pyo's room

胡坐をかき、腕組みをしてちらちらと父の顔を見上げる。
今年３歳になるシェイオンはますます父に似てきている。

そのおかげで余計にその様子は微笑ましく、ランユウの周りに漂っていた皆の怖がるような雰囲気が自然に和らいだ。

ランユウはいきなり深い息を吐くと、不意に自分がどこにいるのか気づいたかのように顔をあげて周りを見渡した。

横にシェイオンが腕組みをして見上げている事に気がつくと、表情が和らぐ。

「シェイオン、こい。」
手を広げると、嬉しそうに父の膝に座った。

ランユウは幼いわが子の体温を感じながら、嬉しそうに夕焼けの空をみあげて、言った。
「シェイオン、兄上が勝ったぞ。今夜は祝いだ。」

「あにうえ、勝った？ちちうえ。」
「ああ、強弓で船を沈めた。いま船に乗っていた者達を助けに行ってるところだ。」

「まぁ、リーファンが手柄をたてたのですか？ランユウさま。」
後ろから紅花に声をかけられ、ランユウは振り向いた。

返事をしようとした途端に、シェイオンが膝からおりて駈けて行ってしまった。

いきなり逃げ出すような様子をみせたことを不思議に感じたが、ランユウは子どもの事だからと深く考えなかった。

しかし紅花姫は気にしたようだ。
何か言いたげにシェイオンの後ろ姿をみている。
その顔色をみて、ランユウは横になるようにと声をかけた。

「まだ顔色が悪い。起き上がってウロウロせずに大人しく養生して、食も薬も残さず過ごせ。三月（みつき）もすれば引っ越すぞ。」

立ち上がり、妃の背に手をあてて部屋へと促す。
その様子は微笑ましい夫婦のありようともいえた。



中庭を挟んだ向こうの部屋から、メイファが二人の様子を窺っていた。
しかしすぐに赤子が泣き出し、おむつを替えている内に二人の姿は部屋の奥に消えてしまった。

「おむつを変えるとお乳で。お乳を飲むと抱っこして。寝て、うんちして、お乳して。」
ふう、とため息をつく。

侍女たちが手伝ってくれるものの、やはり母親としては赤子から目が離せない。
しかし、最近夫とはまともに言葉を交わしていない。

子が生まれた事を喜んでくれるどころか。
あの時ランユウは失った娘への深い悲しみに沈んでいた。

そしてそれからずっと、正妃を心配しその傍にいるのだ。
そのおかげか、紅花姫はやっとランユウに心を開いたらしい。

孤独だった紅花姫は一転して子どもがまとわりつくようにランユウにまとわりついている。
と、メイファには感じられた。


酒を飲み過ぎた事や、リーファンだけを戦場に送ったことなど、言ってやりたい事はいっぱいあるのに。
そのチャンスが来ないことにも、メイファはイライラしていた。

ふと、視線を感じて顔をあげるとシェイオンが部屋をのぞいていた。
「シェイオン、どうしたの？お腹すいた？」

優しく声をかけたが、シェイオンはもじもじとして入ってこない。
「シェイオン？」

おぎゃー！とリンレイが泣き出し、メイファは慌てて抱きなおしてゆすった。
すぐに顔をあげたが、シェイオンの姿がない。

気になったが、リンレイを寝かせてからにしようとメイファは赤子に声をかけゆすり続けた。



つづく。