2011年10月24日
大地の花72 土産
第72話 「土産」
三日間の離島での訓練を終えて戻ってきた。通算五日間の出張だ。
港のある街はにぎやかに市が開催されていて、到着予定だった輸入船が予定より早く到着したのだと知った。
ランユウとリーファン、それにジンルーは城に帰る前にそれぞれ土産を買うことにして、ぶらぶらと店をのぞいて回った。
それぞれの土産を手に市場を離れ城に向かうと、途中の野原でリーファンはメイファが好きな花を見つけて摘み始めた。
リーファンはにょきにょきと背が伸びて、すでに父の背を超えている。
ランユウ自身も背が高い方だが、リーファンの方がずっと背が高く、身体もがっしりとしてきていた。
その姿は亡きメイファの父、竜王の姿に似てきている。
だが性質は勇猛さで知られた竜王とは違い、リーファンはとても優しかった。
こうして大きな身体をかがめてちまちまと花束を作っている息子の姿をみると、小さな頃から変わらない優しさが可愛く愛しい。
しかし一介の武人としてそろそろ独立させなければならない事を思うと、そうも言ってられない。
今回の訓練ではリーファンに一部指揮を任せてみたが、優しさから来る迷いが判断力の危うさをみせていた。
それに弓や剣の腕前もまだまだだ。
この体格なら相当の強弓も扱えるはずだが、迷いが出るために素早さと正確さがいまいちだった。
一瞬の迷いが味方を危険にさらす戦場では、むしろ冷酷なほどの判断力と決断力、武力を持つほうが双方の損害を最小限にして戦を終わらせることが出来る。
ランユウはそれをどう息子に伝えようかと歩きながらジンルーに相談した。
「イノシシ狩りとかいかがですか、ランユウさま。」
ジンルーは添王子を誘う事を提案した。
そして添王子の随員にリーファンが好きなスサをいれてもらう。
なるほど、好きな女の前では男は必死になるからなとランユウが笑っていると、リーファンが花束を2つ抱えて走って追いついてきた。
「父上、これ、ひとつは母上に。」
リーファンに示されて、ランユウは躊躇した。
「…お前が持って行ってくれ。」
「またですか?駄目ですよ、いい加減仲良くしてください。子どもも産まれるんだし。」
リーファンの言葉にランユウは苦笑したが、花束は受け取らず一行は城に入った。
「ちちうえー。あにうえー。おかーりなさいー」
足音を響かせながらシェイオンが走ってきた。
ランユウはシェイオンを抱き上げ、思いっきり可愛がる。
そして土産の風車を渡すと、シェイオンは中庭で風車を高く持ち上げながら走り回り始めた。
中庭には井戸がある。
気をつけるようにとシェイオンの世話役に話すと、中に入った。
悪阻の時期がやっと終わったメイファは、急な食欲を見せ始めていた。
「ほら、土産だ。」
お菓子を渡すと大喜びだ。
リーファンから花束を渡されて、「いい匂い」と花の香をかいだ。
「私はいいけど、紅花さまは無理だと思うわ、この匂い。」
メイファはリーファンが準備していた花束をみて言った。
「まだあっちは悪阻が終わらないのか。」
ランユウの言葉に、メイファは首を横に振った。
「寝込んでいるわ。様子を見に行ったけど、侍女たちがもうキリキリしちゃって近づけないの。何も食べないんですって。」
ランユウは溜息をついた。
普段から紅花は偏食が激しい。
好きなものしか口に入れようとしない。
そしてどうも妊娠したことを受け入れてないようだ、とも感じていた。
メイファとリーファンにつつかれて、紅花姫の様子を見に行った。
横になったまま目を赤く泣き腫らしている。
ランユウが入っていくと、紅花姫はびくりとして怯えながら目を向けた。
「いま戻った…具合はどうだ。」
ランユウはできるだけ優しく接していた。
だがメイファに対するものとはやはり違い、紅花相手だとギクシャクしてしまう。
そのせいか、紅花姫もまたランユウに心を開こうとはしなかった。
それでも形ばかりの会話はいままで成り立っていたが、この日、紅花姫は口を開いた途端に涙をこぼした。
「…辛いのか。」
ランユウが声をかけると、小さくうなずく。
何とか食べるものを食べて栄養をとり、ぐっすり眠るように…とランユウは声をかけて、すぐに紅花の部屋を出た。
哀れになってくる。
王の命令とはいえ、触れないほうが良かったのではないか…心の中が疼いた。
中庭に面した廊下でふと足を止めた。
向こうの建物に誰かいる…一瞬の差で背中を見せて去っていった女官に、何かを感じた。
少し考えて思い出した。
第一王妃付きの女官だ。なぜここに?
