2011年07月27日
大地の花30 合点
第30話 「合点」
翌朝、メイファは不機嫌にぶすっとしたまま過ごした。
昨夜よりずっと続く日焼けのヒリヒリとした痛みと。
ランユウが帰ってきて久しぶりに顔をみた嬉しさと気まずさが交差してまともに顔をあげられない。
ランユウはメイファの表情を見ただけで必要以上の事は何も言わず、
黙ってもくもくと食事を終えると、すぐに出かける準備を始めた。
「メイファ。」
外からこっそりと声をかけられて振り向くと、タルーがいた。
メイファは門から外に出てぐるりと道を回りタルーが隠れるように立っている場所まで行った。
「おはよ。何?」
とタルーは手にした葉っぱを渡した。
「日焼け、痛いだろう?これ昨日渡すつもりが渡しそびれてさ、朝一番でとってきたんだ。ちょっと揉んで、火にあぶって冷ましてからね、痛いところに当てておくといいんだ。」
ふうん、ありがとう。
とメイファが薬草を受け取っていると、馬の蹄の音がした。
振り返るとランユウが出て行くところだ。
ファーレンが頭を下げて見送っていた。
メイファは慌てて見送りに行こうとしたが、ランユウはあっという間に木々の向こうに行ってしまった。
「ランユウさまお戻りだったんだね。」
タルーが話しかける。
うん、とメイファはうなずいた。
「また旅にでるからって。今度は国内の見廻り。」
「すごい方だな、ランユウさまは。」
俺たちと見てるところが違うんだよな、と言って、タルーはメイファが起こした騒ぎの後の話をした。
「ランユウさまが一貫もの豚肉を持たせてくださったけど、うちはあんなに一度に食べられないしさ、かといってあんな大きな豚肉を塩漬けにするほどの瓶も塩もないし、どうするんだろうと思ったら
全部おっかぁに取り上げられたんだ、おかげで俺は一口も食べてない。」
メイファは驚いた。
「なんで?だって私のせいでタルーが殴られて…ごめんなさい、それで、タルーに詫びだってランユウは豚肉を渡したんでしょ?」
「うん、それなんだ。
おっ母はあれを料理して、細かくわけて、村じゅうに配ったんだよ。
『ランユウさまが詫びだといって渡してくださったから、一緒に食べてくださいな』って言いながらね。
俺はその小分けにして包んだのを持って一緒に歩いたんだ。
そしたらおっ母は俺の顔の傷もわざわざ見せてさー。
最初はさ、何でそんな事いちいち言って回るんだって思ったんだけど、あとでおじさんに言われたよ。
あれがなかったら、みんな結局俺を疑ったままになっただろう、って。
でもランユウさまが俺に詫びたって事は、俺はホントになんにもしてないんだな、ってみんな納得したんだよってさ。
おかげで俺は、助かった。
疑われたままだったらいつか村八分にされたかもしれない、だけどそんな事にならなかったんだ、ランユウさまがくださった豚肉のおかげで。」
メイファは唖然とした。
タルーは両親と弟の4人暮らしだ。
4人暮らしには大いに手に余る量の豚肉をどうして渡すんだろう、タルーの傷をなぜ治しちゃいけないんだろうと疑問に思っていたが、裏にそういう訳があったのかとやっと合点が行く。
ランユウは…本当に、大人なんだ…。
ふいに、メイファの中で何かが落ちたような気がした。
見た目はタルーやメイファともあまり変わらない、少年のままの姿を保っているとしても。
ランユウには年齢と経験に知識と知恵、思考を重ねてきた者のもつ深さがあった。
そう思うと、ランユウにつっかかったり膨れっ面をしていた自分がふいに恥ずかしくなった。
子どもっぽい…私…旅立ちの朝に膨れっ面しか見せなかった…。
「タルー、ありがとうね。この薬草、もらっとくね。」
メイファはタルーに笑顔を見せると、ヒリヒリする肌と真っ赤に焼けた鼻やほっぺの痛みを意識しながら、中に戻った。
もう、大人になろう。
ランユウを好きなら、好きになれるほど大人になろう。
メイファは今旅だったランユウの帰りを、祈るような気持ちで想うのだった。
つづく。
外からこっそりと声をかけられて振り向くと、タルーがいた。
メイファは門から外に出てぐるりと道を回りタルーが隠れるように立っている場所まで行った。
「おはよ。何?」
とタルーは手にした葉っぱを渡した。
「日焼け、痛いだろう?これ昨日渡すつもりが渡しそびれてさ、朝一番でとってきたんだ。ちょっと揉んで、火にあぶって冷ましてからね、痛いところに当てておくといいんだ。」
ふうん、ありがとう。
とメイファが薬草を受け取っていると、馬の蹄の音がした。
振り返るとランユウが出て行くところだ。
ファーレンが頭を下げて見送っていた。
メイファは慌てて見送りに行こうとしたが、ランユウはあっという間に木々の向こうに行ってしまった。
「ランユウさまお戻りだったんだね。」
タルーが話しかける。
うん、とメイファはうなずいた。
「また旅にでるからって。今度は国内の見廻り。」
「すごい方だな、ランユウさまは。」
俺たちと見てるところが違うんだよな、と言って、タルーはメイファが起こした騒ぎの後の話をした。
