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2011年10月07日

大地の花65 イジメ

第65話 「イジメ」


数ヶ月経った。

メイファはおとなしく城の片隅でひっそりと赤ん坊の世話だけで過ごそうとしていた。
だが国内でも何かと目立つランユウの妻ともなると、そうも行かないらしい。

「だいたい、ランユウ様が悪いのですわ。」
侍女のソイホンはさすがに腹に据えかねたようだ。
「もう少しこちらに気を配ってくださらないと。このままじゃ殺されてしまいます。」

メイファが住む一画、西の端は明らかに陰湿なイジメにあっていた。

大地の花65 イジメ


ランユウは忙しく国内を飛び回っていてひと月に一度程度しか帰って来ない。


ランユウはまず国内の軍隊をきちんと編成しなおし、訓練体系を整えた。
海と陸とでは戦闘方法が違う。
訓練そのものも違ってくるが、ランユウはその両方をこなせる人材を求めた。

兵士たちを納得させるにはまず己からとばかりに実力を示し、さらに兵たちと親しく交わりその上で士気をあげる。

ある程度の成果があがったところで一連の訓練や情勢把握を任せられる人材を掴み、配置しなおす。
そうして完全に軍を任せられるようになってから、次は領地の視察に出発した。


海運に使える船は2隻。
領地の港まで移動し、昔から推奨して栄えさせていた貝細工や漆塗りの高級器、螺鈿の原材料となる貝、それに大量の塩や海の幸の干物などを船に乗せて大陸貿易に送り出した。

幸い昔ランユウを死の船から救った海賊たちと出会えたことから、ランユウは彼らにこうした海運を任せてみた。
すでに海賊ではなく正規の商人だとしてその印に指輪を渡そうとしたところ、彼らがすでに持っていたことに笑いが出る。


旧王都である城下の街は、ランユウが戻ったことにより活気を取り戻した。

ランユウは街の流通がスムーズにいくように地元の者たちと意見交換し、市の開催を許可した。
そういった一切の城下の相談や取締りを竜族のランマオとコウトウに任せ、また次に走る。


田舎の家はタルー夫婦に管理を任せた。

ランユウが試していたハーブ畑を任せるのにタルーほど適している男はいない、とランユウは考えたのだ。
このハーブ類はいずれ薬草として薬師たちに売りつけるよう、村の者の治療にはただで使うようにランユウはタルーに指示していた。


こうした流れを数ヶ月がかりで整える間にもランユウは王城に戻って王に現状の報告をしたり軍や各地からの国内情勢の報告を受け必要なら新たな指示をだしたりと忙しい。


たまに何も考えずに釣り道具を持って海に漕ぎ出したいものだ、とランユウは常に側におき連れ歩いている息子のリーファンにこぼしたこともあった。
リーファンは今やランユウの秘書的役割をになっている。



そんな訳で。
たまにメイファのもとに戻ると、ランユウは安心するのか殆ど話しも食事もせずにごろりと寝てしまう。
メイファはぶつくさモンクをいいながらも、ランユウの世話をした。

「おと…父上は本当にお母さんに心を許してるんだなって思うよ。」
ある日リーファンは寝てしまったランユウを着替えさせようとやっきになっているメイファに言った。

「だってさ、こんなに乱暴に動かしてもぐっすり眠って起きないって…普段外にいるときの父上からは考えられないよ。ほんとに小さな物音でも飛び起きるんだ。いつも寝てないんじゃないか、って思うくらい緊張してる。」

メイファはそれを聞いてやっと夫のモンクを言うのをやめた。


しかし翌朝になるとまた早朝から仕事に出発してしまうことも多い。

そしてランユウはこうしてメイファの元へ行ったとしても、同じ城内に住む正妃の紅花姫のところへは殆ど顔を出さなかった。




紅花姫はランユウが城に帰ってる、顔を出すかもしれないという連絡が来ると何時でも快適に迎えられるよう準備をさせていた。

それが、彼女の役割だと教えられていたとおりにしただけだと本人は考えている。
やはり朝までなしのつぶてで何の連絡もわたりも無いと心が萎えるのが、周囲の者たちにも伝わっていた。

