2009年07月19日
第33話 バル[白龍物語]
第33話 バル
美雨は、キッチンでエフェクトの食事を準備しながら小さくため息をつきました。
「お嬢様。わたくしが…」
女官のエマが作業を代わろうとするのを、「私がやります」とにっこりと笑って退けながら、心は器に盛っているおかゆより、別のことでいっぱいでした。
![第33話 バル[白龍物語]](//img01.ti-da.net/usr/pyoblog/P9190008.JPG)
美雨は、キッチンでエフェクトの食事を準備しながら小さくため息をつきました。
「お嬢様。わたくしが…」
女官のエマが作業を代わろうとするのを、「私がやります」とにっこりと笑って退けながら、心は器に盛っているおかゆより、別のことでいっぱいでした。
径だけでなく、とうとう廻にも告白され、美雨は悩んでいたのでした。
一人で悩むのも限界。
でも、いまお母さまにこんな相談しても大丈夫かしら…?
でも…ううん、様子を見て話してみよう…
美雨はそう考えながらエフェクトのために食事を運んでいきました。
こん、こん、とドアをノックし、声をかけます。
返って来たのは、うなり声。
「お母さま?」
ドアをあけた美雨は、「きゃあ!」と悲鳴をあげて持っていたお盆を落としてしまいました。
寝ているエフェクトの上に、覆いかぶさるような黒い影。
くすぶる黒い煙のようなその影は、何となく人の形にも見えます。
しかしその形から伝わってくるのは、凄まじい怒りと恨み、憎しみ。
美雨はそのまま立ちすくんでしまいました。
美雨の悲鳴をききつけ、すぐに、アズマがかけつけます。
はっとして、剣に手をかけます。
「ふたりとも。外に出るんだ。」
アズマは、同じように部屋の隅に立ちすくんでいた看護士と美雨を部屋の外に出すと、ドアを閉めました。
社会見学から返ってきた廻と弟たちが異常な様子に気がついて近寄ってきました。
がたがたと震える美雨の肩に手をかけて、「どうしたの?」と廻が問いかけた時。
我に返った美雨は、ドアに両手をつけて、中の様子を伺いました。
何が起こってるか知らなきゃいけない。
美雨の両手の間で、ドアがすっと透けて中の様子が浮かび上がりました。
「…妻から離れろ。」
アズマは黒い影に剣を向けると、声をかけました。
黒い影がふりかえります。
「妻じゃと?」
黒い影と向き合ったアズマは、はっとしました。
「この者が妻じゃと申すか?
…おまえさま。私を忘れ申したか。
ずっと待っておったに。
火に焼かれ。湖の底に捨てられて。
それでもお前さまの帰りを待ちわびておったに。」
「…バル…」
「この女の地上の者がわたしを起こした。だからやってきた。
おお、お前さまの前世よ。前世の罪よ。
償いもせずに別の女と幸せになっておったと申すか。」
アズマは、すこし躊躇したあと、剣を鞘にしまいました。
そして腰から鞘ごとはずすとそばにあったテーブルに置き、バルと呼ばれた黒い影に近づきました。
「すまなかった。
確かに前世の罪だ。
お前は俺の妻だった。
戦に出かけている間に城が襲われ、焼け落ちた。
そのままお前を助ける事が叶わなかった。」
「叶わなかった?そう申すか。
護りのない城。わたしはあの時子を身篭っていた。
子を産めば戦いは起こらないと申した、その子は死産であった。
…ああああ。それで戦いが起きた、すべては私のせいと…!!!」
憎しみ。
悲しみ。
それ以上の怒り。
黒い影はいまやアズマを取り囲み、中に取り込もうとしているようでした。
中世ヨーロッパの小国。
公国が林立する状態のその中にあった、とても小さな国。
戦に破れ、城主が留守の間に妃は敵の手に落ち、敵の暴漢どもの手で悲惨な最期を遂げていた…。
その魂は戻らぬ夫への怒り憎しみに覆われ、いまだ浄化されずに残っていたもの。
それが地上の者(pyo)の過去生の浄化に伴ない呼び出され、
魂のルートを通じてエフェクトの元に出現してしまっていたのでした。
(…そうなんです、ちょうど体調の不具合の原因さぐってたら、過去生の怒霊が出てきちゃって。体調がきつくて完全に浄化しきれないまま、「暗いとこがいいってんなら私の闇に入れ~」と中に取り込もうとしました。そしたらエフェクトの中から、それも彼女の子宮を破って出現しちゃったんです。最悪にミスっちゃいました~。 by pyo)
「バル。お前も俺も、同じ魂を持つものだ。
お前のその怒りも憎しみも、俺自身が抱えるものでもある。
…もう、終わりにしよう。
受け止めよう。来るがいい。」
アズマは両手を開き、過去生の怒霊を受け止めようとしました。
「…ああ、悔しや。憎しや…」
怒霊はそういいながらアズマを囲い込みました。
そしてふいにアズマが置いた剣を抜くと、アズマの胸に突き立てました。
『お父さま!』
叫びそうになった美雨を、廻が押さえます。
アズマはその瞬間に四散し、光の粒となって消えてしまいました。
しかし、部屋には怒霊がまだ残っていました。
そして、残されたまま苦しんでいるエフェクトも。
つづく。
用語、キャラクター解説はこちら 目次代わりのタイトル一覧は、タグをクリックしてご覧ください。
一人で悩むのも限界。
でも、いまお母さまにこんな相談しても大丈夫かしら…?
