もうすぐ退院。
それは、これ以上すぐには治癒が期待できないという事。
美雨は、初めて我が子と会うというその段階にきて己の現実と向き合う心の準備がまだ出来ておらず。
己の目を、無意識に閉じてしまおうとしていたのです。
「ケーン…」
再び、径の耳にあの声がこだまするように聞こえました。
俺も…同じだ。
まだ、現実を受け入れていない…。
径は、あの龍の声が聞こえ続ける理由に気がついていました。
何故!
俺のせいでいつも美雨が苦しむ!
俺の両手両足を切り落として元の美雨が取り戻せるのなら、
あの笑顔がとりもどせるものなら…
すぐにでもそうするのに!
強すぎる己の力すら疎ましい…。
径は、医師の部屋を出たまま。
そのまま廊下でずっと佇んでいました。
つづく。
エフェクトの声を聞いて、美雨が小さな声で応えました。
「少し、目がおかしいの…。」
「…後ほど、あちらの方で。」
医師は径に小声でそういうと、看護士を連れて引き上げていきました。
美雨は、目がぼんやりとしてはっきり見えなくなったと言い、でも径と娘が来たとしるや満面の笑顔で迎えました。
それでも…美雨の笑顔には少し翳りがあるのを見て取り、径はさらに心が痛むのを感じます。
「ケーン…」と、また、彼の耳の奥にあの声が聞こえました。
「僕は、話を聞いてくるよ。」
径は美雨の額に軽くキスをして紅をエフェクトに預けると、病室から出ていきました。
美雨は少し切ない目でぼんやりとした視界の向こうに径が消えていくのを見送り、諦めたようにエフェクトの方を向きました。
エフェクトはきゅっと唇を噛み締めたあと、にっこり笑って
「さぁ、紅、お母さまよ。」
と紅を抱き上げて美雨のすぐ目の前に連れてきました。
美雨はちょっと躊躇したあとで両手を伸ばし、ベッドの上で恐る恐るわが子を受け取ると、膝の上に乗せて微笑みました。
「紅?初めまして。」
「おかあしゃま?」
「ええ。」
至近距離なら見える。
美雨は娘の顔をじっくり見て、幼い頃の自分とよく似てる事に気がつきました。
そして愛しそうにぎゅっと抱きしめます。
紅はちょっと不思議そうにエフェクトと美雨を見比べてから、にこっと笑って美雨の頬にキスしました。
「おかあしゃま」
といって、両手を首に回し、甘えます。
美雨は力の入らない手で娘を落とさないよう必死になりながら、心は愛しさでいっぱいになるのを感じていました。
「今朝いきなり見えなくなったとの事ですが。」
医師は、径に説明しました。
「検査したところ、どこも異常はありません。火傷された時に少し眼球に損傷はありましたが、それはすでに治療し回復されて何ヶ月も経っています。」
そして検査結果の資料を示しながらいいました。
「こちらのデータを見る限り…奥さまの目は、精神的なものが原因と思われます。」
精神的なもの…。
それは、地球人の情報分析を研究テーマとしてきた径には、どういうものかすぐに見当がつきました。
見たくない現実と向き合わざるを得ない時…。
もうすぐ退院。
それは、これ以上すぐには治癒が期待できないという事。
美雨は、初めて我が子と会うというその段階にきて己の現実と向き合う心の準備がまだ出来ておらず。
己の目を、無意識に閉じてしまおうとしていたのです。
「ケーン…」
再び、径の耳にあの声がこだまするように聞こえました。
俺も…同じだ。
まだ、現実を受け入れていない…。
径は、あの龍の声が聞こえ続ける理由に気がついていました。
何故!
俺のせいでいつも美雨が苦しむ!
俺の両手両足を切り落として元の美雨が取り戻せるのなら、
あの笑顔がとりもどせるものなら…
すぐにでもそうするのに!
強すぎる己の力すら疎ましい…。
径は、医師の部屋を出たまま。
そのまま廊下でずっと佇んでいました。
つづく。
Posted by 町田律子(pyo) at 19:00│Comments(2)
│龍物語
この記事へのコメント
一連の龍物語。
いつもリンクするのは何故なんでしょか(冷汗)
己の力がある、ないじゃないんだょ径って
自分達夫婦を当てはめて見ています。
径のバカ。
もとい、私の夫のバカ!
って感じです(´Д`)
変なコメですみません
いつもリンクするのは何故なんでしょか(冷汗)
己の力がある、ないじゃないんだょ径って
自分達夫婦を当てはめて見ています。
径のバカ。
もとい、私の夫のバカ!
って感じです(´Д`)
変なコメですみません
Posted by テン at 2009年08月12日 23:48
テンさん:
素直なご感想、ありがとうございます~。
そうなんですよね、ついつい自分たちにもあてはめちゃいますね~。
これが男と女の違いなの???なんて。
素直なご感想、ありがとうございます~。
そうなんですよね、ついつい自分たちにもあてはめちゃいますね~。
これが男と女の違いなの???なんて。
Posted by pyo at 2009年08月12日 23:56
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。