2009年08月14日
第23話 生きる気力[赤龍物語]
第23話 生きる気力
故郷での新しい生活。
径は、再開した陰陽師の仕事と共に、新しく金星大学の教授と約束した研究室設置準備のために、俄然忙しくなりました。
紅は成長が早く。
すぐに伽羅弧の環境にもなれ、プレゼントされた子犬に大喜びで一緒に走り回る毎日。
やがて寺子屋での教育の話も出るようになりました。
美雨は…。
毎日規則正しい生活を送っていました。
故郷での新しい生活。
径は、再開した陰陽師の仕事と共に、新しく金星大学の教授と約束した研究室設置準備のために、俄然忙しくなりました。
紅は成長が早く。
すぐに伽羅弧の環境にもなれ、プレゼントされた子犬に大喜びで一緒に走り回る毎日。
やがて寺子屋での教育の話も出るようになりました。
美雨は…。
毎日規則正しい生活を送っていました。
ベッドの中で目覚め、食事が運ばれ、介助を受けて。
毎日医務官のハタがやってきては、診察し、日光浴を兼ねて散歩に連れ出され。
エリア1のあちこちで自然に触れ、疲れたら戻って休み。
たまには紅にお話を聞かせるだけが、楽しみの毎日。
しかし紅がどんどん活発になるとその時間も少なくなり…。
少し動いては疲れてうとうとと寝てしまうようになった美雨と、忙しい径とはすれ違うことが多くなりました。径は、いつも寝ている美雨を起こさないようそっと出て行ってたのです。
ほどなく。
美雨が接するのは女官と医務官だけ。
そんな毎日を送るようになってしまいました。
もっとも、毎日騒がしくいきなり飛び込んでくるエフェクトと、ふいに静かに現れて話しかけるアズマ、そして美雨が気づかないうちに現れて様子をみては消えるアーシャスをのぞけば、ですが。
そうやって自分で生きている実感を失っていった美雨の目はさらに悪くなり。
ある朝、とうとう光を全く感知しなくなってしまったのでした。
「土下座も謝罪もいらないわ。」
エフェクトは、手の尽くしようがないと頭を下げる医務官ハタに言いました。
ハタは片ひざを折って頭を下げ片腕を胸の前にもってきたその最敬礼の姿勢のまま、エフェクトの震える声を全身で受け止めていました。
エフェクトは落ち着かずにリビング内をうろうろと歩き回りながら続けました。
「あの子の目は自分で悪くしているもの。生きる気力をなくしているのもそう。でもね。それでもできる限りの事をしてほしいの。足も、腰も、手の機能も。なりふり構わず、医務官で出来ない事ができる者に頭を下げてでも、やってちょうだい!」
「無理を言うな…。」
アズマはエフェクトの震える肩を抱いて静かに座らせると、ハタに言いました。
「ハタ。お前が出来る限りの事をしてくれているのはわかっている。」
ハタは顔をあげて、アズマの眼から’ありがとう’という心が伝わってくるのを感じ取りました。
「だが気をつけててくれ。あそこまで生きる気力がなくなると、この先どうなるかわからない。」
緩慢な自殺。
美雨は、その状態に近づいていると感じられていました。
すでに食も細くなり、思考もばらばらで続かなくなり。
もし自殺となれば、魂は細かい破片のように黄泉の国にちらばり、回収も再生・復活も容易ではなく。
そう、何億年も黄泉の国で行方不明だったイザナミのようになる恐れがある。
それは、美雨自身がイザナミの課題を背負っている事を示していたのです。
美雨自身も、その事に気がついてはいました。
以前はどうやって毎日を生きていただろう…そう考えてみると。
台所にたってパンをこね、料理を作ってみんなに食べてもらうのが楽しくて。
マリアとのお菓子作りはとても楽しかった…。
弟たちに本を読んで聞かせていた日々。
そういえば刺繍を楽しんでもいたっけ。プレゼントにはいつもそえて。
もし目が見えたとしても…。
立ち続けることも座り続けることすらも困難なこの腰。
そして力がなく、細かい作業ができなくなったこの手では料理も刺繍もできやしない…。
森の散歩。
エリア2の図書館でのボランティア…。
すべて、介助なしでは何もできなくなった私にはもう遠い世界…。
ある日のこと。
車椅子に座りリビングにいた美雨は、エマがいれてくれた美味しい紅茶のカップを両手でもち、ゆっくりと飲んでいました。
しかしそれを美味しいと感じる気力すらわかず。
そのうち、お茶を飲んでいたことを忘れて手に力が入らなくなり、いきなりカップを落として割ってしまいました。
エマが慌てて美雨の手を拭き、火傷がない事を確かめ。
そして散らばったカップの破片を急いで片付けている間、美雨は邪魔にならないよう少しリビング内を移動しました。
反重力車椅子は、美雨が思考したとおりに動きます。
リビングから通じる、外につながる大きなバルコニーから穏やかな風が入ってきました。
