てぃーだブログ › pyo's room › 龍物語 › 転生10-癒しの力[伽羅孤3]

2009年10月31日

転生10-癒しの力[伽羅孤3]

エフェクトは首を横にふりました。
『食べたくない…』
ベッドの上で涙のあとがのこる顔を枕におしつけて隠すと、エフェクトは毛布の中に潜ってしまいました。

美雨(ちゅらみ)は小さくため息をつきました。

 これでもう3日。
 熱が下がってから、エフェクトは殆ど何も食べてくれない…。

でも美雨にはいきなり明るい世界を奪われてしまった少女のその気持ちが痛いほどわかるのです。

‘私もあの時、お母さまにこんな想いをさせていたんだわ’
美雨は、かつて己自身がまともに歩けなくなって見る事もできなくなり、生きる気力をも失っていった日々を思い出しました。

そしてなぜあの頃、母がいつも笑顔で接してくれていたのか理解したのでした。
転生10-癒しの力[伽羅孤3]

「ええ、もちろん構わないわ。」
紫乃は、美雨の頼みごとににっこりとうなずきました。

「エフェクトは私の大切な友人でもあるの。彼女のヒーリングは私にとっても大事なことだわ。」
紫乃は美雨にお茶をすすめながら自分も一口飲んで、続けました。

「でもね。私のエネルギーは火のエネルギー。火傷の夢の直後では、今のエフェクトには辛いかもしれないわね?」

美雨ははっとしました。
紫乃は続けます。
「あなた自身も癒しの力を持つことを、忘れてやしなくて?」

「アマテラス様!申し訳ありません!わたし…私、すぐに頼ることを考えてしまっていました。」
赤くなって頭をさげた美雨を、紫乃は愛しそうに眺めました。

「そろそろ、その力を本格的にコントロールして使う事を覚えるのにいい頃だわね。必要なら私の力をいくらでもサポートにお使いなさいな。」

にこにこと笑いかける天照大神の紫乃に感謝しながら、美雨はクリスタル城を辞して帰ろうとしました。

「美雨。」
廊下で呼びとめられて振り向くと、そこにアーシャスが立っていました。
「月読(つくよみ)さま…。」

「これを。」
アーシャスは袖から何か取り出して渡すと、驚いた美雨に優しくうなずき、静かに立ち去りました。

「桃…。」
アーシャスに渡されたのは、みずみずしく香りのいい桃でした。

「そうだわ。あの時。もっとも絶望していた時に遥珂(はるか)が渡してくれた桃が、私を現実に引き戻してくれた。生きていることを思い出させてくれたんだった!」

美雨はクリスタル城から飛び出し、さらに偽装された山の中腹から外に飛び出すと龍の姿で空に昇り、そこから大きな声で呼びかけました。

「遥珂!」

いつもは楚々とした話し方をする美雨ですが、朗読家として鍛えられた喉をもつ者。
その声は伽羅孤中に響き渡ったかと思うほどの声でした。

「は~い♪」
いずこからか、ものすごいスピードで白龍がやってきて黄龍の美雨の前にぴたっと止まりました。
「お呼びですか?おねぇちゃ…美雨さま。」

お姉ちゃんでいいわよ、と美雨は笑いながら、遥珂に思い出してもらって当時の桃の木まで案内してもらいました。

「駄目だわ。いまは季節じゃないのね。」
美雨は桃の木を細かく調べながらいいました。
桃の香りがいっぱいのこの場へエフェクトを連れてこようかと考えていたのです。

「じゃぁ月読さまがくださったこの1個の桃だけ。それだけでもエフェクトが食べてくれれば…。」
つぶやいた美雨の言葉に、遥珂が反応しました。

「桃の実がいっぱい、一年中生ってるところを知ってます!でも伽羅孤じゃないんだ。僕、行ってきます!」
「遥珂、そこはどこ?私も行きたいわ。」
「うーん、でも遠いんです。根の国と黄泉の国の境目に立ってる木なんだ。」

美雨ははっとしました。
「その木は…。じゃぁもしかしてこの桃もその木のものかも。」
「ええ?何か逸話あり?でもとにかく僕、その木から桃をもらってきます!西塔に届けますね。」

いつもに増してすごいスピードで飛び去る白龍を見送りながら、美雨は思い出していました。
「その木は、イザナギ神が後々の世まで人々を救うようにと名付けた桃の木…。」

そしてにっこりと笑うと、手に桃をもって西塔へと戻ったのでした。


つづく。


『とうとう地上から黄泉の国の入り口へと降りる坂(黄泉比良坂=よみのひらさか)の坂下まで着いたときに、そこにあった桃の木から桃の実を三つ取って投げつけてやると、化け物たちはみな逃げて行きました。
 そこでイザナギノミコトは、その桃の実に
「お前が、わたしを助けてくれたように、この葦原の中つ国(あしはらのなかつくに=葦原とは日本のこと。中つ国とは、天上の高天原と地下の黄泉の国との間にある地上の世界という意味)の人間たちが、つらいことや苦しいめにあった時に助けてやってほしい。」
とおっしゃって、オホカムヅミという名前を与えました。』

転生10-癒しの力[伽羅孤3]



同じカテゴリー(龍物語)の記事
つぶやき。
つぶやき。(2013-02-21 14:21)


Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(0)龍物語
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。