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2011年10月25日

大地の花73 過去の予言

第73話 「過去の予言」



ランユウは紅花姫に一番近くで仕えている侍女を自室に呼び出した。
「美舞(みぶ)、聞かせてくれ。第一王妃は何を言ってきてるのだ。」

美舞は紅花姫の乳母の娘で子供の頃から紅花姫に仕えてきた。
生みの母も乳母も亡くなったあとの紅花姫にとって一番心の支えとなっている侍女だ。

美舞は丁寧に頭を下げたまま、最初は何も語ろうとしなかった。

だがランユウは紅花姫のためだとしてじっくりと話かけ、やがて彼女も姫のためならと受け入れて、躊躇しつつも話し始めた。

大地の花73 過去の予言


「恐れながら…ランユウさまはご出生の折に伝えられたという予言のお話を…お聞きになった事はございますでしょうか…。」

またその話か、とランユウは思った。
ランユウが国を滅ぼすという予言だ。

うんざりしたような気持ちが沸き起こったが、だが考えてみるとこの「予言」なるもの、正確にどういう内容なのかを聞いたことはない。
ランユウは改めてどういう内容なのかを問いかけた。

美舞は最初は躊躇しながらも、やがて「古代からの話にて…」と言って、話し始めた。


古代、この天孫氏の王朝に伝わる偉大な王の時代にとても賢い預言者がいたという。
その預言者がある日王に向かって神の宣託を伝えた。

曰く「神の子孫たるこの王朝が成し遂げる事を終えた時に、王朝を終わらせるものが産まれる」というもの。

この天孫氏は天から授けられた智恵と力をもって天界から降り立った神の子孫がこの国を導くのだが、それにより地上に生まれし「人」が成長し智恵と力を得た時には神の子孫はその座を人に譲ることになりこの地上から去り、人々を千年間見守ることになるだろう。


ここまでの話はランユウも知っていた。
王国の歴史として、王族の一員として知っているべき話だとして子供の頃学んだ話だ。
美舞はそのさらに先を話した。

「宣託はこうも告げていました。“同じ父をもち別の腹から同じ時に生まれし者たちが争うとき、この王朝は終わりを告げる”と。」

ランユウは唇を噛んだ。

現王のヒユウ王とランユウはまさしく同じ父を持ち、別の母から同じ日に生まれた。

産声をあげたのはヒユウが先であり、また母の地位も高かった事からヒユウが兄とされ、政権を継いだ。
兄と合い争う事のないようにと父王は何度もランユウに告げ、誓わせたし、同じことを兄王にも告げていたと聞いたことがある。

兄弟仲良く…という意味だと解釈していたが、裏にこんな理由もあったとは、ランユウ自身はまるで知らなかった。


「それが…私が国を滅ぼすと言われている理由か?」
ランユウの低い声に、美舞は震えながら頭を下げた。

「申し訳ありません!私は伝え聞いた話をそのままお伝えしているに過ぎません。どうかお許しを…。」

ランユウは心を沈めた。
ここで怒っても仕方無い。

ランユウが国を滅ぼす…と言い始めたのは現王妃ではなく、父王の王妃だったと聞いている。

いまの第一王妃はその話をまるごと鵜呑みにしただけだ。
それに加えてランユウとは自然な流れで政敵になってしまっている。

これもランユウが家督を継いだ守護家との関わりでお互いの先代からの流れでしかなかったが、ランユウは面倒だったので関係改善など考えずに長年ほったらかしにしていた。



だがその為に、何の罪もない紅花姫とまだ生まれてこない赤子に害が及ぶのは許せない。
ランユウはその事を美舞に告げた。

「…ランユウさま、ここまで話した以上…お話せねばなりません。」
美舞は震えながらランユウに言った。

「王妃さまは…先日神に祈り宣託をおろされました。
 ランユウさまの二人のお子は、同じ日同じ時に産まれるだろう…と。
 姫さまが恐れておられるのは、その事なのです。」

頭を強く殴られた気がした。



つづく。




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Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(0)大地の花
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