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2011年08月07日

大地の花41 謁見

第41話 「謁見」



「ファーレンさん、王さまが…お呼びだそうです。」

翌日。
老ハティルに声をかけられ、ファーレンははっとして顔をあげた。
不安そうなメイファの目をみて、ファーレンは笑顔を作り、立ち上がる。

大地の花41 謁見


ランユウは山城按司に頼んでメイファの言うとおり田舎の家での療養を王に願い出ていた。

「好きな場所で最期を迎えたい」
それが弟の最期の願いと聞いて驚いたヒオウ王は山城按司から詳しく話をきいた。

そして感染の恐れがあるとされる熱病患者にもかかわらず親身に世話をしている下女が里から来ている、と聞いてその下女がもしやランユウが囲っている女かと気づいた。

好奇心がわく。
確か助けた難民だとの風の噂だったが、ランユウは否定も肯定もしなかった。

どんな女なんだろう。
そうして、王はファーレンを呼び出した。




裏口から外に出ると、メイファは思い切ってファーレンに言った。
「私も行くわ。」

「いや、俺が一緒にいこう」
竜族の男たちも心配したが、ファーレンは首を横に振った。

「呼び出されたのは私一人です。」
ファーレンはランユウの世話を残る者たちに頼むと、一人で迎えの兵士と共に王城に向かった。

メイファは部屋に戻りランユウの手を握りながら養母の無事を祈った。
ランユウはまだうつらうつらと夢と現を行き来している。



下女として参内したので、庭先での謁見だった。
王は室内から出てくると、土の上で土下座しているファーレンに顔を上げるように言った。

じろじろと、見る。

 確かに美人だ。
 磨いて化粧させればさぞや映えることだろう。

王はランユウの死後どこかに世話してやってもいいか、と考えた。
もちろんその前に自分が味見してから、と考えがよぎる。


「お前は里でランユウと共に暮らしていたのだな?」
「はい、恐れながら王さま、ランユウさまのお世話になっておりました。」

だが見た目が若い弟の相手には少し年齢が高いかな、と思う。


「薬師の話だと、ランユウはもうこの先の望みはないという。それでもおまえは最期まできちんと世話するというのか?」

「はい、王さま。ランユウさまには命を助けていただいたご恩がございます。心からお世話させていただきたいと思っています。」


すーっと二人の間をオレンジ色の風が通った。

王はファーレンの持つ雰囲気に色っぽさよりも母親のもつ強さを感じ、なぜ弟がファーレンを気に入っていたのか判った気がした。

すると急激に興味が消え失せる。
それ以上何も聞く気がおきなくなり、たずねようと思っていたことすら忘れてしまった。


「そうか。よくよく世話をしてくれ。心残りがないようにな。
 兵士を遣わすから、必要なものがあれば遠慮なく要望を出すが良い。」

ランユウは里の家へ、最期を迎えるために移されることになった。

入れ違いで家督を継いだジンユウとその妻子がこの本家の屋敷に移ると決まり、ランユウの移動の準備とジンユウの準備のために事前に家人がやってきて屋敷は一時的に賑やかな騒ぎとなった。

竜族の男たちはこっそりと舟で元の浜に戻り、里の家でランユウを迎える準備に入る。



数日後。
準備が済み、ランユウを乗せた牛車が出発するのを王は中庭から見送った。

熱病の症状は収まりすでに誰もランユウから感染していないことが解っている。
だが大型船が全滅した原因である熱病だ、という診断は覆されることはない。

そのため王は再び弟と会うことは叶わなかった。


いつまでも若く、そして多才で活発な弟はヒオウ王にとっても国にとってもいろんな意味で重要な存在だった。

その弟が、逝く。

王は浮かんだ涙をおさえて目をつぶり、それから空を見上げた。

おそらく王自身の世が終わっても同じように若く溌溂と世を導いて行くのだろうと思っていた。
そう思うたび嫉妬にも憧れにも似た感情がいつも湧き上がったものだった。

 幼い頃から共に心を許してきた大事な存在でもあった弟よ。
 これで別れなのだな…。

王は街道の向こうに見えなくなるまで、一行を見送った。






がた。がた。がた。と牛車はゆっくりと進んだ。

揺れる牛車で病人が苦しくないようにと干し草を敷き詰め、その上に布団を敷いたベッドを作り、ランユウはそこに寝かされた。

天蓋付きの牛車は周囲を布で覆われているので外は見えないが、日差しと風そして通りから見送る人の目から守られている。


ふとランユウの目が開き、ずっと手を握りしめてエネルギーを送り続けているメイファの目を見た。

『…死んでいく俺を看取るだけだ。辛くて悲しいだけだぞ…。』
『そんな事にはならないわ。助けてみせる。元気にするから。』
メイファもまた目でこたえた。


空には何体かの龍が牛車の上を飛んでいたが、人の目には映っていなかった。

つづく。



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Posted by 町田律子(pyo) at 07:07│Comments(2)大地の花
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この記事へのコメント
777ですね♪
Posted by お~しゃん at 2011年08月07日 20:40
●お~しゃんさん
さすが、気づきましたか。^^
Posted by pyo at 2011年08月07日 21:38
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。
 
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