でも…ううん、様子を見て話してみよう…
美雨はそう考えながらエフェクトのために食事を運んでいきました。
こん、こん、とドアをノックし、声をかけます。
返って来たのは、うなり声。
「お母さま?」
ドアをあけた美雨は、「きゃあ!」と悲鳴をあげて持っていたお盆を落としてしまいました。
寝ているエフェクトの上に、覆いかぶさるような黒い影。
くすぶる黒い煙のようなその影は、何となく人の形にも見えます。
しかしその形から伝わってくるのは、凄まじい怒りと恨み、憎しみ。
美雨はそのまま立ちすくんでしまいました。
美雨の悲鳴をききつけ、すぐに、アズマがかけつけます。
はっとして、剣に手をかけます。
「ふたりとも。外に出るんだ。」
アズマは、同じように部屋の隅に立ちすくんでいた看護士と美雨を部屋の外に出すと、ドアを閉めました。
社会見学から返ってきた廻と弟たちが異常な様子に気がついて近寄ってきました。
がたがたと震える美雨の肩に手をかけて、「どうしたの?」と廻が問いかけた時。
我に返った美雨は、ドアに両手をつけて、中の様子を伺いました。
何が起こってるか知らなきゃいけない。
美雨の両手の間で、ドアがすっと透けて中の様子が浮かび上がりました。
「…妻から離れろ。」
アズマは黒い影に剣を向けると、声をかけました。
黒い影がふりかえります。
「妻じゃと?」
黒い影と向き合ったアズマは、はっとしました。
「この者が妻じゃと申すか?
…おまえさま。私を忘れ申したか。
ずっと待っておったに。
火に焼かれ。湖の底に捨てられて。
それでもお前さまの帰りを待ちわびておったに。」
「…バル…」
「この女の地上の者がわたしを起こした。だからやってきた。
おお、お前さまの前世よ。前世の罪よ。
償いもせずに別の女と幸せになっておったと申すか。」
アズマは、すこし躊躇したあと、剣を鞘にしまいました。
そして腰から鞘ごとはずすとそばにあったテーブルに置き、バルと呼ばれた黒い影に近づきました。
「すまなかった。
確かに前世の罪だ。
お前は俺の妻だった。
戦に出かけている間に城が襲われ、焼け落ちた。
そのままお前を助ける事が叶わなかった。」
「叶わなかった?そう申すか。
護りのない城。わたしはあの時子を身篭っていた。
子を産めば戦いは起こらないと申した、その子は死産であった。
…ああああ。それで戦いが起きた、すべては私のせいと…!!!」
憎しみ。
悲しみ。
それ以上の怒り。
黒い影はいまやアズマを取り囲み、中に取り込もうとしているようでした。
中世ヨーロッパの小国。
公国が林立する状態のその中にあった、とても小さな国。
戦に破れ、城主が留守の間に妃は敵の手に落ち、敵の暴漢どもの手で悲惨な最期を遂げていた…。
その魂は戻らぬ夫への怒り憎しみに覆われ、いまだ浄化されずに残っていたもの。
それが地上の者(pyo)の過去生の浄化に伴ない呼び出され、
魂のルートを通じてエフェクトの元に出現してしまっていたのでした。
(…そうなんです、ちょうど体調の不具合の原因さぐってたら、過去生の怒霊が出てきちゃって。体調がきつくて完全に浄化しきれないまま、「暗いとこがいいってんなら私の闇に入れ~」と中に取り込もうとしました。そしたらエフェクトの中から、それも彼女の子宮を破って出現しちゃったんです。最悪にミスっちゃいました~。 by pyo)
「バル。お前も俺も、同じ魂を持つものだ。
お前のその怒りも憎しみも、俺自身が抱えるものでもある。
…もう、終わりにしよう。
受け止めよう。来るがいい。」
アズマは両手を開き、過去生の怒霊を受け止めようとしました。
「…ああ、悔しや。憎しや…」
怒霊はそういいながらアズマを囲い込みました。
そしてふいにアズマが置いた剣を抜くと、アズマの胸に突き立てました。
『お父さま!』
叫びそうになった美雨を、廻が押さえます。
アズマはその瞬間に四散し、光の粒となって消えてしまいました。
しかし、部屋には怒霊がまだ残っていました。
そして、残されたまま苦しんでいるエフェクトも。
つづく。
用語、キャラクター解説はこちら 目次代わりのタイトル一覧は、タグをクリックしてご覧ください。
Posted by 町田律子(pyo) at 19:00│Comments(0)
│龍物語
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。