2019年06月08日
根の国の茶話(伽羅弧物語番外編)
「お母さま、そのお話もう少し詳しく教えていただきたいわ。」
和子(わこ)の声をきいて、隣の板間で小型の炉にかけた壺の中身をゆっくりとかき混ぜていた空は一瞬手を止めた。
壷の中からは薬草の匂いが立ち始めたところ。
ここで手を止めるわけには行かない。
けれど、祖母と伯母の話はどうやら聞き逃がせない話題になりそうだわと感じる。
いますぐ立ち上がり、側に行って話を聞きたい。
空はウズウズする心をおさえながら、止めるわけにいかない炉壺の中の薬草の匂いをかいだ。
いい状態に加熱は進んでいる。
空は迷う心をおさえ、ゆっくりと手を動かし続けながら聞き耳をたてることにした。
和子(わこ)の声をきいて、隣の板間で小型の炉にかけた壺の中身をゆっくりとかき混ぜていた空は一瞬手を止めた。
壷の中からは薬草の匂いが立ち始めたところ。
ここで手を止めるわけには行かない。
けれど、祖母と伯母の話はどうやら聞き逃がせない話題になりそうだわと感じる。
いますぐ立ち上がり、側に行って話を聞きたい。
空はウズウズする心をおさえながら、止めるわけにいかない炉壺の中の薬草の匂いをかいだ。
いい状態に加熱は進んでいる。
空は迷う心をおさえ、ゆっくりと手を動かし続けながら聞き耳をたてることにした。
根の国の茶話(伽羅弧物語番外編)
~邪気の話し~
~邪気の話し~
「...私が祓戸の大神(はらえどのおおかみ)と人々に呼ばれているのは、知っているわね?」
空の祖母、零(れい)は縁側で壺に活けた花をながめながら、側に座った娘の和子(わこ)とお茶を飲んでいた。
和子は静かにうなずいた。
和子もまた母の零の助手として、必要な時には代理として祓戸の大神の業務を手伝っている。
だからその業務は誰よりも和子自身がよく知っているのだ。
「私が祓い清めているのは、人々の念。特に邪念からうまれた邪気とよばれる精神エネルギーよ。
このエネルギーはとても強いわ。
意識せずとも人の心を占め、人の心に沈んでいきその人の心を変えてしまう。」
「ええ、よく知っているわ。
その強いエネルギーにさらされて、むかし、リーリンが命を失ったこともあったわ。」
和子の双子の兄弟である合地(ごうち)の妻であり、空と海の産みの母であるリーリンは天界ともいえる清浄な伽羅弧からこの根の国に来て、邪気を吸い耐えられずに命を失った。
あの時のショックは忘れられない。
邪気というのはそれほどに強いものなのか、と、この根の国に生まれ育った和子には信じられない思いがしたのだ。
「でも、お父上さまが伽羅弧にいても邪気に冒されて罰せられた事があったなんて・・・」
和子は、空が一番聞きたい話題にストレートに入っていった。
零は、ふっと唇を結んで微かに笑いながら、遠い目をして在りし日の出来事を思い出しているよう。
その沈黙の時間を遠くから聞き耳たてている空は長く感じた。
ああ、早くこの薬草がいいところまで煮えてくれないかな。
じりじりとした思いで、でもスピードを変えずに壺の中をゆっくりとかき混ぜる。
「罰せられたわけじゃないのよ。北牢はそういうところじゃないわ。
他のエネルギーから切り離してひとりにしたの。
自分の中の邪気と向き合い、自分で手放していく事で向き合う強さを身につけるためだったの。
為信は吸いやすいし、耐性あるから。」
「耐性・・・ある?」
和子の言葉に零はうなずき、縁側の外の木々を見つめながら先を続けた。
「邪気は何気なく心のうちに出来て育っていくわ。
リーリンのように、そしてあなた達の弟の実葛も邪気への耐性がなくて身体に影響が出ていたけれど。
為信や合地のように耐性がある者は肉体への影響が出る前に、心が少しずつ病んでいくの。」
和子はうなずきました。
父・為信のそんな姿は覚えがないけれど、双子として育った合地については覚えがある。
「合地が急に怒りっぽくなったり、皮肉が増えて、何度も心を傷つけられたことがあるわ。心が病んでいったってそういう時のこと?」
和子の言葉に零はうなずいた。
「ええ、合地はストレートに変化がみえるわね。
心を鎮める事が出来なくなったり、悪意ばかりを感じ取って自分もそれに染まっていきやすいわ。
今はその変化を自分で感じ取って、私のところに祓ってほしいとくるようになったけれど。」
合地の娘である空は、「あ!」と思わず声をあげた。
「おばあさま、そういう事だったんだね。
父上、そういう時って大概・・・お腹こわして、僕に薬をつくってほしいと言ってくるんだ。」
空の声に、零と和子は笑った。
空が黙って二人の話を聞いていたのはもちろん承知の上だ。
