2011年07月16日
大地の花21 喪失
第21話 「喪失」
ランユウは歩けるようになるとすぐに王城を辞し、城下の屋敷に帰った。
すぐに所領の家に人をやり、心配無用だと伝える。
だが戦後処理とも言える雑務に終われ、さらに何日間も所領の家に戻れない日が続いてしまった。
その間に、ランユウの母ロウメイが再び病に倒れた。
報せが届き、ランユウが慌てて所領の家に帰ったとき。
母はもう死の床にあった。
いやもともとそこまで弱っていたところをメイファの力で生き延ばして来たのだ。
「お母さん…!」
ランユウは直ぐにでも戻らなかった事を泣いて母に詫びた。
そのランユウの頭にはまだ布が巻いてあり、腕にも傷が残っている。
足の傷も、歩けるようにはなったけれど完治はしていなかった。
老母はこんな状態で無理をして帰ってきた息子を逆に案じた。
そんなロウメイとランユウのために、メイファはランユウの傷も癒そうとした。
だが死の床にあるロウメイを必死に癒してきたメイファの疲れ具合も明らかにひどい。
それに一連の力の発現のためか、急激に成長していたメイファの事をランユウは危惧した。
「メイファ、私を癒す必要はない。この傷のおかげで暫らく休暇をいただけたんだ。このままゆっくり傷の癒しを待とう。」
ランユウはそう言ってメイファを休ませた。
ロウメイはそれから間もなく息を引き取った。
亡くなる時にはランユウの手を握り、ランユウとそっくりだったという兄の名を呼んだ。
それからのランユウの気落ちは、見る者の心を掻きむしるほどだった。
なぜ、亡くなる前にずっとそばにいなかったのだろう。
なぜ、亡くなる直前に呼んだロウメイの兄…ランユウにとって伯父にあたるその人の墓の場所を聞いておかなかったのだろう。
なぜ、ずっと以前に捜し出そうとしなかったのだろう…。
なぜ、なぜ、なぜ…。
後悔ばかりが去来する。
夜寝ている時には、夢をみた。
暗い洞窟を彷徨い、どこまでも、どこまでも手探りで母を捜す夢だ。
洞窟は深く、寒く、ランユウが追いかけても追いかけても、薄汚れた姿の老母はランユウを認めずに逃げ続ける夢だった。
ランユウは幾夜も涙を流しながら目を覚ました。
目をあけて右に、左にと目をやるが、誰の姿もない。
ただ暗いだけの部屋に、閉めた雨戸の向こうから虫の音が聞こえた。
りー・りー・りー・・・・
再び寝る気がしない時は、座って虫の音に聞き耳をたてる。
月の夜の虫の音に、止まらない涙がこぼれ落ちた。
こうして、自ら持つことを避け続けてきた堂々巡りからランユウは抜け出せなくなっていた。
そんなランユウを救ったのは、メイファの乳母であり、今は養母として一緒に暮らしているファーレンだ。
手足の傷も癒えたある夜、ランユウは寝間の準備を終えたファーレンに声をかけた。
「悪いが…あとで来てくれないか。」
ランユウの暗い目を見てファーレンは直ぐに全てを了解した。
メイファを寝ませると家の裏手に回って水をかぶり、身を清める。
すでに季節は冬を迎えていた。
つづく。
母はもう死の床にあった。
いやもともとそこまで弱っていたところをメイファの力で生き延ばして来たのだ。
「お母さん…!」
ランユウは直ぐにでも戻らなかった事を泣いて母に詫びた。
そのランユウの頭にはまだ布が巻いてあり、腕にも傷が残っている。
足の傷も、歩けるようにはなったけれど完治はしていなかった。
老母はこんな状態で無理をして帰ってきた息子を逆に案じた。
そんなロウメイとランユウのために、メイファはランユウの傷も癒そうとした。
だが死の床にあるロウメイを必死に癒してきたメイファの疲れ具合も明らかにひどい。
それに一連の力の発現のためか、急激に成長していたメイファの事をランユウは危惧した。
「メイファ、私を癒す必要はない。この傷のおかげで暫らく休暇をいただけたんだ。このままゆっくり傷の癒しを待とう。」
ランユウはそう言ってメイファを休ませた。
ロウメイはそれから間もなく息を引き取った。
亡くなる時にはランユウの手を握り、ランユウとそっくりだったという兄の名を呼んだ。
それからのランユウの気落ちは、見る者の心を掻きむしるほどだった。
なぜ、亡くなる前にずっとそばにいなかったのだろう。
なぜ、亡くなる直前に呼んだロウメイの兄…ランユウにとって伯父にあたるその人の墓の場所を聞いておかなかったのだろう。
なぜ、ずっと以前に捜し出そうとしなかったのだろう…。
なぜ、なぜ、なぜ…。
後悔ばかりが去来する。
夜寝ている時には、夢をみた。
暗い洞窟を彷徨い、どこまでも、どこまでも手探りで母を捜す夢だ。
洞窟は深く、寒く、ランユウが追いかけても追いかけても、薄汚れた姿の老母はランユウを認めずに逃げ続ける夢だった。
ランユウは幾夜も涙を流しながら目を覚ました。
目をあけて右に、左にと目をやるが、誰の姿もない。
ただ暗いだけの部屋に、閉めた雨戸の向こうから虫の音が聞こえた。
りー・りー・りー・・・・
再び寝る気がしない時は、座って虫の音に聞き耳をたてる。
月の夜の虫の音に、止まらない涙がこぼれ落ちた。
こうして、自ら持つことを避け続けてきた堂々巡りからランユウは抜け出せなくなっていた。
そんなランユウを救ったのは、メイファの乳母であり、今は養母として一緒に暮らしているファーレンだ。
手足の傷も癒えたある夜、ランユウは寝間の準備を終えたファーレンに声をかけた。
「悪いが…あとで来てくれないか。」
ランユウの暗い目を見てファーレンは直ぐに全てを了解した。
メイファを寝ませると家の裏手に回って水をかぶり、身を清める。
すでに季節は冬を迎えていた。
つづく。
Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(2)
│大地の花
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第22話 「なぐさめ」すでに季節は冬であった。 夏が長いこの島にも、冬は来る。 故郷の大陸の国とは全く違う訪れ方で急な寒波がやってくるこの島の空気を深く吸い込んだファーレン...
大地の花22 なぐさめ【pyo's room】at 2011年07月17日 07:00
この記事へのコメント
ランユウの後悔や寂しさが切ない〜…。
展開に…ドキドキ
展開に…ドキドキ
Posted by ちょこ at 2011年07月16日 07:28
●ちょこさん
私も書きながらドキドキ^^;
私も書きながらドキドキ^^;
Posted by pyo at 2011年07月18日 11:43
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。