てぃーだブログ › pyo's room › 大地の花 › 大地の花77 弓矢

2011年11月14日

大地の花77 弓矢

大地の花の目次はこちら→☆

第77話 「弓矢」


ビシ!
リーファンが放った矢は鋭い音をたてて的に突き刺さった。

辺りがしんとする。
兵士たちの目線を感じ、リーファンは矢を放った体勢のまま、唇を噛んだ。

「外れだ。」
ランユウの低い声がリーファンの心に突き刺さる。

「ランユウさま!あれは十分に有効な矢です!」
ジンルーがかばったが、ランユウは首を横に振った。

「俺は的の中心に当てろと言ったんだ。」

大地の花77 弓矢



兵士たちの訓練の中でも、特に最近のリーファンに対するランユウの厳しさは極端だった。

一体何があったのだろうと皆心のなかでは思ったが、誰も口にはしない。

リーファンはその日、日が暮れて的が見えなくなるまで一人で弓矢の練習を続けた。


夕食時には器を持つ手ががちがちになり、箸が定まらなかった。
そんなリーファンを皆がそっとみていると、やがて彼は食事を諦め、立ち上がる。

「リーファンさま、食事は…」
「いらない。」
小さく答えると、人より極端に大きな体を小さくして野営訓練場の食事場から出た。



斜面に小さな湧き水がサラサラと流れている。
リーファンは痛む手を水にさらして冷やした。

カサリ、と草を踏む音がして振り返ると、ジンルーだった。

「蒸し物を持って来ました。」
草で包まれた蒸し物をつまんで口に入れる。

情けなさで胸がいっぱいだったが、蒸し物の美味しさに若いリーファンはあっという間にぺろりと食べた。

「…こんなんでさ。一人前って父上に認めてもらって嫁をもらおうなんて…おかしいよな。」
口にすると涙が浮かんでくる。

リーファンは森の夜の暗さを幸いと、瞬きして涙を気付かれないようにしようとした。

「ランユウさまは、リーファンさまを鍛えあげたいのですよ。」
「うん、わかってる。」

草に腰をおろし、二人はぽつぽつと話をした。

「父上に狩りを習っている時に何度も叱られたんだ。下手に迷うな、苦しませるな、って。僕はいつもその瞬間に迷うから、何も考えない間に全てを終わらせるのがいい、って。」

リーファンは思い出していた。

『お前は魚でも肉でも調理していれば食べる、だが自分で狩ることができないなどと言う。
 それは無責任だ。
 命を食べる以上、その命を奪うことにも責任をもて。』

「…父上が言ったこと、あの頃僕は何を言ってるのかさっぱりわからなかった。今も…わかってるのかどうか…。」

ふと、リーファンの脳裏に遠くから飛んできた1本の矢がハブを仕留めた光景が浮かんだ。

 スサと出逢ったあの時。
 父上はあの距離から地面の上の動くハブを仕留めた。

 一歩間違えばハブじゃなく僕かスサに当たっていたかもしれない。
 もし僕だったら…怖くてきっと矢を放てない…。

 それでも放ったら…いや、きっと手が震えて失敗してしまう。
 その矢がもしもスサにあたったら…。


リーファンはぽつりぽつりとそんな事をジンルーに打ち明けた。
ジンルーは黙ってきいている。
聞いてくれている彼のおかげで、やがて心が落ち着いてきた。

「…ありがとう、聞いてくれて。やっぱり、正確な矢をうつことは大事なんだ。明日からもっと練習するよ。」
立ち直ったリーファンの腕を、ジンルーはうなずきながらぽんと叩いた。

「あうっ!」
顔をしかめて腕を押さえる。

ジンルーは驚いてリーファンの肩や腕にそっと触れた。
「リーファンさま、これは腫れ上がってるじゃないですか。これを…」

ジンルーは木で作られた小さな容器を取り出した。
「タルーが作ってくれた軟膏です。」

着物をはだけて肩や腕に摺り込んでゆく。
リーファンはほっとしたように言った。

「タルーはすごいなぁ。僕も、ホントはタルーから薬草の事を教わりたかったんだ。」

「そうですね。タルーはいま漁師たちに持ち歩く薬の作り方や野で摘める薬草の事を教えています。彼の知識は兵士たちにも役立ちそうだ。教えてもらえるよう、ランユウさまに相談してみましょう。」



明け方。
リーファンは兵士の騒ぎで目をさました。
「猪だ!」

野営訓練を行なっている山の中に野生のイノシシが飛び込んで来た。
すでに兵士たちの矢を背中に受けたイノシシは手負いで興奮しているためあちこちを壊しては走りまわる。

リーファンはとっさに自分の弓矢を手にしたが、腕も手もズキリと痛んだ。
それに早いスピードで走りまわるイノシシの回りには、騒いでいる兵士たちの姿がある。

リーファンの手が震えた。
間違えば仲間を傷つける。

迷った瞬間、まだきちんと体勢をさだめる前に矢が飛び出してしまった。
「しまった!」
一瞬、目をつぶる。

ズン!と音がして、騒ぎがやんだ。

目を開くと、イノシシが倒れている。
眉間に矢が突き刺さっていた。

「ランユウさま!」
誰かの声がした。

イノシシから目線を変えると、ランユウが弓矢を構えていたのがわかった。

「今日は馳走だな。」
ランユウの声に、兵士たちが歓声を上げた。


リーファンはイノシシに近づき、眉間にささった3本の矢が全て父の矢だと気づいた。
周囲を見渡すと、リーファンの矢は近くの木に突き刺さっていた。



つづく。



同じカテゴリー(大地の花)の記事

Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(3)大地の花
この記事へのトラックバック
第78話 「強弓」「リーファン、まだ痛む?大丈夫?腕をまわしてみて。」野営訓練から帰ってきたリーファンがお土産の花を摘めないほど腕や肩を痛めていた事を知ったメイファは、す...
大地の花78 強弓【pyo's room】at 2011年11月15日 07:00
この記事へのコメント
ランユウすごすぎる〜(@_@)
リーファン頑張れ!!
Posted by のんにゃん at 2011年11月14日 08:04
リーファンの矢が兵士に当たらなくて良かった

父親が偉大だと、息子が乗り越える壁も大きいですよね リーファンを応援してます〜
Posted by ちょこ at 2011年11月14日 09:30
●のんにゃんさん、ちょこさん
私もランユウに弓の指導を受けましたよ…
wiiで遊んでいる時にイノシシにあてるなら…って^^;
ホントあの時はよく当たりました~。(笑)
Posted by pyopyo at 2011年11月15日 01:24
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。