pyo's room

「お父さん、ごめんなさい。僕が先に話してしまったから…。」
リーファンが謝りに来た。

ランユウは頷いて息子に応えると、立ち上がって旅の支度を始めた。
黙々と準備をしていると、やがてメイファが静かに近づいてきた。

「…行かないで。」
「そうは行かない。」

「いやだ。また…何かあったら…」
しゃくりあげたメイファに驚いて、ランユウは振り向いた。

昔と変わらないな、と思う。

ランユウが戦に出て怪我をして帰ってきた時。
熱病に何度も死にかけた時。
漁に出て怪我をしてしまった時。

メイファは同じように感情を爆発させたり、泣いたりした。

そう思い出すと愛しさが沸き上がってくる。

「メイファ。今度は王に会いに行くだけだ。
　別に船に乗る訳でも戦に行くわけでもない。
　ただ、王城がここより遠くに移ったから数日かかるだろうというだけだよ。心配ないから。」

立ち上がり、そっと抱きしめて説明すると、メイファはこくんとうなずいた。
となりの部屋からそっと見ていたリーファンは、ほっとした笑顔を見せた。




王城へは、馬で半日近くかかってしまった。
スイの地がどこにあるかはわかっているが、第一王妃一族の領有する土地にはあまり足を運んだ事がない。

通りやすい街道は東西それぞれの海沿いにあり、途中から山の中を通る道をたどっていくことになる。

もう一つの街道はずっと山道になるが古代から人々に信仰されている洞窟への参拝道をたどることだった。
ランユウはそこを選び、同行したスーリンとジンルーと共に、洞窟に入って手を合わせた。

「ここは…龍神がおられるようです」
ジンルーがすぐに反応した。
ランユウはうなずいた。

「龍神が通られる道がこの洞窟にあると言われている。何か感じるか？」
三人はしばらく手を合わせたまま感じようとしてみたが、やがてジンルーが言った。

「メイファを連れてきた方がいいかも知れませんね。」
ランユウは苦笑して洞窟を出た。



スイの土地は高台だ。
今やこの周辺の土地は急激に宅地開発が進み、国一番の街になっていた。

ここから坂の下にある西の港は貿易で賑わい、その周辺に大きな市がたっているらしい。
東の港は別のルートで来る船や聖域である島への行き来の船で賑わっている。
南の港もまた賑わいをみせているという。

考えると、スイの地は王城として地の利がかなりあるな、とランユウは考えた。

天候に左右はされるが、すぐに雑草に覆われる地の道よりも船の方がとにかく便利なのだ。
その港を三方に置くこの王城は、旧王城よりも国を富み栄えさせる可能性を持っているだろう。


「ランユウさま、これなら行き来するなら船の方が早いかもしれませんね。」
スーリンの言葉に、ランユウはうなずいた。

　自由になる船がいる。
　漁船ではなく、もう少ししっかりした船がいい。

坂道を登りながら、ランユウは美しい島を見下ろせるこの高台の景色に目を細めた。


つづく。