2011年06月28日
大地の花10 移動
第10話 移動
ランユウは急ぎ屋敷に戻った。
まずは姫の護衛隊長と乳母を呼び、事情を確認。
すると、彼らは事態を理解していたことがわかった。
「騙したような形になって申し訳ありません、でももともと姫をこの島国におあずけしたいと、以前から竜王さまはお考えでおられました。」
乳母がふかぶかと頭をさげる。
この島国に末娘の生命と未来を託したのは、竜王自身であった。
そして託されたのはヒオウ王ではなくランユウだったのだ、とランユウはその時知った。
父王とのわかれの時。
メイファ姫ははっきりとランユウに嫁ぐのだと竜王に告げられていた、という。
しかしそれを嫌がり、周りが噂に聞くランユウの事をどう讃えようと
姫は駄々をこねて泣いた。
竜王は仕方なく能力を使って娘を眠らせ、海に出るために川を下る船に乗せた。
そうして親子はそのまま別れを告げることがなかったのだ。
「そうか…。」
話を聞いたランユウはそれだけをつぶやいた。
ランユウは一度竜王と直接会ったことがある。
まだ養父が生きていた頃、ほんの短期間だったが西国に留学させてもらった。
「外国(そとつくに)を直接その目で見、肌で感じることはこの先お前にとってとても貴重な事となろう。」
そう言って送り出してくれた養父とは二度と会うことがなかった。
養父の急死を知って帰国した時には、後を追うように養母も亡くなっていた。
そんな体験をしてきただけに、まだ幼いメイファ姫がどんな想いでこの島国に足を踏み入れたのかと気の毒になった。
護衛隊長は兵士たちの全員が事情を把握しているわけではない、と説明した。
「私が信頼できる兵士のみを厳選して連れてきましたが、中にはいまだ国に残した妻子の元へ帰るつもりのものもおります。事態がどう動くかわからない間は静観しているしかないかと考えておりました。」
ランユウはうなずいた。
「事情はわかった。まず言えることは、姫を姫としてこの国が正式に迎えたという形をとるわけにはいかなくなった、ということだ。」
乳母と護衛隊長はごくりとつばを飲む。
「だが竜王に託されたのが私であるのならば、責任をもって姫と方々をお預かりしよう。」
ほっとした空気が流れた。
ランユウは西国から戻ってきた部下と共に、考えていたプランの概略を説明した。
「西国には姫の船が海賊に襲われて沈没したと思わせる。」
こういった策は初めての方法ではない。
ランユウの部下がうなずいた。
「お任せください。」
そして実際に海賊に襲われて九死に一生を得たこともある彼は、何をどうすればいいのか判っていた。
すぐに詳細な計画が浮かんだようだった。
「西国に戻りたい者は何人いるのだ?」
彼の言葉に、護衛隊長はほっとしたようにうなずいた。
慌ただしく準備が始まった。
ランユウは別の部下を所領に走らせ急ぎ準備させたのちに、日暮れ時に姫と乳母、女たち、そして残る護衛を連れだした。
月明かりと星明かりが頼りの夜の旅。
街道を進むうちはよいが、やがて田舎道になり左右からのびた雑草が迫ってくる。
大人でも心細くなるようなこの風景に、姫は黙って唇を噛んだまま、耐えていた。
メイファ姫は父・竜王が亡くなったという報せを受けた後ずっと泣いていた。
つづく。
メイファ姫ははっきりとランユウに嫁ぐのだと竜王に告げられていた、という。
しかしそれを嫌がり、周りが噂に聞くランユウの事をどう讃えようと
姫は駄々をこねて泣いた。
竜王は仕方なく能力を使って娘を眠らせ、海に出るために川を下る船に乗せた。
そうして親子はそのまま別れを告げることがなかったのだ。
「そうか…。」
話を聞いたランユウはそれだけをつぶやいた。
ランユウは一度竜王と直接会ったことがある。
まだ養父が生きていた頃、ほんの短期間だったが西国に留学させてもらった。
「外国(そとつくに)を直接その目で見、肌で感じることはこの先お前にとってとても貴重な事となろう。」
そう言って送り出してくれた養父とは二度と会うことがなかった。
養父の急死を知って帰国した時には、後を追うように養母も亡くなっていた。
そんな体験をしてきただけに、まだ幼いメイファ姫がどんな想いでこの島国に足を踏み入れたのかと気の毒になった。
護衛隊長は兵士たちの全員が事情を把握しているわけではない、と説明した。
「私が信頼できる兵士のみを厳選して連れてきましたが、中にはいまだ国に残した妻子の元へ帰るつもりのものもおります。事態がどう動くかわからない間は静観しているしかないかと考えておりました。」
ランユウはうなずいた。
「事情はわかった。まず言えることは、姫を姫としてこの国が正式に迎えたという形をとるわけにはいかなくなった、ということだ。」
乳母と護衛隊長はごくりとつばを飲む。
「だが竜王に託されたのが私であるのならば、責任をもって姫と方々をお預かりしよう。」
ほっとした空気が流れた。
ランユウは西国から戻ってきた部下と共に、考えていたプランの概略を説明した。
「西国には姫の船が海賊に襲われて沈没したと思わせる。」
こういった策は初めての方法ではない。
ランユウの部下がうなずいた。
「お任せください。」
そして実際に海賊に襲われて九死に一生を得たこともある彼は、何をどうすればいいのか判っていた。
すぐに詳細な計画が浮かんだようだった。
「西国に戻りたい者は何人いるのだ?」
彼の言葉に、護衛隊長はほっとしたようにうなずいた。
慌ただしく準備が始まった。
ランユウは別の部下を所領に走らせ急ぎ準備させたのちに、日暮れ時に姫と乳母、女たち、そして残る護衛を連れだした。
月明かりと星明かりが頼りの夜の旅。
街道を進むうちはよいが、やがて田舎道になり左右からのびた雑草が迫ってくる。
大人でも心細くなるようなこの風景に、姫は黙って唇を噛んだまま、耐えていた。
メイファ姫は父・竜王が亡くなったという報せを受けた後ずっと泣いていた。
つづく。
Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(4)
│大地の花
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大地の花11 出航【pyo's room】at 2011年06月29日 07:00
この記事へのコメント
久しぶりに、pyoちゃんの書く物語がす~っと
入ってきて、続きを楽しみにしてるよ。
入ってきて、続きを楽しみにしてるよ。
Posted by poponta at 2011年06月28日 15:28
●ぽんちゃん
お、嬉しいわ。^^
続きをお楽しみにー。
お、嬉しいわ。^^
続きをお楽しみにー。
Posted by pyo at 2011年06月29日 01:49
た、楽しいんですけど~!?やっぱり?ウチナーンチュで何度か転生してるだけあって、なんだか感無量(勝手に)何故だかすごく惹かれます。今までの物語も全部読ませて頂きましたが、コレ...ヒットです(p_-)
Posted by ケロリ at 2011年06月29日 01:55
●ケロリさん
ありがとうございます。
なんだか注目度UPしちゃってますね。^^;
きゃ~どうしよ~と時代考証してないのをプチ慌てつつ、やっぱり調べずに書いてます。
ありがとうございます。
なんだか注目度UPしちゃってますね。^^;
きゃ~どうしよ~と時代考証してないのをプチ慌てつつ、やっぱり調べずに書いてます。
Posted by pyo at 2011年06月29日 01:57
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。