2011年09月01日
大地の花47 出逢い
「大地の花」シリーズ後半です。今までのお話はカテゴリ「大地の花」かタグ「大地の花」からどうぞ。
がさ。
がさがさ、がさ。
茂った草を手にした杖でどけながら、リーファンは汗だくになって藪の中を進んでいた。
むっとした亜熱帯気候の湿気をたっぷりと帯びた空気が着物の中にまで入り込み、ふやけた手足の皮膚は草で軽く傷がつく。
リーファンは立ち止まって懐から手ぬぐいを出すと、汗を拭いた。
「お父さん…どこだろう…?」
はぐれてからそんなに時間は経っていない。
だが少年にはもう永遠に迷っていたような、これから先もずっと父とあえないのじゃないかという心細さが襲い掛かってくる。
リーファンはもうすぐ15歳になるところだった。
第47話 「出逢い」
がさ。
がさがさ、がさ。
茂った草を手にした杖でどけながら、リーファンは汗だくになって藪の中を進んでいた。
むっとした亜熱帯気候の湿気をたっぷりと帯びた空気が着物の中にまで入り込み、ふやけた手足の皮膚は草で軽く傷がつく。
リーファンは立ち止まって懐から手ぬぐいを出すと、汗を拭いた。
「お父さん…どこだろう…?」
はぐれてからそんなに時間は経っていない。
だが少年にはもう永遠に迷っていたような、これから先もずっと父とあえないのじゃないかという心細さが襲い掛かってくる。
リーファンはもうすぐ15歳になるところだった。
「きゃっ!」
きょろきょろと左右をうかがいながら進んでいると、いきなり誰かとぶつかった。
リーファンはとっさにぶつかった相手の腕を掴み、相手が尻餅をつくのを防いだ。
そうして改めて相手の顔をみると、若い女性だ。
驚いた顔でリーファンの顔を眺めている。
リーファンもまた、相手の顔を驚いたようにじっと見つめた。
「あ…あの…」
声をかけられて、はっとする。
「手を…大丈夫ですから…」
そう言われて初めて、相手の腕を強く握っていた事に気がついた。
「す、すいません。」
慌てて手をひき、頭をさげた。
「よそ見をしていました。…迷ってしまって、連れとはぐれたんです。あの…あなたはこの辺りの方ですか?」
リーファンの問い掛けに、若い女性は戸惑ったように顔をさげ、そして小さくこっくりと肯いた。
「…すみません、道案内をお願いできないでしょうか。…ここからでられなくて。」
女性はこっくりとうなずくと、リーファンに驚いて落としたカゴを拾おうとしゃがんだ。
どうやら森に木の実を集めに来たらしい。
「きゃっ!」
女性はカゴに伸ばした手を引っ込めた。
その途端、彼女の手元からスルスルと藪の中に逃げていく長い蛇が目についた。
毒蛇のハブだ。
ビン!
リーファンがハブを認識した途端、どこからか矢が飛んできてハブを仕留めた。
矢はハブを貫通して地面につきささり、ハブはそこでクネクネと体をよじらせる。
振り向くと、父ランユウが弓を構えたすがたでこちらを見ていた。
「大丈夫か!」
すぐに父が駆け寄ってくる。
「お父さん。どうやら噛まれたらしい。」
リーファンは女性の手を掴むと、傷口をすって血を吸い出した。
女性は真っ青になっている。
「止血するんだ。噛まれたのは手の先か?心の臓より下にするんだ、そうだ。」
説明しながらランユウは紐を出すと女性の腕をぎゅっとしばった。
「切って血を出す。我慢してくれ。」
唇を噛んでうなずく青ざめた顔に安心させるような笑顔を向けると、ランユウは傷口の周囲を切り、血を絞り出した。
ハブ咬傷は痛みも激しい。
女性は目に涙を浮かべて必死に我慢していたが、やがて我慢できずに涙がこぼれ落ちた。
ランユウの問い掛けに女性は小さな声でこたえた。
近くの村のクシヌヤーの娘でスサという名だという。
「わかった。俺はランユウ、これは息子のリーファンだ。
スサ、ハブの毒は血の中をめぐる。
心の臓に達したら死んでしまう。
だからできるかぎり静かにして毒が体にまわらないようにするんだ。わかったか?」
スサが震えながらうなずくと、ランユウは「よし、じっとしてろよ。」と言って彼女を抱き上げた。
村につくと村の者たちがすぐに気が付き、スサの家に案内してくれた。
彼女を安静にさせるとランユウが持ち歩いていた薬を投与したり、さらに血を絞り出したり、やがて祈祷も始まった。
スサの家には親はおらず、まだ幼い弟妹が留守番している。
父親はこの村の里主である按司のもとで働いているといい、母親は死別している。
報せがすぐに走ったと誰かが告げた。
スサの容態はあまりよくない。
ランユウは体を少し高くして、噛まれた手を下げておくように指示し、切ったところから止血しないよう、さらに血を搾り出すように指示した。
「…お母さんがいればなぁ。」
リーファンはつぶやいた。
きっと、母のメイファなら治せるだろうと思う。
ランユウは息子を連れて旅をしていた。
目的は息子のリーファンに国内をみせること、と、狩りの腕前がイマイチなところがあるので鍛え直すつもりの旅だった。
母のメイファはその能力で病人も怪我人もたちまち癒すと評判で、家に居残っている。
いっしょに行きたいと言っていたが、ランユウは目的を考えて母親は邪魔だとしておいてきた。