はっきりと憤ったのは王女の侍女たちだ。

「きっとあのメイファとかいう難民がランユウさまを引き止めているんですわ。」
「子どもを産んだのをたてにして…」

ひと月、二月と日を重ねる程にその想いは膨れ上がり、やがて形となってメイファの方へ届くようになった。


最初は、食事だった。
届けられた食事の量が極端に少なかったり質が悪かったりした。

それに対しメイファの侍女たちが抗議すると、あっさりと食事の準備が「忘れられた」。


抗議の結果として母屋にあたる紅花姫の棟からの食事の配膳が無くなったため、メイファの住む西の端では侍女たちが交代で調理をすることにした。

だが、頼み込んで分けられるようになった食材は、どのようにしろ分量が少ない。
1食分を1日分としてカウントしているとしか思えない量だった。

メイファと侍女たちはそれを2食にわけて食べた。


おかげで全員、みるみる痩せてくる。
メイファはまだ乳が離れぬ幼子を抱きながら、それでも自分は侍女たちと同量の食事にするようにと言った。

「だって、あなた達のほうが私より忙しいわ。いろいろ働いてくれてるのだもの。」

「メイファさまはまだ幼きシェイオンさまにお乳をやってらっしゃいます。十分な栄養が必要な時ですわ。」

侍女たちは話し合った挙句、こっそりと自分たちの着物やかんざしを街で売り、食料を持ち帰る、なんてこともした。



救いとなったのは、ランユウやリーファンが居る日だけはきちんとした食事が届けられる事だった。
たっぷりの食事が出されるとその時とばかりにいっぱい食べられる。

ランユウは何も言わなかったが、リーファンは城に住み始めてから顔色も悪く痩せてくる母の事を心配した。

「…父上、お母さんの事ですが…」
ある日、船の上で夕焼けを見つめるランユウに、リーファンは話しかけた。

「うん…痩せているな。まぁ…俺も同じ目にあったことがあるからな、何が起きているかはわかる。」
つぶやくように答えたランユウに、リーファンは驚いた。

ランユウはふっと自虐的に笑うと、「子供の頃の事だ。」と言ってそれ以上は語らなかった。

前王の時代、生みの母も育ての母も失い城の奥で一人残された第二王子であるランユウは、後ろ楯もなく出生当時の占いから何かと嫌われ目をかけ世話をするる大人が殆ど無かった頃がある。
その現状を心配した父親…前王が、ランユウを重要な按司に婿養子に出したのだった。


「リーファン、昨日届いた外国の荷の中に香炉があったろう?見繕って紅花に届けてくれ。」
いきなり父に言われ、リーファンはきょとんとした。

「え…紅花姫さまに…ですか?どんなのを?」
「実用的でなくていい。見た目のいいものだ。特に質の良い物をな。」

そしてランユウは息子に、紅花姫のことを「母上」と呼ぶようにと諭した。
あくまで紅花姫が正妃、ランユウはその形だけは守っていた。


つづく。



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この記事へのコメント
「イジメ」という文字に過剰反応してしまう(--;)
陰湿なことされた経験ってぬぐい去るの大変ですよね。終わったあとでも、ふとした時にそのとき感じた感情がわき上がってきたり↓↓
しかも王族や貴族がらみのってなんというか、本当ネチネチどろどろ・・・そういうのほんま大っ嫌いやわ!!!
ランユウの案で少しでもおさまってくれたらいいな
Posted by くこ at 2011年10月07日 19:59
●くこさん
いじめに過剰反応ですか~。
それでこのストーリーが出てきたのかな…必要ないエピソードは書かないでさらっと次に進んじゃうんですけどね。
拭い去ること、できますよ。
それどころか全く逆転の意味を見つけることもあります。
Posted by pyopyo at 2011年10月07日 23:51
いつの世も陰湿なイジメはあとを絶たないですね

ランユウの、紅花姫を母上と呼ぶようにの言葉に
私の心は【ヤダ!!】と思いっきり叫んじゃいましたf(^^;

でもそうすることで紅花ランユウとの間の子をもうけることは避けられる‥メイファを守るためだ、リーファンわかってくれ!

って感じなんでしょうか

けどやだなー

メイファ
真の愛は決して裏切らない!ガンバレ
Posted by テン at 2011年10月08日 00:04
●テンさん
【ヤダ!!】ですか~?
続きを読んでみて、いかがでしょう。(^^)
昔の方はすごいですよね、この時代の王族は当たり前に一夫多妻なので…
そうそう、一夫多妻にも別の意味があるようですよ、子どもを多くもうける、という意味だけではなくね。
Posted by pyopyo at 2011年10月08日 15:46
あまり、まだこのお話などは読まないのですが、
サイトマップをスクロールして見ているとどうしてもこの「イジメ」の文字が目にとまっていました(^_^;)

自分ではもう消化したつもりでも、夢に出ることがあったり、この文字を見るだけで辛くなって目を背けたり・・・・・
まだまだ時間がかかりそうです(笑)

これからやって来るという光の溢れる世界には、もうそうして傷つく人のいない世界が待っていると信じています^^
Posted by だんでらいおん at 2012年11月19日 19:09
●だんでらいおんさん
それは辛いですねぇ。
> 自分ではもう消化したつもりでも、

それは消化になってないですね~。

ただ目をそむけて腹の底に溜め込んでも
溜まっているだけで消えはしないですよね。

ところがそれは逆転させたらとても大きな幸せにつながります。
不思議なんですけどね、人は一瞬で
ボロボロの傷状態から幸せを感じる状態に切り替われるんです、
同じ物事に対してね。

その視点に気づくだけ。
それだけでいいことなんですよ~。
Posted by pyopyo at 2012年11月19日 20:09
昔苦しんでいた頃は本当にひたすら辛くて、必死で毎日の平和と幸せを一つ一つ守ろうとしていましたが、

今の成長出来た私なら、もしかしたら出来るかも知れないです・・・・。

あの頃酷い言葉を言われたシーンを一つ一つ思い出しながら、その人自身に「幸あれ光あれ」と心から伝えながら暖かい光で包むイメージをしてみようと思います。
Posted by だんでらいおん at 2012年11月22日 14:00
●だんでらいおんさん
そうですね、ひとつひとつ思い出せるのなら…
ドラマをみるように離れた位置から
「観察」してみてください。

相手の背景や、その頃のあなたが
はたからみてどういう状態だったのか。
相手が悪いとか自分がいじめられた、という状態で思考を止めてしまうよりも
もっと深く人それぞれが
「その状態に至るまでの理由」
を理解すると、すとんと抜けたりしますよ。
Posted by pyopyo at 2012年11月22日 23:21
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。
 
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