2011年12月30日
大地の花97 一年後
第97話 「一年後」
それから1年ほどが経った。
メイファはお水取りの華々しい行幸と、王城に帰ってから行った雨乞いの儀式で成果をあげ、雨雲を呼ぶことに成功し自らの名声を高めた。
その後次々と大君による国の改革を意見し始め、祈りと祈りによる成果を見せたことからさらにメイファへの信頼と人気は高まった。
女好きな王が形だけつけた大君職だと最初は皆が思っていたが、それに対しメイファは実力で政治と信仰の実権を握り、国を動かすほどの者となったのだ。
そのメイファの言動の裏に、判断の裏に、ひっそりと息を潜めたように己の城で過ごすランユウが居ることを誰も知るものはいなかった。
三月(みつき)に一度、ランユウが王城に顔を出す。
これはメイファが行った改革の一つで、メイファは王城のある地方の大臣だけを優遇することなく、国中の按司(あじ)たち、里主たちを一堂に会する会議を持つように王に進言したのだった。
それにより王城からはなかなか目が届かない地方や離島の民の暮らしぶりや不便していることなどがわかり、国としてどう対処を考えるか話し合うことができる。
さらにこうして顔をあわせて話し合いの場とその後の交流の会を持つことにより、按司たちの交流もすすむようになり国内の物資の流通や民の行き来なども以前より格段に活発になっていった。
メイファがこうした会議を進言した理由は、単純だ。ランユウに会いたい、それだけだった。
動機がどうあれメイファの進言は国内にいい結果を呼び寄せる。
皆が信頼しメイファに名声が与えられるようになったのも、こうしたことの積み重ねからだった。
按司の会議にはランユウは代理をたてずに自らやって来た。
第一王妃の影を吸い込んだための病はまだ癒えず顔色は冴えなかったが、その分大人しくしているランユウの凄みの利いた眼差しは、勝手なことを言い出し会議が荒れそうな時にはそれを收める力があった。
メイファはランユウが王城にやってくると子どもたちと会わせるという口実を作っていつも部屋に呼び寄せ、一晩家族で一緒に過ごした。
ランユウが帰ると、王から呼び出しがかかる。
王はなぜかランユウと一緒に過ごしたと思うとメイファを抱きたくなるらしい。
メイファはいつしかそのパターンに気がついた。
「まるで犬のマーキングみたい。」
竜族の侍女たちにぽろっとこぼしたことがある。
女たちはメイファをたしなめたが、心の底ではそのとおりだと肯いていた。
「王さまは…ランユウさまに嫉妬されているのかもしれませんね…」
そうなのか、とメイファは思った。
王がメイファに執着しているのは、メイファがランユウの女だから。
ナルホドと納得がいくような王の言動が幾つかあった。
しかしやがてそれだけでは済まなくなる事が起きた。
メイファは妊娠してしまったのだ。
そうか、とランユウは微笑んだ。
誰の子だとは聞かなかった。
ランユウとメイファの間には、ランユウが病を得てから関係がなかった。
そうなると明らかに誰の子なのか解ってしまう。
だが、王さまにはわからない。
王さまはメイファとランユウがこうして一緒に話しているだけでも男と女の関係を続けていると疑っているのだ。
「次は女の子だといいな。お前に似た可愛い女の子だ。」
ランユウが微笑んだまま優しい声で言うと、メイファは涙を浮かべた目をふっと細めた。
「だとしたら、すごいオテンバになるわよ。お尻を叩かれるくらい。」
ランユウは目を丸くし、そして二人は思わず声をあげて笑った。
初めての出会いの日、ランユウは少女だったメイファの尻を叩いた。
懐かしく遠い日々が駆け巡っていく気がする。
「メイファ。」
ランユウはメイファを引き寄せて、優しく抱きしめた。
「身体を大事にしてくれ。オテンバでも何でも、元気な子を産んでくれればいい。」
うん、とメイファは素直にうなずいた。
『ランユウ!助けて!』
ある夜、東の半島の城にいたランユウはメイファの叫び声で飛び起きた。
何事だ?ときょろきょろと周囲を見渡す。
だが灯りが消された静かな部屋の中、メイファの姿はなかった。
「夢…?」
どんな夢を視ていたのか覚えていない。
ランユウは気になりながらも再び横になった。
するともう一度声が聞こえた。
『ランユウ!子どもたちを…子どもたちを助けて!…殺される!』
ランユウは目を見開いて部屋の暗隅に現れた影を見つめた。
「メイファ…?」
『殺される…殺された…コロサレタ…ワタシ…コドモタチ…タスケテ…』
ランユウは龍の目を王城に飛ばしながら、急いで支度をした。
つづく。
年末に駆け込み最終回なるかな~。
来年から別物語で続けますので急な話の進展、ご容赦を。
これはメイファが行った改革の一つで、メイファは王城のある地方の大臣だけを優遇することなく、国中の按司(あじ)たち、里主たちを一堂に会する会議を持つように王に進言したのだった。
