2011年07月05日
大地の花15 洞窟の乞食
第15話 「洞窟の乞食」
ある日、所領の家にいたランユウに、地元の者たちが相談に来た。
村の端にある洞窟にひとりの乞食が住み込んでいるという。
時々物乞いに来るので食べ物を分けることもあったが、どうも病気らしい、うつる病気だと困るのでどうしよう、という相談だった。
ランユウは村の男達と一緒に様子を見に出かけた。
明るい外から真っ暗な洞窟に入ると、しばらくは何も見えなくなる。
目が慣れるまで入り口でじっとしたまま、ランユウは奥の様子をうかがった。
肌で感じる。
何か空気が違う。
洞窟内はとても涼しいが、それだけではない。
ぴりぴりと内面で感じるものがある。
ランユウの中の龍がうごめくような気がした。
警戒したほうがいいのか?
だが警戒するのとは違う、と感じた。
ならばこの感覚は何なのだろう。
洞窟の中には誰もいなかった。
だが散乱している貝がらなどから、確かに誰かがいたとわかる。
ランユウは周囲をみまわして、さらに奥にすすめる、スリッドのような岩の隙間を見つけた。
近づくと、まるで己に触覚があるかのように感覚が奥を探っているのを感じる。
確かに、誰かいる。
ランユウは声をかけてみた。
すると、さらに奥に逃げこむような様子を感じた。
「灯りを。」
後ろにいたものたちに声をかけると、ロウソクに火が灯され、もち手がつけられたものが渡された。
炎は揺れない。
風はないようだ。
と、思う間もなく奥からびゅっと風が吹き、ロウソクが消えた。
「風があるな。向こう側に抜け道でもあるのか?」
ランユウが誰ともなくきくと、一人の若者が答えた。
「はい、子供の頃ここで遊んだことがあります。向こうは海にむかって小さな口があいていますが、崖なのでとても出入りはできません。よほど小さな子どもでもないと…」
それなら少しの明るさはあるだろう、とランユウはそのまま進んでみることにした。
息を潜め、肌と耳であたりを感じる。
いざとなったらすぐに戦えるよう刀を抜けるように準備していた。
狭い。
と、思う間もなくあたりが少し広がり、小部屋のような場所に出た。
つるりとした鍾乳石がいくつも垂れ下がり、視界をさえぎり、足元を危うくする。
だがこのつるりとした水分が、どこからか入り込む微かな明るさを拡散させてくれていた。はっきりと見えるわけではないが、暗闇でもない。
「ひっ」
という声が聞こえ、誰かが倒れるような音がした。
ランユウはとっさにその声の方向にすすみ、柱のような大きな鍾乳石を回りこんでその向こうで尻餅をついている乞食をみつけた。
「大丈夫か?転んだのか?」
声をかけると、乞食は足をちぢめ、じりじりとお尻から後ろにさがろうとした。
だがこのあたりは鍾乳石の水分が多く、ツルツルと滑る。
乞食は足をただつるつると動かしただけだった。
「怖がらなくていい。私はこの辺りの里主(さとぬし)だ。
お前に何かしようとしてるわけではない。
お前がここに一人で住んで、病らしいと聞いたのでやってきた。
何か…必要なものはないか?」
優しい声で話しかけると、乞食は力が抜けたように動きを止めた。
それにしても暗い。
ここでは顔も見えないから…と、ランユウは洞窟の外にでるよう促した。
手を差し出すと、おそるおそる掴んでくる。
だが触れた途端、お互いまるで火花でも飛んだようなピリっとした感触を受け、手を離した。
何があったのか?
今のは・・・?
ふいに、ランユウの中に何かが浮かんだ。
彼の中の龍が激しくうごめく。
まさか…
ランユウはもう一度手を差し出したが、乞食は顔を横にふった。
ランユウは乞食に近づいてしゃがみこんだ。
じっと顔を見る。
乞食は再び逃げようと慌てて右に左にと体を動かそうとし、ランユウの左右に村の男達がいるのに気がついてパニックを起こしたようだった。
「ひぃぃぃ・・・」
四つん這いになって逃げようとする乞食をとっさに引き止めた。
腰に手をあてて持ち上げ、こちらを向かせる。
今度は火花は散らない。
いや、火花が散ったわけではない。
ランユウの内面に何かが合図を送ったのだ。
「お母さん!」
ランユウの口から出た言葉に、乞食の老婆は恐れるように震えだし、村の男達は驚いて顔を見合わせた。
つづく
目が慣れるまで入り口でじっとしたまま、ランユウは奥の様子をうかがった。
肌で感じる。
何か空気が違う。
洞窟内はとても涼しいが、それだけではない。
ぴりぴりと内面で感じるものがある。
ランユウの中の龍がうごめくような気がした。
警戒したほうがいいのか?