旅に出てから3日。
狩りの練習をしながらなのでゆっくりとした移動だったが、ずっと森の中にいたので距離がどれだけのびたかわからない。
連れてくるとして、どれだけの時間がかかるんだろう…。
父の顔をみると、ランユウが肯いた。
つづく。
はてぇ~?書き始めた途端、概要下書き無視なストーリーがすすむぞ~。
きょろきょろと左右をうかがいながら進んでいると、いきなり誰かとぶつかった。
リーファンはとっさにぶつかった相手の腕を掴み、相手が尻餅をつくのを防いだ。
そうして改めて相手の顔をみると、若い女性だ。
驚いた顔でリーファンの顔を眺めている。
リーファンもまた、相手の顔を驚いたようにじっと見つめた。
「あ…あの…」
声をかけられて、はっとする。
「手を…大丈夫ですから…」
そう言われて初めて、相手の腕を強く握っていた事に気がついた。
「す、すいません。」
慌てて手をひき、頭をさげた。
「よそ見をしていました。…迷ってしまって、連れとはぐれたんです。あの…あなたはこの辺りの方ですか?」
リーファンの問い掛けに、若い女性は戸惑ったように顔をさげ、そして小さくこっくりと肯いた。
「…すみません、道案内をお願いできないでしょうか。…ここからでられなくて。」
女性はこっくりとうなずくと、リーファンに驚いて落としたカゴを拾おうとしゃがんだ。
どうやら森に木の実を集めに来たらしい。
「きゃっ!」
女性はカゴに伸ばした手を引っ込めた。
その途端、彼女の手元からスルスルと藪の中に逃げていく長い蛇が目についた。
毒蛇のハブだ。
ビン!
リーファンがハブを認識した途端、どこからか矢が飛んできてハブを仕留めた。
矢はハブを貫通して地面につきささり、ハブはそこでクネクネと体をよじらせる。
振り向くと、父ランユウが弓を構えたすがたでこちらを見ていた。
「大丈夫か!」
すぐに父が駆け寄ってくる。
「お父さん。どうやら噛まれたらしい。」
リーファンは女性の手を掴むと、傷口をすって血を吸い出した。
女性は真っ青になっている。
「止血するんだ。噛まれたのは手の先か?心の臓より下にするんだ、そうだ。」
説明しながらランユウは紐を出すと女性の腕をぎゅっとしばった。
「切って血を出す。我慢してくれ。」
唇を噛んでうなずく青ざめた顔に安心させるような笑顔を向けると、ランユウは傷口の周囲を切り、血を絞り出した。
ハブ咬傷は痛みも激しい。
女性は目に涙を浮かべて必死に我慢していたが、やがて我慢できずに涙がこぼれ落ちた。
ランユウの問い掛けに女性は小さな声でこたえた。
近くの村のクシヌヤーの娘でスサという名だという。
「わかった。俺はランユウ、これは息子のリーファンだ。
スサ、ハブの毒は血の中をめぐる。
心の臓に達したら死んでしまう。
だからできるかぎり静かにして毒が体にまわらないようにするんだ。わかったか?」
スサが震えながらうなずくと、ランユウは「よし、じっとしてろよ。」と言って彼女を抱き上げた。
村につくと村の者たちがすぐに気が付き、スサの家に案内してくれた。
彼女を安静にさせるとランユウが持ち歩いていた薬を投与したり、さらに血を絞り出したり、やがて祈祷も始まった。
スサの家には親はおらず、まだ幼い弟妹が留守番している。
父親はこの村の里主である按司のもとで働いているといい、母親は死別している。
報せがすぐに走ったと誰かが告げた。
スサの容態はあまりよくない。
ランユウは体を少し高くして、噛まれた手を下げておくように指示し、切ったところから止血しないよう、さらに血を搾り出すように指示した。
「…お母さんがいればなぁ。」
リーファンはつぶやいた。
きっと、母のメイファなら治せるだろうと思う。
ランユウは息子を連れて旅をしていた。
目的は息子のリーファンに国内をみせること、と、狩りの腕前がイマイチなところがあるので鍛え直すつもりの旅だった。
母のメイファはその能力で病人も怪我人もたちまち癒すと評判で、家に居残っている。
いっしょに行きたいと言っていたが、ランユウは目的を考えて母親は邪魔だとしておいてきた。
旅に出てから3日。
狩りの練習をしながらなのでゆっくりとした移動だったが、ずっと森の中にいたので距離がどれだけのびたかわからない。
連れてくるとして、どれだけの時間がかかるんだろう…。
父の顔をみると、ランユウが肯いた。
つづく。
はてぇ~?書き始めた途端、概要下書き無視なストーリーがすすむぞ~。
Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(7)
│大地の花
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第48話 「按司(あじ)」スサの父親が帰ってきた。仕えている按司が馬車を出してくれたという。ランユウはその男から馬を借りた。
大地の花48 按司【pyo's room】at 2011年09月02日 07:00
この記事へのコメント
待ってました~♪
リーファンをリーリンと読み替えて読んでしまっていて、あせりました~(笑
今後の展開が楽しみです!
