2011年08月01日
大地の花35 遺言
第35話 「遺言」
兵士が一人、やってきた。
「ファーレンというのは、お前か?」
門の前で兵士と話していたファーレンが泣き崩れるのを見て、メイファとランマオはあわててそばに駆け寄った。
「どうした?!」
ファーレンは泣きながら搾り出すような声で言った。
「ランユウさまが…」
兵士は再び、告げた。
「ファーレン、およびその娘メイファにはランユウさまのご遺言で豚1頭、山羊1頭、そしていまある食料の全てを渡す。
早急にこの家を明け渡すように。この家は家督を継がれた新しい里主さまのものとなる。」
兵士は数日の猶予がある、とだけ告げてすぐに帰っていった。
メイファは目の前が真っ暗になった気がした。
ランマオはファーレンを助け起こし、とりあえず家へと連れて行く。
メイファも呆然としたまま二人についてぽつぽつと歩き出し、縁側にぶつかってすとんと座り込んだ。
「ランユウさまがご病気だという噂は聞いていたが…こんなに早く…」
ランマオは唇を噛み、拳を握りしめた。
ファーレンはしばらく泣いたあと、急に立ち上がって動き始めた。
「お母さん!」
メイファの声に、涙目で振り返る。
「…次の動きを始めないと。出て行けと言われた以上、ここにはおられません…」
唇も声も震えていたが、ファーレンは既に何度も難局を乗り越えてきた芯の強さをここで見せた。
ランマオはファーレンの言葉をきいて我に返り、仲間たちに知らせて来ると言って家を飛び出していった。
メイファはぼんやりと、荷物の準備を始めたファーレンを見つめていたが、やがて何かおかしい事に気がついた。
「違うわ!違う…ランユウは生きているわ!」
ファーレンが驚いて振り向いた。
「だって…だって分かるもの!お父様が亡くなった時とは違う。ランユウが生きているって感じるもの!」
竜族の仲間たちがすぐに集まってきた。
「信じられん。あのランユウさまが…。」
「とにかく、二人ともあちらの住宅に場所をあけるので移って…」
口々に言う者たちに、メイファは訴えた。
「ランユウは生きてるわ!私にはわかる!」
「しー!メイファ様、お静かに。」
元侍女の一人がメイファの横にそっと近づき、小さな声で言った。
「村の者たちが集まってきました。そのお話は後ほど、私たちの家でいたしましょう。」
「だって…」
メイファの特殊能力をここで明らかにするわけにもいかないだろう、と、女たちはすぐさまメイファだけを竜族の者たちが集まっている一画にある家に連れていった。
家には村の者たちが集まってくる。
「ランユウ様が亡くなったと…?」
「兵士が遺言を持ってきたというが…」
目に涙を溜めたファーレンが一人一人相手をしていると、皆納得してファーレンを慰め、お互いでがやがやと噂をしてやがて去ってゆく。
その日の夕刻までそんな状態が、続いた。
夜。
荷物の整理ができなかったファーレンは、迎えにきたランマオと共に戸締りをして竜族の者たちが集まる家にやってきた。
「ファーレン、メイファはランユウさまが生きてると感じられると言いますが、それではあの兵士の通達は何と…?」
憮然とした表情で座り込んでいるメイファに、疲れた顔のファーレンは肯いた。
「私も今日一日考えました。あの兵士は、ランユウさまが亡くなったとは確かに言わなかったようです。私も動転して…。ご遺言だということと新しい里主さまがいらっしゃるという話しだけでした。」
「それが亡くなったという事では?」
「いやもしかしたらご病気で跡継ぎもいらっしゃらないから、ご遺言を先に出されたかもしれん。俺たちはこの国の言葉を細かく理解しているわけじゃない、どこか聞き間違えたのかもしれん。」
「だとしたらすぐに出て行け、とおっしゃるのはおかしいだろう。やはり亡くなられたからでは…。」
確実な情報がないまま、堂々巡りの議論がしばらく続く。
やがてメイファが全員の話を断ち切るように、言った。
「確かめるわ。本家のお屋敷に行く!」
「メイファ!」
全員が驚き、止めようとしたが無駄だった。
メイファの能力がいきなり強いエネルギーを発し、竜族の元兵士たちの中から龍が沸き上がってくる。
「私が行く。この目で確かめなきゃ納得できない。案内して!」
メイファは龍たちに、命令した。
つづく。
メイファは目の前が真っ暗になった気がした。
ランマオはファーレンを助け起こし、とりあえず家へと連れて行く。
メイファも呆然としたまま二人についてぽつぽつと歩き出し、縁側にぶつかってすとんと座り込んだ。
「ランユウさまがご病気だという噂は聞いていたが…こんなに早く…」
ランマオは唇を噛み、拳を握りしめた。
ファーレンはしばらく泣いたあと、急に立ち上がって動き始めた。
「お母さん!」
