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2011年07月17日

大地の花22 なぐさめ

第22話 「なぐさめ」


すでに季節は冬であった。

夏が長いこの島にも、冬は来る。
故郷の大陸の国とは全く違う訪れ方で急な寒波がやってくるこの島の空気を深く吸い込んだファーレンは、かすかに潮の香りがする島の生活をあらためて想った。

大地の花22 なぐさめ


日が当たれば陽射しは相変わらず肌を焼くほどなのに、冬は曇りがちで海風をともなった強い風は皮膚を凍らせるようだ。

その分、抱き合う温もりは何ともいえず心を慰める。

ファーレンは既に幾人もの子を産み育てた、成熟した女の心と身体で男に奉仕した。

そんな男の全てをそのまま受けいれてくれるファーレンの母親のような大きさは、この時のランユウにとって必要なものであったのだろう。


ランユウはファーレンに夫や子どものことをきいた。
夫については竜王がみまかられたのなら恐らく生きてはいまい、とファーレンはこたえた。

ファーレンの夫は竜王に全てを捧げたような武人だった。
竜王のためなら妻子を捧げることも厭わないほど主大事な男だった。

実際、ファーレンは第四子を出産直後に子を取り上げられ、身体が弱く出産が無事に済まなかった王妃に代わり産まれたばかりの竜王の姫を育てるよう、夫により王に乳母として差し出された身なのだ。

己の子を育てるための乳を持たず、溢れる乳も愛情も主の子に捧げてきた彼女にとって、いまの主となるランユウに己の心と身体を捧げることは己が出来る最大の働き、でしかなかった。

人を大事に思うものの己自身は孤独のスパイラルから抜け出せなくなっていたランユウにとって、ファーレンのこの割り切った考えは気が休まり、そして救いになった。


その後二人は表面上はお互いの態度を変える事はなかったが、たまにお互いの寒さを慰めあうような時を持った。

こんな事は秘めてもそれはそれでわかるものだ。
やはり形だけでなく二人の仲はそうだったかと皆が認め、心癒されたランユウを見るにつけ誰もが二人の幸せを陰ながら喜んだ。


ただ一人、年頃にまで成長し始めていたメイファをのぞいては。

つづく



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Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(1)大地の花
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