リーファンをリーリンと読み替えて読んでしまっていて、あせりました~(笑
今後の展開が楽しみです!
Posted by minto at 2011年09月01日 08:30
わーい♪いよいよ後半ですね!
ワクワクo(^ω^)o
ワクワクo(^ω^)o
Posted by ゆき at 2011年09月01日 08:40
私もでーす(^-^ゞ
合地とリーリンの出逢いのシーンを思い浮かべちゃいました♪
スサ
なんか気になる名前ですね(*^-')b
合地とリーリンの出逢いのシーンを思い浮かべちゃいました♪
スサ
なんか気になる名前ですね(*^-')b
Posted by テン at 2011年09月01日 09:56
わ〜い 連載開始なんですね♪やったぁ〜
ありがとうpyoさん〜
ありがとうpyoさん〜
Posted by ちょこ at 2011年09月01日 10:17
昨日、あれ?そういえば終わっちゃったんだっけ?
なんて頭の中でつぶやいてた。
最後の赤い字にニヤニヤ…
なんて頭の中でつぶやいてた。
最後の赤い字にニヤニヤ…
Posted by poponta at 2011年09月01日 10:20
やっほう、後半開始~~~♪
と思ったらハブにかまれたスサちゃん、めっちゃ痛そうなんですが(T_T)
毒蛇って、最近うちで話題になってたのでちょっと反応してしまいました。
何はともあれ、楽しみにしてます~^^
と思ったらハブにかまれたスサちゃん、めっちゃ痛そうなんですが(T_T)
毒蛇って、最近うちで話題になってたのでちょっと反応してしまいました。
何はともあれ、楽しみにしてます~^^
Posted by 玉 at 2011年09月01日 23:01
●mintoさん
あらら、実はリーリンの事、私も思い出してました。
伝わっちゃったかな?(^^ゞ
●ゆきさん
はい、後半です~。
お楽しみに。
●テンさん
合地とリーリンの出逢い…は、
合地がアッパーカット一発でのされた場面をみて
書き始めたのでした~。
●ちょこさん
お待たせしました~。
先がどうなるやらと思いつつ、書きながら私も楽しみます。♪
●ぽんちゃん
終わってませんでした~。
書き始めると結構苦しいんですけどね、
まだまだ長くいきそうです。
●玉さん
毒蛇がシンクロですか。^^;
ハブ咬傷の傷は助かっても骨が曲がるほどだそうなので
ものすごい痛みだと思います~。
あらら、実はリーリンの事、私も思い出してました。
伝わっちゃったかな?(^^ゞ
●ゆきさん
はい、後半です~。
お楽しみに。
●テンさん
合地とリーリンの出逢い…は、
合地がアッパーカット一発でのされた場面をみて
書き始めたのでした~。
●ちょこさん
お待たせしました~。
先がどうなるやらと思いつつ、書きながら私も楽しみます。♪
●ぽんちゃん
終わってませんでした~。
書き始めると結構苦しいんですけどね、
まだまだ長くいきそうです。
●玉さん
毒蛇がシンクロですか。^^;
ハブ咬傷の傷は助かっても骨が曲がるほどだそうなので
ものすごい痛みだと思います~。
Posted by pyo at 2011年09月01日 23:38
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。