メイファの声に、涙目で振り返る。
「…次の動きを始めないと。出て行けと言われた以上、ここにはおられません…」
唇も声も震えていたが、ファーレンは既に何度も難局を乗り越えてきた芯の強さをここで見せた。
ランマオはファーレンの言葉をきいて我に返り、仲間たちに知らせて来ると言って家を飛び出していった。
メイファはぼんやりと、荷物の準備を始めたファーレンを見つめていたが、やがて何かおかしい事に気がついた。
「違うわ!違う…ランユウは生きているわ!」
ファーレンが驚いて振り向いた。
「だって…だって分かるもの!お父様が亡くなった時とは違う。ランユウが生きているって感じるもの!」
竜族の仲間たちがすぐに集まってきた。
「信じられん。あのランユウさまが…。」
「とにかく、二人ともあちらの住宅に場所をあけるので移って…」
口々に言う者たちに、メイファは訴えた。
「ランユウは生きてるわ!私にはわかる!」
「しー!メイファ様、お静かに。」
元侍女の一人がメイファの横にそっと近づき、小さな声で言った。
「村の者たちが集まってきました。そのお話は後ほど、私たちの家でいたしましょう。」
「だって…」
メイファの特殊能力をここで明らかにするわけにもいかないだろう、と、女たちはすぐさまメイファだけを竜族の者たちが集まっている一画にある家に連れていった。
家には村の者たちが集まってくる。
「ランユウ様が亡くなったと…?」
「兵士が遺言を持ってきたというが…」
目に涙を溜めたファーレンが一人一人相手をしていると、皆納得してファーレンを慰め、お互いでがやがやと噂をしてやがて去ってゆく。
その日の夕刻までそんな状態が、続いた。
夜。
荷物の整理ができなかったファーレンは、迎えにきたランマオと共に戸締りをして竜族の者たちが集まる家にやってきた。
「ファーレン、メイファはランユウさまが生きてると感じられると言いますが、それではあの兵士の通達は何と…?」
憮然とした表情で座り込んでいるメイファに、疲れた顔のファーレンは肯いた。
「私も今日一日考えました。あの兵士は、ランユウさまが亡くなったとは確かに言わなかったようです。私も動転して…。ご遺言だということと新しい里主さまがいらっしゃるという話しだけでした。」
「それが亡くなったという事では?」
「いやもしかしたらご病気で跡継ぎもいらっしゃらないから、ご遺言を先に出されたかもしれん。俺たちはこの国の言葉を細かく理解しているわけじゃない、どこか聞き間違えたのかもしれん。」
「だとしたらすぐに出て行け、とおっしゃるのはおかしいだろう。やはり亡くなられたからでは…。」
確実な情報がないまま、堂々巡りの議論がしばらく続く。
やがてメイファが全員の話を断ち切るように、言った。
「確かめるわ。本家のお屋敷に行く!」
「メイファ!」
全員が驚き、止めようとしたが無駄だった。
メイファの能力がいきなり強いエネルギーを発し、竜族の元兵士たちの中から龍が沸き上がってくる。
「私が行く。この目で確かめなきゃ納得できない。案内して!」
メイファは龍たちに、命令した。
つづく。
Posted by 町田律子(pyo) at 08:01│Comments(3)
│大地の花
この記事へのトラックバック
第36話 「月夜の波」月夜の浜から静かにくり舟を漕ぎ出す。静かに先導する黒龍は波間をすすみ、人の目には見えない。人数と夜間であること、途中の街道を考えると夜道を陸上移動す...
大地の花36 月夜の波【pyo's room】at 2011年08月02日 07:00
この記事へのコメント
…雲行きが怪しくなってきてちょっとドキドキ
ランユウ、いったいどうなってるの〜
ランユウ、いったいどうなってるの〜
Posted by ちょこ at 2011年08月01日 11:08
メイファには解るんですね!
やっぱりというか~~
メイファ 無理しないでね~~
やっぱりというか~~
メイファ 無理しないでね~~
Posted by minto at 2011年08月01日 17:29
●ちょこさん
どうなるんでしょうね~。
書きだすと予定外の進行があったりするので私ももうよくわからない。^^; 下書きは何だったんだ…。
今から書きまーす。
●mintoさん
メイファは鋭いです~。
どうなるんでしょうね~。
書きだすと予定外の進行があったりするので私ももうよくわからない。^^; 下書きは何だったんだ…。
今から書きまーす。
●mintoさん
メイファは鋭いです~。
Posted by pyo at 2011年08月01日 20:28
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。