「ランユウさまが一貫もの豚肉を持たせてくださったけど、うちはあんなに一度に食べられないしさ、かといってあんな大きな豚肉を塩漬けにするほどの瓶も塩もないし、どうするんだろうと思ったら
全部おっかぁに取り上げられたんだ、おかげで俺は一口も食べてない。」
メイファは驚いた。
「なんで?だって私のせいでタルーが殴られて…ごめんなさい、それで、タルーに詫びだってランユウは豚肉を渡したんでしょ?」
「うん、それなんだ。
おっ母はあれを料理して、細かくわけて、村じゅうに配ったんだよ。
『ランユウさまが詫びだといって渡してくださったから、一緒に食べてくださいな』って言いながらね。
俺はその小分けにして包んだのを持って一緒に歩いたんだ。
そしたらおっ母は俺の顔の傷もわざわざ見せてさー。
最初はさ、何でそんな事いちいち言って回るんだって思ったんだけど、あとでおじさんに言われたよ。
あれがなかったら、みんな結局俺を疑ったままになっただろう、って。
でもランユウさまが俺に詫びたって事は、俺はホントになんにもしてないんだな、ってみんな納得したんだよってさ。
おかげで俺は、助かった。
疑われたままだったらいつか村八分にされたかもしれない、だけどそんな事にならなかったんだ、ランユウさまがくださった豚肉のおかげで。」
メイファは唖然とした。
タルーは両親と弟の4人暮らしだ。
4人暮らしには大いに手に余る量の豚肉をどうして渡すんだろう、タルーの傷をなぜ治しちゃいけないんだろうと疑問に思っていたが、裏にそういう訳があったのかとやっと合点が行く。
ランユウは…本当に、大人なんだ…。
ふいに、メイファの中で何かが落ちたような気がした。
見た目はタルーやメイファともあまり変わらない、少年のままの姿を保っているとしても。
ランユウには年齢と経験に知識と知恵、思考を重ねてきた者のもつ深さがあった。
そう思うと、ランユウにつっかかったり膨れっ面をしていた自分がふいに恥ずかしくなった。
子どもっぽい…私…旅立ちの朝に膨れっ面しか見せなかった…。
「タルー、ありがとうね。この薬草、もらっとくね。」
メイファはタルーに笑顔を見せると、ヒリヒリする肌と真っ赤に焼けた鼻やほっぺの痛みを意識しながら、中に戻った。
もう、大人になろう。
ランユウを好きなら、好きになれるほど大人になろう。
メイファは今旅だったランユウの帰りを、祈るような気持ちで想うのだった。
つづく。
Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(5)
│大地の花
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この記事へのコメント
メイファの成長がうれしい
タルーがどうしたかしらと気になっていたので、解決してて良かったです
タルーがどうしたかしらと気になっていたので、解決してて良かったです
Posted by ちょこ at 2011年07月27日 09:34
●ちょこさん
はーい、メイファも少女から大人へ成長していきます。
タルー、私もどうした?と思ってたら
豚肉を配っている姿がみえたので書きました~。
あの豚肉が少量で家族だけで食べてたら
村の人達にやっぱり反発くらったろう…
なるほどなー、な話でした。
はーい、メイファも少女から大人へ成長していきます。
タルー、私もどうした?と思ってたら
豚肉を配っている姿がみえたので書きました~。
あの豚肉が少量で家族だけで食べてたら
村の人達にやっぱり反発くらったろう…
なるほどなー、な話でした。
Posted by pyo at 2011年07月27日 13:02
経験があっても、みんなが大人になるわけではありませんよね。
周りのことが見えているか・・・
何を基準に考えるか・・・
自分の言葉を理解してもらえるのか・・・
ランユウは大人ですね。(#^.^#)
周りのことが見えているか・・・
何を基準に考えるか・・・
自分の言葉を理解してもらえるのか・・・
ランユウは大人ですね。(#^.^#)
Posted by はな at 2011年07月28日 00:23
あの豚肉をみんなに配って歩いたお母さんもえらい!!
メイファ 急いで大人にならなくてもいいのに~~~。。。
メイファ 急いで大人にならなくてもいいのに~~~。。。
Posted by minto at 2011年07月28日 14:01
●はなさん
そうですね、周囲の状況判断まで含めて
自分の感情に振り回されない…
ランユウはその分よく溜め息ついてますけどね☆^^
●mintoさん
こんな風に機転のきく女性になりたいなーと思いましたよー。^^;
メイファも頑張るようですよん。
そうですね、周囲の状況判断まで含めて
自分の感情に振り回されない…
ランユウはその分よく溜め息ついてますけどね☆^^
●mintoさん
こんな風に機転のきく女性になりたいなーと思いましたよー。^^;
メイファも頑張るようですよん。
Posted by pyo at 2011年07月28日 22:03
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。