そこはかなり高い山の斜面に飛び出していて鳳凰や龍たちがよく出入りに使っている場所。
すーっと深く息を吸い、エリア1の清浄な空気を吸い込んだ美雨は、ふと、下の広い岩棚に降りたいな、と思いました。
あそこにある草花の間に座り、滝の音を聞きたいな、と。
そして。
反重力車椅子は、美雨が思考したとおりに動きました。
バルコニーからいきなり外へ飛び出してしまったのです。
つづく。
毎日医務官のハタがやってきては、診察し、日光浴を兼ねて散歩に連れ出され。
エリア1のあちこちで自然に触れ、疲れたら戻って休み。
たまには紅にお話を聞かせるだけが、楽しみの毎日。
しかし紅がどんどん活発になるとその時間も少なくなり…。
少し動いては疲れてうとうとと寝てしまうようになった美雨と、忙しい径とはすれ違うことが多くなりました。径は、いつも寝ている美雨を起こさないようそっと出て行ってたのです。
ほどなく。
美雨が接するのは女官と医務官だけ。
そんな毎日を送るようになってしまいました。
もっとも、毎日騒がしくいきなり飛び込んでくるエフェクトと、ふいに静かに現れて話しかけるアズマ、そして美雨が気づかないうちに現れて様子をみては消えるアーシャスをのぞけば、ですが。
そうやって自分で生きている実感を失っていった美雨の目はさらに悪くなり。
ある朝、とうとう光を全く感知しなくなってしまったのでした。
「土下座も謝罪もいらないわ。」
エフェクトは、手の尽くしようがないと頭を下げる医務官ハタに言いました。
ハタは片ひざを折って頭を下げ片腕を胸の前にもってきたその最敬礼の姿勢のまま、エフェクトの震える声を全身で受け止めていました。
エフェクトは落ち着かずにリビング内をうろうろと歩き回りながら続けました。
「あの子の目は自分で悪くしているもの。生きる気力をなくしているのもそう。でもね。それでもできる限りの事をしてほしいの。足も、腰も、手の機能も。なりふり構わず、医務官で出来ない事ができる者に頭を下げてでも、やってちょうだい!」
「無理を言うな…。」
アズマはエフェクトの震える肩を抱いて静かに座らせると、ハタに言いました。
「ハタ。お前が出来る限りの事をしてくれているのはわかっている。」
ハタは顔をあげて、アズマの眼から’ありがとう’という心が伝わってくるのを感じ取りました。
「だが気をつけててくれ。あそこまで生きる気力がなくなると、この先どうなるかわからない。」
緩慢な自殺。
美雨は、その状態に近づいていると感じられていました。
すでに食も細くなり、思考もばらばらで続かなくなり。
もし自殺となれば、魂は細かい破片のように黄泉の国にちらばり、回収も再生・復活も容易ではなく。
そう、何億年も黄泉の国で行方不明だったイザナミのようになる恐れがある。
それは、美雨自身がイザナミの課題を背負っている事を示していたのです。
美雨自身も、その事に気がついてはいました。
以前はどうやって毎日を生きていただろう…そう考えてみると。
台所にたってパンをこね、料理を作ってみんなに食べてもらうのが楽しくて。
マリアとのお菓子作りはとても楽しかった…。
弟たちに本を読んで聞かせていた日々。
そういえば刺繍を楽しんでもいたっけ。プレゼントにはいつもそえて。
もし目が見えたとしても…。
立ち続けることも座り続けることすらも困難なこの腰。
そして力がなく、細かい作業ができなくなったこの手では料理も刺繍もできやしない…。
森の散歩。
エリア2の図書館でのボランティア…。
すべて、介助なしでは何もできなくなった私にはもう遠い世界…。
ある日のこと。
車椅子に座りリビングにいた美雨は、エマがいれてくれた美味しい紅茶のカップを両手でもち、ゆっくりと飲んでいました。
しかしそれを美味しいと感じる気力すらわかず。
そのうち、お茶を飲んでいたことを忘れて手に力が入らなくなり、いきなりカップを落として割ってしまいました。
エマが慌てて美雨の手を拭き、火傷がない事を確かめ。
そして散らばったカップの破片を急いで片付けている間、美雨は邪魔にならないよう少しリビング内を移動しました。
反重力車椅子は、美雨が思考したとおりに動きます。
リビングから通じる、外につながる大きなバルコニーから穏やかな風が入ってきました。
そこはかなり高い山の斜面に飛び出していて鳳凰や龍たちがよく出入りに使っている場所。
すーっと深く息を吸い、エリア1の清浄な空気を吸い込んだ美雨は、ふと、下の広い岩棚に降りたいな、と思いました。
あそこにある草花の間に座り、滝の音を聞きたいな、と。
そして。
反重力車椅子は、美雨が思考したとおりに動きました。
バルコニーからいきなり外へ飛び出してしまったのです。
つづく。
えーい、やっぱり書いててきついわっ!