だが警戒するのとは違う、と感じた。
ならばこの感覚は何なのだろう。
洞窟の中には誰もいなかった。
だが散乱している貝がらなどから、確かに誰かがいたとわかる。
ランユウは周囲をみまわして、さらに奥にすすめる、スリッドのような岩の隙間を見つけた。
近づくと、まるで己に触覚があるかのように感覚が奥を探っているのを感じる。
確かに、誰かいる。
ランユウは声をかけてみた。
すると、さらに奥に逃げこむような様子を感じた。
「灯りを。」
後ろにいたものたちに声をかけると、ロウソクに火が灯され、もち手がつけられたものが渡された。
炎は揺れない。
風はないようだ。
と、思う間もなく奥からびゅっと風が吹き、ロウソクが消えた。
「風があるな。向こう側に抜け道でもあるのか?」
ランユウが誰ともなくきくと、一人の若者が答えた。
「はい、子供の頃ここで遊んだことがあります。向こうは海にむかって小さな口があいていますが、崖なのでとても出入りはできません。よほど小さな子どもでもないと…」
それなら少しの明るさはあるだろう、とランユウはそのまま進んでみることにした。
息を潜め、肌と耳であたりを感じる。
いざとなったらすぐに戦えるよう刀を抜けるように準備していた。
狭い。
と、思う間もなくあたりが少し広がり、小部屋のような場所に出た。
つるりとした鍾乳石がいくつも垂れ下がり、視界をさえぎり、足元を危うくする。
だがこのつるりとした水分が、どこからか入り込む微かな明るさを拡散させてくれていた。はっきりと見えるわけではないが、暗闇でもない。
「ひっ」
という声が聞こえ、誰かが倒れるような音がした。
ランユウはとっさにその声の方向にすすみ、柱のような大きな鍾乳石を回りこんでその向こうで尻餅をついている乞食をみつけた。
「大丈夫か?転んだのか?」
声をかけると、乞食は足をちぢめ、じりじりとお尻から後ろにさがろうとした。
だがこのあたりは鍾乳石の水分が多く、ツルツルと滑る。
乞食は足をただつるつると動かしただけだった。
「怖がらなくていい。私はこの辺りの里主(さとぬし)だ。
お前に何かしようとしてるわけではない。
お前がここに一人で住んで、病らしいと聞いたのでやってきた。
何か…必要なものはないか?」
優しい声で話しかけると、乞食は力が抜けたように動きを止めた。
それにしても暗い。
ここでは顔も見えないから…と、ランユウは洞窟の外にでるよう促した。
手を差し出すと、おそるおそる掴んでくる。
だが触れた途端、お互いまるで火花でも飛んだようなピリっとした感触を受け、手を離した。
何があったのか?
今のは・・・?
ふいに、ランユウの中に何かが浮かんだ。
彼の中の龍が激しくうごめく。
まさか…
ランユウはもう一度手を差し出したが、乞食は顔を横にふった。
ランユウは乞食に近づいてしゃがみこんだ。
じっと顔を見る。
乞食は再び逃げようと慌てて右に左にと体を動かそうとし、ランユウの左右に村の男達がいるのに気がついてパニックを起こしたようだった。
「ひぃぃぃ・・・」
四つん這いになって逃げようとする乞食をとっさに引き止めた。
腰に手をあてて持ち上げ、こちらを向かせる。
今度は火花は散らない。
いや、火花が散ったわけではない。
ランユウの内面に何かが合図を送ったのだ。
「お母さん!」
ランユウの口から出た言葉に、乞食の老婆は恐れるように震えだし、村の男達は驚いて顔を見合わせた。
つづく
Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(3)
│大地の花
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第16話 「老婆」乞食は驚いて動きを止めた。 「おかあさん…」 ランユウもまた口から出た自分の言葉に驚いていた。だが心ははっきりと確信していた。 何の証拠もない。 ただ、どこ...
大地の花16 老婆【pyo's room】at 2011年07月06日 07:00
この記事へのコメント
お母さん!
朝からドキドキ…
昨日のは投稿ミスじゃなかったんですね(*´∇`*)確かに夕涼みの時間だぁ〜♪
朝からドキドキ…
昨日のは投稿ミスじゃなかったんですね(*´∇`*)確かに夕涼みの時間だぁ〜♪
Posted by ちょこ at 2011年07月05日 09:02
てっきり男の人で、血縁者かと思ったら、母ですか~~~
読んでたら、一緒にビリビリした~!!
読んでたら、一緒にビリビリした~!!
Posted by minto at 2011年07月05日 09:36
●ちょこさん
ドキドキですよね~。
予定外に話が進んじゃって、どうするんだ私~な感じです。^^;
ま、書いてりゃ続き出るだろうけど。
●mintoさん
およよ 一緒にビリビリしちゃいましたか。
感度よすぎ~(笑)
ドキドキですよね~。
予定外に話が進んじゃって、どうするんだ私~な感じです。^^;
ま、書いてりゃ続き出るだろうけど。
●mintoさん
およよ 一緒にビリビリしちゃいましたか。
感度よすぎ~(笑)
Posted by pyo at 2011年07月06日 00:04
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。