ランユウは振り返ってそこにいた紅花の侍女に聞いた。
「もしや、第一王妃から見舞いか何か届いたのか?」
「はい、ランユウさま。ここのところ毎日見舞いの花が届けられています。」
美しい花が毎朝一輪、届けられるのだという。
だがその花は一日でしぼみ、落ちるものだ。
ランユウは愕然とした。
第一王妃がそれで紅花姫にメッセージを伝えていた事に気がついたのだ。
つづく
リーファンはにょきにょきと背が伸びて、すでに父の背を超えている。
ランユウ自身も背が高い方だが、リーファンの方がずっと背が高く、身体もがっしりとしてきていた。
その姿は亡きメイファの父、竜王の姿に似てきている。
だが性質は勇猛さで知られた竜王とは違い、リーファンはとても優しかった。
こうして大きな身体をかがめてちまちまと花束を作っている息子の姿をみると、小さな頃から変わらない優しさが可愛く愛しい。
しかし一介の武人としてそろそろ独立させなければならない事を思うと、そうも言ってられない。
今回の訓練ではリーファンに一部指揮を任せてみたが、優しさから来る迷いが判断力の危うさをみせていた。
それに弓や剣の腕前もまだまだだ。
この体格なら相当の強弓も扱えるはずだが、迷いが出るために素早さと正確さがいまいちだった。
一瞬の迷いが味方を危険にさらす戦場では、むしろ冷酷なほどの判断力と決断力、武力を持つほうが双方の損害を最小限にして戦を終わらせることが出来る。
ランユウはそれをどう息子に伝えようかと歩きながらジンルーに相談した。
「イノシシ狩りとかいかがですか、ランユウさま。」
ジンルーは添王子を誘う事を提案した。
そして添王子の随員にリーファンが好きなスサをいれてもらう。
なるほど、好きな女の前では男は必死になるからなとランユウが笑っていると、リーファンが花束を2つ抱えて走って追いついてきた。
「父上、これ、ひとつは母上に。」
リーファンに示されて、ランユウは躊躇した。
「…お前が持って行ってくれ。」
「またですか?駄目ですよ、いい加減仲良くしてください。子どもも産まれるんだし。」
リーファンの言葉にランユウは苦笑したが、花束は受け取らず一行は城に入った。
「ちちうえー。あにうえー。おかーりなさいー」
足音を響かせながらシェイオンが走ってきた。
ランユウはシェイオンを抱き上げ、思いっきり可愛がる。
そして土産の風車を渡すと、シェイオンは中庭で風車を高く持ち上げながら走り回り始めた。
中庭には井戸がある。
気をつけるようにとシェイオンの世話役に話すと、中に入った。
悪阻の時期がやっと終わったメイファは、急な食欲を見せ始めていた。
「ほら、土産だ。」
お菓子を渡すと大喜びだ。
リーファンから花束を渡されて、「いい匂い」と花の香をかいだ。
「私はいいけど、紅花さまは無理だと思うわ、この匂い。」
メイファはリーファンが準備していた花束をみて言った。
「まだあっちは悪阻が終わらないのか。」
ランユウの言葉に、メイファは首を横に振った。
「寝込んでいるわ。様子を見に行ったけど、侍女たちがもうキリキリしちゃって近づけないの。何も食べないんですって。」
ランユウは溜息をついた。
普段から紅花は偏食が激しい。
好きなものしか口に入れようとしない。
そしてどうも妊娠したことを受け入れてないようだ、とも感じていた。
メイファとリーファンにつつかれて、紅花姫の様子を見に行った。
横になったまま目を赤く泣き腫らしている。
ランユウが入っていくと、紅花姫はびくりとして怯えながら目を向けた。
「いま戻った…具合はどうだ。」
ランユウはできるだけ優しく接していた。
だがメイファに対するものとはやはり違い、紅花相手だとギクシャクしてしまう。
そのせいか、紅花姫もまたランユウに心を開こうとはしなかった。
それでも形ばかりの会話はいままで成り立っていたが、この日、紅花姫は口を開いた途端に涙をこぼした。
「…辛いのか。」
ランユウが声をかけると、小さくうなずく。
何とか食べるものを食べて栄養をとり、ぐっすり眠るように…とランユウは声をかけて、すぐに紅花の部屋を出た。
哀れになってくる。
王の命令とはいえ、触れないほうが良かったのではないか…心の中が疼いた。
中庭に面した廊下でふと足を止めた。
向こうの建物に誰かいる…一瞬の差で背中を見せて去っていった女官に、何かを感じた。
少し考えて思い出した。
第一王妃付きの女官だ。なぜここに?