ご感想コメントよろしゅ~
ご感想コメントよろしゅ~
Posted by 町田律子(pyo) at 19:00│Comments(6)
│龍物語
この記事へのコメント
こんばんわ~。以前にも一度コメントさせてもらいましたEminkoですー。
美雨ちゃんには、絶対に笑顔を取り戻してほしいです!周りの人にもっと支えてあげて欲しいって勝手に思ってしまいますけど、美雨ちゃんは学びの最中なんですよね。私も学びの最中です。ハイ
美雨ちゃんには、絶対に笑顔を取り戻してほしいです!周りの人にもっと支えてあげて欲しいって勝手に思ってしまいますけど、美雨ちゃんは学びの最中なんですよね。私も学びの最中です。ハイ
Posted by Eminko at 2009年08月14日 20:58
このお話は現在の事なのか、少し前の事なのか…。
神様の子どもたちは全て順調なのかと思うけれど、そうではないのだなぁ…と思わされます。
早く心から笑えれば良いですね。
ずっと読んでますー。
神様の子どもたちは全て順調なのかと思うけれど、そうではないのだなぁ…と思わされます。
早く心から笑えれば良いですね。
ずっと読んでますー。
Posted by ひつじ at 2009年08月14日 20:59
美雨の思考を別の方向に向けられるよう祈っています。
出来る力があるから与えられた課題・・なのでしょうか。這い上がってほしい。
私も這い上がりたくてもがいている最中ですが。。
ひとりじゃないですよね!!
出来る力があるから与えられた課題・・なのでしょうか。這い上がってほしい。
私も這い上がりたくてもがいている最中ですが。。
ひとりじゃないですよね!!
Posted by テン at 2009年08月15日 01:00
ダブってしまいました(汗)
すみませんm(_ _)m
すみませんm(_ _)m
Posted by テン at 2009年08月15日 01:02
本当に胸が痛くなりますね。
そして、心が生きるのをあきらめてしまうと
本当に体が生きるのを拒否してしまうのか。
とまざまざと見せ付けられたように感じます。
希望を、生きようとする意志を取り戻すのは
誰でもない自分でしかできないことなんですよね。
美雨!! がんばれ!!
径~~~~。
どこいった~~~?? ^^
そして、心が生きるのをあきらめてしまうと
本当に体が生きるのを拒否してしまうのか。
とまざまざと見せ付けられたように感じます。
希望を、生きようとする意志を取り戻すのは
誰でもない自分でしかできないことなんですよね。
美雨!! がんばれ!!
径~~~~。
どこいった~~~?? ^^
Posted by 勇者ひかり at 2009年08月15日 09:18
Emikoさん:
応援ありがとうございます。
そうなんです、学びの最中なんですよね~。
でも周りの支えもやっぱり必要ですよね、こうなると。。。
ひつじさん:
ありがとうございます。
神話を読んでもやっぱり神様も喜怒哀楽ありますよねぇ。
先日教えられたんですが、五次元神界にあたるそうなんです。
もっと上の次元の天界ではここまでの学びは乗り越えた神々の世界もあるようです。
テンさん:
はい!ひとりじゃないです!
ダブるのは気にしないでくださいね。
勇者ひかりさん:
いつも応援ありがとです~。
そうなんですよね、見たくないと拒否してばかりでは目がどんどん悪くなります。
これリアルであるんですよ~、ホントに。
径…呼び出したくなりますよね。(^^;;;
応援ありがとうございます。
そうなんです、学びの最中なんですよね~。
でも周りの支えもやっぱり必要ですよね、こうなると。。。
ひつじさん:
ありがとうございます。
神話を読んでもやっぱり神様も喜怒哀楽ありますよねぇ。
先日教えられたんですが、五次元神界にあたるそうなんです。
もっと上の次元の天界ではここまでの学びは乗り越えた神々の世界もあるようです。
テンさん:
はい!ひとりじゃないです!
ダブるのは気にしないでくださいね。
勇者ひかりさん:
いつも応援ありがとです~。
そうなんですよね、見たくないと拒否してばかりでは目がどんどん悪くなります。
これリアルであるんですよ~、ホントに。
径…呼び出したくなりますよね。(^^;;;
Posted by pyo at 2009年08月15日 11:33
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。