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2011年10月15日

大地の花69 月夜

第69話 「月夜」


夜風にあたってくる、と言って廊下の端まで一人で出たランユウは、城の屏の向こうに昇ってきた青白い月を見つめた。

満月は明後日、ちょうど行事が「満ちる」時となる。
月はすでに十分な明るさを持っていた。

メイファはどうしてるだろう…
ふっと思うと同時に、拗ねてぷくっと頬をふくらませた顔が浮かび、ランユウは思わず笑いそうになるのをおさえた。

大地の花69 月夜


しかしそこで異常を感じ、振り向く。

「姫さま!」
「早く、薬師を…」
女官たちが慌てて外廊下を小走りに走っていくのをみて、ランユウも部屋に戻った。

「どうした?」
「ランユウさま…!姫さまが気を失われて…」

ランユウは近づいて紅花姫を抱き上げた。

青白い顔色だが、そう悪い状態とも思えない。
体調に何かあったかと思ったが、おそらく精神的なものだろう。

顔をのぞき込んでいると姫のまぶたが動き、目を開いた。
「大丈夫か?」

紅花姫の目が見開かれた。
その表情を何と読み取るか、ランユウは少し気持ちが落ちてくるのを感じた。


すでに怒りはない。
肌を合わせれば心の奥から憎み合うほどではないと感じ取れていた。

ただ、姫は恐れている。
そういうことだ。
俺を恐れているんだ。
…3日間の行事をこれからも一緒にこなしていかなければならないというのに、果たしてこれで持つのだろうか。

ランユウはそっと姫を下ろし横たえると、心地よいようにと上掛けをかけてあげた。
「疲れたのだろう。明日も忙しい。今夜はゆっくりと眠るんだ。」

やってきた薬師に安眠できるお茶を出すよう指示すると、ランユウは再び部屋の外に出た。

並んで寝ることになっているのだが、さてこれでは…。
ランユウは月が見える縁側に腰を下ろし、しばらく月を眺めることにした。



青白い光の中、龍が飛ぶ。
海の波はきらきらと月の光を受けて輝き、寄せては返す波の音が心地よい。

田舎の家で静かに寝ているメイファと子供たちの姿を、龍はとらえた。
雨戸を閉めているが、屋根も雨戸も透けるようにみえる。
穏やかな寝顔を見つめていると、こちらの心地も穏やかになるのを感じた。


「…ラン…ランユウさま…」
小さく声をかけられ、ランユウは目をあけた。
寝てたのか?と思う。

「このような所で…お風邪を召してしまいます。」
ランユウの世話を担当している侍女だ。

夜中までご苦労なことだ、とランユウは立ち上がり、寝るように伝えた。
明日も朝から行事が続く。

ランユウ自身も身体が冷えている。
寝室の外で待機していた姫の世話係たちに姫が寝んだことを確かめると、全員寝るようにと伝え、部屋にそっと入った。



つづく



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Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(0)大地の花
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