それにより王城からはなかなか目が届かない地方や離島の民の暮らしぶりや不便していることなどがわかり、国としてどう対処を考えるか話し合うことができる。
さらにこうして顔をあわせて話し合いの場とその後の交流の会を持つことにより、按司たちの交流もすすむようになり国内の物資の流通や民の行き来なども以前より格段に活発になっていった。
メイファがこうした会議を進言した理由は、単純だ。ランユウに会いたい、それだけだった。
動機がどうあれメイファの進言は国内にいい結果を呼び寄せる。
皆が信頼しメイファに名声が与えられるようになったのも、こうしたことの積み重ねからだった。
按司の会議にはランユウは代理をたてずに自らやって来た。
第一王妃の影を吸い込んだための病はまだ癒えず顔色は冴えなかったが、その分大人しくしているランユウの凄みの利いた眼差しは、勝手なことを言い出し会議が荒れそうな時にはそれを收める力があった。
メイファはランユウが王城にやってくると子どもたちと会わせるという口実を作っていつも部屋に呼び寄せ、一晩家族で一緒に過ごした。
ランユウが帰ると、王から呼び出しがかかる。
王はなぜかランユウと一緒に過ごしたと思うとメイファを抱きたくなるらしい。
メイファはいつしかそのパターンに気がついた。
「まるで犬のマーキングみたい。」
竜族の侍女たちにぽろっとこぼしたことがある。
女たちはメイファをたしなめたが、心の底ではそのとおりだと肯いていた。
「王さまは…ランユウさまに嫉妬されているのかもしれませんね…」
そうなのか、とメイファは思った。
王がメイファに執着しているのは、メイファがランユウの女だから。
ナルホドと納得がいくような王の言動が幾つかあった。
しかしやがてそれだけでは済まなくなる事が起きた。
メイファは妊娠してしまったのだ。
そうか、とランユウは微笑んだ。
誰の子だとは聞かなかった。
ランユウとメイファの間には、ランユウが病を得てから関係がなかった。
そうなると明らかに誰の子なのか解ってしまう。
だが、王さまにはわからない。
王さまはメイファとランユウがこうして一緒に話しているだけでも男と女の関係を続けていると疑っているのだ。
「次は女の子だといいな。お前に似た可愛い女の子だ。」
ランユウが微笑んだまま優しい声で言うと、メイファは涙を浮かべた目をふっと細めた。
「だとしたら、すごいオテンバになるわよ。お尻を叩かれるくらい。」
ランユウは目を丸くし、そして二人は思わず声をあげて笑った。
初めての出会いの日、ランユウは少女だったメイファの尻を叩いた。
懐かしく遠い日々が駆け巡っていく気がする。
「メイファ。」
ランユウはメイファを引き寄せて、優しく抱きしめた。
「身体を大事にしてくれ。オテンバでも何でも、元気な子を産んでくれればいい。」
うん、とメイファは素直にうなずいた。
『ランユウ!助けて!』
ある夜、東の半島の城にいたランユウはメイファの叫び声で飛び起きた。
何事だ?ときょろきょろと周囲を見渡す。
だが灯りが消された静かな部屋の中、メイファの姿はなかった。
「夢…?」
どんな夢を視ていたのか覚えていない。
ランユウは気になりながらも再び横になった。
するともう一度声が聞こえた。
『ランユウ!子どもたちを…子どもたちを助けて!…殺される!』
ランユウは目を見開いて部屋の暗隅に現れた影を見つめた。
「メイファ…?」
『殺される…殺された…コロサレタ…ワタシ…コドモタチ…タスケテ…』
ランユウは龍の目を王城に飛ばしながら、急いで支度をした。
つづく。
年末に駆け込み最終回なるかな~。
来年から別物語で続けますので急な話の進展、ご容赦を。
Posted by 町田律子(pyo) at 23:45│Comments(2)
│大地の花
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第98話 「メイファの死」ランユウは手早く身支度を済ませ、剣を掴んで馬に飛び乗り、城を飛び出した。かつてならした剣豪の力、戦上手だったランユウの素早い動きが蘇る。馬を走ら...
大地の花98 メイファの死【pyo's room】at 2011年12月31日 10:00
この記事へのコメント
年末ギリギリまで私に課題をくれるのね~^^;
Posted by ♪春♪ at 2011年12月31日 09:38
うはー、ごめんなさい、
新年まで持ち越したく無いんで
悲劇のラストまで一気に行きます!
新年まで持ち越したく無いんで
悲劇のラストまで一気に行きます!
Posted by pyo at 2011年12月31日 09:58
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。