「空、いま作ってるのはもしかして合地のお腹の薬なの?」
和子の問いかけに、空はうなずいた。
「父上、昨日からお腹の調子がおかしいんだって。
脈も速いし弱いし、顔も少しどす黒くなっているような・・・
いつもの父上らしくない調子で部下を叱りつけてもいたよ。」
「わかったわ。」
零はすと立ち上がると、いきなり黄金の麒麟に姿を変えて空に駆け上っていった。
根の国全体を見渡せる上空から、根の国内をパトロールしているであろう合地を見つけ出して祓い清めるのだろう。
和子と空はそのあと少しおしゃべりをして、空の薬が仕上がるとそれぞれの部屋に戻っていったのだった。
空の祖母、零(れい)は縁側で壺に活けた花をながめながら、側に座った娘の和子(わこ)とお茶を飲んでいた。
和子は静かにうなずいた。
和子もまた母の零の助手として、必要な時には代理として祓戸の大神の業務を手伝っている。
だからその業務は誰よりも和子自身がよく知っているのだ。
「私が祓い清めているのは、人々の念。特に邪念からうまれた邪気とよばれる精神エネルギーよ。
このエネルギーはとても強いわ。
意識せずとも人の心を占め、人の心に沈んでいきその人の心を変えてしまう。」
「ええ、よく知っているわ。
その強いエネルギーにさらされて、むかし、リーリンが命を失ったこともあったわ。」
和子の双子の兄弟である合地(ごうち)の妻であり、空と海の産みの母であるリーリンは天界ともいえる清浄な伽羅弧からこの根の国に来て、邪気を吸い耐えられずに命を失った。
あの時のショックは忘れられない。
邪気というのはそれほどに強いものなのか、と、この根の国に生まれ育った和子には信じられない思いがしたのだ。
「でも、お父上さまが伽羅弧にいても邪気に冒されて罰せられた事があったなんて・・・」
和子は、空が一番聞きたい話題にストレートに入っていった。
零は、ふっと唇を結んで微かに笑いながら、遠い目をして在りし日の出来事を思い出しているよう。
その沈黙の時間を遠くから聞き耳たてている空は長く感じた。
ああ、早くこの薬草がいいところまで煮えてくれないかな。
じりじりとした思いで、でもスピードを変えずに壺の中をゆっくりとかき混ぜる。
「罰せられたわけじゃないのよ。北牢はそういうところじゃないわ。
他のエネルギーから切り離してひとりにしたの。
自分の中の邪気と向き合い、自分で手放していく事で向き合う強さを身につけるためだったの。
為信は吸いやすいし、耐性あるから。」
「耐性・・・ある?」
和子の言葉に零はうなずき、縁側の外の木々を見つめながら先を続けた。
「邪気は何気なく心のうちに出来て育っていくわ。
リーリンのように、そしてあなた達の弟の実葛も邪気への耐性がなくて身体に影響が出ていたけれど。
為信や合地のように耐性がある者は肉体への影響が出る前に、心が少しずつ病んでいくの。」
和子はうなずきました。
父・為信のそんな姿は覚えがないけれど、双子として育った合地については覚えがある。
「合地が急に怒りっぽくなったり、皮肉が増えて、何度も心を傷つけられたことがあるわ。心が病んでいったってそういう時のこと?」
和子の言葉に零はうなずいた。
「ええ、合地はストレートに変化がみえるわね。
心を鎮める事が出来なくなったり、悪意ばかりを感じ取って自分もそれに染まっていきやすいわ。
今はその変化を自分で感じ取って、私のところに祓ってほしいとくるようになったけれど。」
合地の娘である空は、「あ!」と思わず声をあげた。
「おばあさま、そういう事だったんだね。
父上、そういう時って大概・・・お腹こわして、僕に薬をつくってほしいと言ってくるんだ。」
空の声に、零と和子は笑った。
空が黙って二人の話を聞いていたのはもちろん承知の上だ。
「空、いま作ってるのはもしかして合地のお腹の薬なの?」
和子の問いかけに、空はうなずいた。
「父上、昨日からお腹の調子がおかしいんだって。
脈も速いし弱いし、顔も少しどす黒くなっているような・・・
いつもの父上らしくない調子で部下を叱りつけてもいたよ。」
「わかったわ。」
零はすと立ち上がると、いきなり黄金の麒麟に姿を変えて空に駆け上っていった。
根の国全体を見渡せる上空から、根の国内をパトロールしているであろう合地を見つけ出して祓い清めるのだろう。
和子と空はそのあと少しおしゃべりをして、空の薬が仕上がるとそれぞれの部屋に戻っていったのだった。
番外編。。。おわり
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。