2011年07月19日
大地の花23 夜明けの祈り
第23話 「夜明けの祈り」
メイファは年頃になって気難しくなったな、とランユウが言うと、ファーレンは少し躊躇しながら肯いた。
ランユウには思春期の女の子が何を考えていちいちつっかかったり不機嫌になっているのかさっぱりわからない。
だがメイファの気持ちは、ファーレンには痛いほどわかっていた。
かと言って主となるランユウの呼び出しに応じないわけにもいかない。
ファーレンは全てを流れのままに、任せた。
いずれメイファも理解し己の感情をおさめる事を学ぶ。
それまで大事にしていればいい、と思った。
ある朝のこと。
メイファは夜明け前に水汲みに出てランユウが出掛ける姿をみかけた。
ランユウは傷が癒えてから殆ど毎朝こうやって何処かにでかけ、朝餉までには戻ってくる。
どこに行くのだろう…。
メイファは好奇心のままに後をつけてみた。
草の生い茂る草原の間にかすかな獣道がある。
踏みしめられたその道を、夜明け前の薄明かりのなか追いかけてゆくとやがて小高い丘に登り始めた。
海岸ぎわの崖に続くその道には身を隠す場所があまりない。
メイファは躊躇して下から覗いていたが、声をかけられた。
「隠れてないで登ってこい、メイファ。」
ランユウの優しい声にどこか反発したい気持ちが湧き上がったが、上に何があるのかが気になる。
好奇心に負けて丘を登ると、ちょうど日が水平線から昇り始める所だった。
だが冬場のこの島の周囲は雲が多い。
水平線近くに陣取った雲は朝日の最初の一条を見せまいと意地悪をしているようだ。
ランユウは崖の上で日の出に向い、手を合わせていた。
ただ無心の祈りの清浄なエネルギーが辺りを覆う。
メイファの心もこのオーラに覆われて静まり、手を合わせた。
同じように静かな心待ちで何も考えず何も望まない祈りを捧げる。
すると見る間に雲がはれ、海の上に生まれ落ちたばかりの太陽の光が二人を照らし出した。
二人の顔と身体がオレンジ色に染められていく。
闇に覆われていた暁の空が美しく色のグラデーションを見せて変化してゆくのが見えた。
「綺麗…。」
メイファがもらした一言に、ランユウが肯いた。
やがて二人は歩を合わせて家に向かった。
だが朝餉のいい匂いが漂いだすほと村に近づくと我に返ったメイファは水汲みの途中で容器もほおりだしていたことを思い出し、慌てて走り先に帰ったのだった。
ランユウの朝の祈りはほぼ日課だ。
メイファはそれから何となく毎朝付き合うようになり、 やがてランユウとファーレンの仲に気付いてからぎくしゃくしていた自分の態度を幼い態度だったと考えるまでに落ち着いた。
何といってもランユウは国を追われたメイファたちを受け入れ養育してくれたのであり、ファーレンはメイファにとって名実ともに母親であった。
だがメイファは父・亡き竜王にランユウのもとに嫁ぐようにと言われた事を忘れてはいない。
王族は多くの側女を持つのが故郷でもこの国でも当たり前の事ではあったが、年頃の少女にとってはやはり大きな問題におもえるのだった。
つづく。
ファーレンは全てを流れのままに、任せた。
いずれメイファも理解し己の感情をおさめる事を学ぶ。
それまで大事にしていればいい、と思った。
ある朝のこと。
メイファは夜明け前に水汲みに出てランユウが出掛ける姿をみかけた。
ランユウは傷が癒えてから殆ど毎朝こうやって何処かにでかけ、朝餉までには戻ってくる。
どこに行くのだろう…。
メイファは好奇心のままに後をつけてみた。
草の生い茂る草原の間にかすかな獣道がある。
踏みしめられたその道を、夜明け前の薄明かりのなか追いかけてゆくとやがて小高い丘に登り始めた。
海岸ぎわの崖に続くその道には身を隠す場所があまりない。
メイファは躊躇して下から覗いていたが、声をかけられた。
「隠れてないで登ってこい、メイファ。」
ランユウの優しい声にどこか反発したい気持ちが湧き上がったが、上に何があるのかが気になる。
好奇心に負けて丘を登ると、ちょうど日が水平線から昇り始める所だった。
だが冬場のこの島の周囲は雲が多い。
水平線近くに陣取った雲は朝日の最初の一条を見せまいと意地悪をしているようだ。
ランユウは崖の上で日の出に向い、手を合わせていた。
ただ無心の祈りの清浄なエネルギーが辺りを覆う。
メイファの心もこのオーラに覆われて静まり、手を合わせた。
同じように静かな心待ちで何も考えず何も望まない祈りを捧げる。
すると見る間に雲がはれ、海の上に生まれ落ちたばかりの太陽の光が二人を照らし出した。
二人の顔と身体がオレンジ色に染められていく。
闇に覆われていた暁の空が美しく色のグラデーションを見せて変化してゆくのが見えた。
「綺麗…。」
メイファがもらした一言に、ランユウが肯いた。
やがて二人は歩を合わせて家に向かった。
だが朝餉のいい匂いが漂いだすほと村に近づくと我に返ったメイファは水汲みの途中で容器もほおりだしていたことを思い出し、慌てて走り先に帰ったのだった。
ランユウの朝の祈りはほぼ日課だ。
メイファはそれから何となく毎朝付き合うようになり、 やがてランユウとファーレンの仲に気付いてからぎくしゃくしていた自分の態度を幼い態度だったと考えるまでに落ち着いた。
何といってもランユウは国を追われたメイファたちを受け入れ養育してくれたのであり、ファーレンはメイファにとって名実ともに母親であった。
だがメイファは父・亡き竜王にランユウのもとに嫁ぐようにと言われた事を忘れてはいない。
王族は多くの側女を持つのが故郷でもこの国でも当たり前の事ではあったが、年頃の少女にとってはやはり大きな問題におもえるのだった。
つづく。
Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(2)
│大地の花
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この記事へのコメント
情景がありありと浮かび、一緒に思わず朝日に祈っちゃってました
描写具体的で引き込まれてます…。
描写具体的で引き込まれてます…。
Posted by ちょこ at 2011年07月19日 19:18
●ちょこさん
ありがとうございますー。
やっぱり実体験が入ってるのは描写が細かくなっちゃいますね。(^^ゞ
ありがとうございますー。
やっぱり実体験が入ってるのは描写が細かくなっちゃいますね。(^^ゞ
Posted by pyo at 2011年07月21日 02:21
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。