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2011年06月30日

大地の花12 嵐の夜

第12話 嵐の夜



船が出航した後。
それからは穏やかな日々が続いた。

残った男達はランユウの指示をうけた地元の者たちの手を借りて何軒か家を作った。
言葉は通じなかったが、なんとか作業をやり遂げるうちには仲良くなっていた。

場所はランユウの田舎の家からほど近い崖の下だ。
イザとなったときにすぐ家に駆けつけられるよう、小さな道と勝手口まで作られた。

ランユウは少し大きめの長屋のような家に姫のお付きの女たちを住まわせた。
その周辺にたてた小さな家に男達が住む。

そしてそれは小さな共同生活エリアとなり、やがてひとつの集落のようなものとなった。

大地の花12 嵐の夜

ランユウはメイファ姫と乳母だけを自分の田舎の家に残し家の管理を任せた。

乳母は名をファーレンという。
知性が瞳に現れている、なかなかの美人だ。

ファーレンとメイファは母娘として振舞った。
ランユウはできるだけ頻繁にこの家に顔を出し、なるたけ泊まるようにした。

おかげで村の者たちはランユウもやっと心許せるおなごが出来たかと噂し、優しい目で見守った。

「少しランユウさまには歳がいってるかのお、ファーレンは。」
「いやいや、ランユウさまは若くていらっしゃるが御年は30歳を超えてるはずじゃ。お似合いの年齢じゃろう。」

実はそれこそがランユウの狙いだった。
ランユウがメイファを養育することについて、こうした噂がたてば誰も疑問を持たなくてすむだろう。





喪が開けて第一王妃が王城に戻ってきた。
挨拶に伺わなければ…と考える間もなく、台風が襲来した。

徐々に激しくなる風雨を迎えながら、ランユウは漁師たちの船がきちんと引き上げられているか作業の見回りにいき、村々に注意を呼びかけ、時間がある限り近場を見て回った。


最後に所領の家にたどり着いた時にはすでに暴風雨となっていた。

「まぁ!ランユウさま!」

しっかりと雨戸が閉まっているか家の外をぐるりまわって確認すると、ランユウは台所の通用口の戸を叩いた。
開けてもらって家の中に入ったランユウは、すでにぐっしょりと濡れている。

ファーレンはランユウの着替えと手ぬぐいを取りに行った。

ランユウは台所の廊下に腰掛けて衣服を脱ぎ、絞った。
水がぼたぼたと落ちる。

すっと手が出て来て、手ぬぐいが出された。
「ん、ありがとう」

手ぬぐいを受け取ろうと手を伸ばしながら振り返ると、メイファだった。

目があうと、口をへの字に曲げ、慌てて手を引いてぱたぱたと向こうにかけてゆく。

少女はなかなか懐いてはくれなかった。
だが手ぬぐいを持ってきてくれたのだ、少しは前進してるのかもしれない。

ファーレンが手ぬぐいと着替えを持ってきた。

「すぐに湯を沸かします。」
濡れた体を温めるものを…と考えたのだろう。

ランユウは台所に降りようとするファーレン止めて、火の用心のために今夜は火をたかないようにと説明した。 灯りももちろんダメだ。

暴風はさらに強くなっていた。

すきま風が吹きこみ、火はこころもとなくあちこちに向かって先をのばしていく。
びゅー!がたがたがたと強い風と雨に、古い家は音をたてて揺れる。



着替えを済ませ家の中に入るとメイファが部屋の隅にうずくまっていた。
耳を塞いで小さな体をさらに小さくしている。

この小さな島国を年に何度か襲う台風。
大陸から来たメイファは生まれて始めて体験したのだ。
怖くて仕方ないのだろう。

「メイファ、大丈夫だよ。明日にはこの嵐は過ぎるから。」

そっと肩にふれると、ぴくりと反応した。
だが逃げようとはしない。動くのさえ怖いのだろう。

ランユウはメイファの隣に座り、かすかに震えている肩に手をやり、引き寄せた。

初めぎゅっと力が入り拒否していた少女だが、
やがて風雨の激しさが増してくるとランユウの胸に顔をうずめた。

びゅー!バリバリバリっ

強い音がしたかと思うと、ドーンと激しい音と地響きがあった。
木が倒れたのだろう、ランユウはその音からどの辺りの木かと見当をつけた。

腕の中の少女の体から震えが伝わってくる。

 様子を見に行くのはなしだ。今夜はとにかく静かに過ごすしかない。

ランユウは少女の髪をそっとなでた。



やがて一日の疲れが襲ってきてランユウは居眠りを始めた。
少女を抱きしめている分、体が心地良く温かい。

かくん、と頭が落ちては戻るランユウの様子に気がついた少女は、顔をあげてランユウの顔をまじまじと見た。

顔が見えるはずはない。
用心のために灯りを消して暗闇の中にいるのだ。

だがメイファの鋭い目は、薄明かりすらないこの家の中にある物をきちんととらえていた。
自分を守って抱いてくれている男の顔も見える。

疲れている、というのは明らかだった。


「ラ…ラン…ユウ?」
小さな声でメイファは呼んだ。
ランユウは眠っている。

「ねぇ…ランユウ、横になって。わたし…わたし、側で寝てあげるから。」
心持ち声のトーンをあげて言ってみる。

「ん…」と、ランユウが目をあけた。

「怖くない、寝てる間に嵐はおさまるよ。」
眠そうな声で言う。

「ランユウ、布団で眠って。」
メイファは立ち上がり、ランユウの手を引っ張った。その先には布団がひいてある。

「ああ…」
ランユウは眠気に勝てない様子で布団の横にごろりと転がった。

メイファはランユウがなぜ布団に寝ないのか気がついた。
メイファを布団に寝かせようとしているのだ。

ビュー!がたがたがた
と、家が揺れる。
何となく、風の向きが変わったような気がした。

二人は並んで寝た。


つづく。



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この記事へのコメント
ちょっと雰囲気が良くなったのがうれしいな♪

展開にワクワク
Posted by ちょこ at 2011年06月30日 07:20
連日の物語更新ありがとうございますm(__)m

これまでの物語は、ひっそり楽しく読ませて頂きましたが、今回は、ランユウの相手を思いやる言動や行動に惹かれ、久しぶりに胸がキュンキュンしちゃって、思わずコメントしてしまいました!(笑)
ランユウ大好きです(^з^)-☆

これからも物語、楽しみにしてますので、無理のない更新で宜しくお願い致しますm(__)m♪
Posted by バムケロ at 2011年06月30日 08:49
●ちょこさん
そうですね~、徐々に仲良くなっていきます。^^

●バムケロさん
コメントありがとうございます。
続きをお楽しみにー。
Posted by pyopyo at 2011年07月02日 01:44
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。
 
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