ランユウは振り返ってそこにいた紅花の侍女に聞いた。
「もしや、第一王妃から見舞いか何か届いたのか?」
「はい、ランユウさま。ここのところ毎日見舞いの花が届けられています。」
美しい花が毎朝一輪、届けられるのだという。
だがその花は一日でしぼみ、落ちるものだ。
ランユウは愕然とした。
第一王妃がそれで紅花姫にメッセージを伝えていた事に気がついたのだ。
つづく
Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(3)
│大地の花
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第73話 「過去の予言」ランユウは紅花姫に一番近くで仕えている侍女を自室に呼び出した。「美舞(みぶ)、聞かせてくれ。第一王妃は何を言ってきてるのだ。」美舞は紅花姫の乳母の...
大地の花73 過去の予言【pyo's room】at 2011年10月25日 07:00
この記事へのコメント
リーファンの優しいところ、好きです〜 でももうそんなに大きくなったんですねぇ…。しみじみ(笑)
悪阻は気持ち悪いですよね…でも第一王妃からのお花が気になります
悪阻は気持ち悪いですよね…でも第一王妃からのお花が気になります
Posted by ちょこ at 2011年10月24日 07:46
王と王妃の両親と
その間に生まれた姫と言う立場に翻弄されて
自分を生きていない紅花に、なんだか苦しさを覚えました。
そしてランユウにも。
王命とは言え触れない方が良かったと言うキモチ。
私はてっきり
触れずに意志を貫いたと思ってしまったので
少々むかっ腹が立ちましたが
本人の立場になったらやっぱりそうは言ってられないのだろうな‥
いやいや、王と戦えば皆が住みやすくなるよな
ランユウの性格からそうもいかず?などなど
ん〜〜。
どの人間の中にも妖怪は住んでいますね。
その間に生まれた姫と言う立場に翻弄されて
自分を生きていない紅花に、なんだか苦しさを覚えました。
そしてランユウにも。
王命とは言え触れない方が良かったと言うキモチ。
私はてっきり
触れずに意志を貫いたと思ってしまったので
少々むかっ腹が立ちましたが
本人の立場になったらやっぱりそうは言ってられないのだろうな‥
いやいや、王と戦えば皆が住みやすくなるよな
ランユウの性格からそうもいかず?などなど
ん〜〜。
どの人間の中にも妖怪は住んでいますね。
Posted by テン at 2011年10月24日 09:19
●ちょこさん
そんなに大きく…というか大男になってます。(笑)
●テンさん
いろいろきっかけになってるんですね~。
ランユウがどうして王に絶対服従しているのか、
そのあたりが先日みえてきたのでいつか書きますね。
そんなに大きく…というか大男になってます。(笑)
●テンさん
いろいろきっかけになってるんですね~。
ランユウがどうして王に絶対服従しているのか、
そのあたりが先日みえてきたのでいつか書きますね。
Posted by pyo at 2011年10月24日 17:51
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。