2010年10月02日
夢希8 休職
夢希8 「休職」
「お家に帰りたい…」
雫は、慌ててやってきた両親にしゃくりあげながら小さな声で言いました。
大人たちは顔を見合わせ、思わず苦笑しうなずきあいました。
健康で大事に育てられた少女にとって、若すぎた妊娠と初めてのつわりはこの世の終わりかと思えるほど、辛く心細い出来事でした。
大人たちは苦笑しながらもそれを受け入れ、
雫は結婚式の翌朝には実家に戻る事に。
「とりあえず悪阻が治まるまで様子をみて。安定したらまたこちらにやるわ。」
縁は弟にそういったものの。
いそいそと幸せそうに娘の世話をする由雄に目をやり、小さくため息をつきました。
「ねぇ…いっそ通い婚にする?」
路は笑って、仕事が忙しくない時には出来るだけ顔を出すと約束し、三人を送り出しました。
これだけの騒ぎに起きてこないのはおかしい。
路は縁親子を送り出したあと、娘の様子を見にいきました。
「…夢希?入るよ。」
ドアをノックして返事を待ち、そっと娘の部屋に入ります。
部屋は空っぽ。
「夢希?!」
しばし考えて、部屋を出ると廊下の隅にある特殊なドア…ポータルを調べます。
明け方に使われている。
ヘヴンのとこか。
ほっとしながらも、出勤前に話しておこうと路はポータルを開けました。
朝まだ早い時間帯から、エリア2の畑には人が出ています。
ヘヴンはすでに畑を手伝いに行き、家ではルルが息子のウォオのために朝食を作っていました。
「おはようございます、路さま。」
ルルはにっこりと笑うと路にも朝食を出しながら、路のお世話係に素早く心話で朝食不要の連絡をしました。
「ありがとう。…夢希は来なかったかい?」
「もう寺子屋に行かれましたわ。」
ルルは「遅刻しますよ。」と息子を急かせて登校させると
路に食後のお茶を出しながら、夢希のことを話しました。
「また殴られた夢をみたようなんです。」
路ははっとしました。
夢希は、殴られ、暴力を受けて死んだ前世の記憶がたまに夢として現れることがあり。
あまりに頻繁になった時、幼く直面出来ない内はこの夢をみないようにと、路は母のアマテラス神に頼んで封じていました。
「路。夢に見ているのは見るべき内容があるからなのですよ。
ですから、直面できる頃になれば封印は自動的に解除されます。
その時は無理に封じたりしないようにね。」
母の注意を思い出しました。
「対面する時が来てしまったということか…。」
路のつぶやきに、ルルは頷きました。
「今朝方話してくださった内容では…あの…路さまとデートされた時の事も思い出されたようなんです。」
パシャン!
彼女はスラリとした足をぐっと伸ばすと足先についた泡をその日の恋人の頭の上に器用に載せ、あははと下品に笑いました。
「ねぇ。」
贅を尽くした泡風呂のなかで、思いっきり甘えた声で話し掛けます。
「いつもこんな贅沢してるの?」
「君だけに特別さ。」
そう言って恋人は彼女の足に唇を寄せました。
泡の中に現れた彼の顔をみて、夢希は心臓が飛び上がりそうなほど驚きました。
そして一度飛び起きたのです。
「お父さま…?」
夢希はその話しをルルにしたとき、きっと新婚の父と親友の影響で変な夢を見ちゃったんだわ、と言いました。
「でもね、お父さまは今よりずっと若くて、おひげがなくて、髪が長かったの。」
「その後寝直したそうなんですけど、今度は殴られている夢をみて…怒鳴られた言葉が忘れられなかったと。」
ルルの説明に、路はぎゅっと拳を握りしめました。
『星の王子様が迎えに来ると本気で信じてるのかよ!お前のようなアバズレをよ!ええ?
誰の子かわからん子を孕んでる奴を国に連れていくとあいつが言ったのかよ?!
それともあいつの子か?!あいつはそれ知って逃げたんじゃないか!?』
「なんだって?!」
路は血の気が引きました。
「ドリ…妊娠してたのか…?」
「長官!」
はっとして、路は周囲を見渡しました。
朝の定例会議が始まっていました。
いつどこをどうやって宙港に出勤し会議に出席してたのか、路は覚えていませんでした。
「大丈夫ですか?…やはり今日は休まれた方が良かったのでは。」
補佐官の明るい声掛けに、数人から結婚を祝う言葉がかけられます。
「あ、ああ…雫は…実家に帰ったんだ…」
路がつぶやくようにこたえると、部下たちは顔を見合わせました。
「…心配ない。具合が悪くなっただけだ。あ、ああ、つわりだ。」
心ここにあらず。
路は己が何をしゃべっているのか意識してないようでした。
周りが祝福ムードに変わって、やっと何を話したのか気づいたほど。
会議は毎日の報告が主であり、この日は大した内容はなかっとはいえ。
プライベートな問題で呆けている新任長官に対して、業務のベテランである部下たちはにこやかにかつ現実的な提案をして来ました。
路は長官決済が必要な業務は城に届けるからと勧められ、しばらく仕事を休むことにしました。
づづく。
大人たちは苦笑しながらもそれを受け入れ、
雫は結婚式の翌朝には実家に戻る事に。
「とりあえず悪阻が治まるまで様子をみて。安定したらまたこちらにやるわ。」
縁は弟にそういったものの。
いそいそと幸せそうに娘の世話をする由雄に目をやり、小さくため息をつきました。
「ねぇ…いっそ通い婚にする?」
路は笑って、仕事が忙しくない時には出来るだけ顔を出すと約束し、三人を送り出しました。
これだけの騒ぎに起きてこないのはおかしい。
路は縁親子を送り出したあと、娘の様子を見にいきました。
「…夢希?入るよ。」
ドアをノックして返事を待ち、そっと娘の部屋に入ります。
部屋は空っぽ。
「夢希?!」
しばし考えて、部屋を出ると廊下の隅にある特殊なドア…ポータルを調べます。
明け方に使われている。
ヘヴンのとこか。
ほっとしながらも、出勤前に話しておこうと路はポータルを開けました。
朝まだ早い時間帯から、エリア2の畑には人が出ています。
ヘヴンはすでに畑を手伝いに行き、家ではルルが息子のウォオのために朝食を作っていました。
「おはようございます、路さま。」
ルルはにっこりと笑うと路にも朝食を出しながら、路のお世話係に素早く心話で朝食不要の連絡をしました。
「ありがとう。…夢希は来なかったかい?」
「もう寺子屋に行かれましたわ。」
ルルは「遅刻しますよ。」と息子を急かせて登校させると
路に食後のお茶を出しながら、夢希のことを話しました。
「また殴られた夢をみたようなんです。」
路ははっとしました。
夢希は、殴られ、暴力を受けて死んだ前世の記憶がたまに夢として現れることがあり。
あまりに頻繁になった時、幼く直面出来ない内はこの夢をみないようにと、路は母のアマテラス神に頼んで封じていました。
「路。夢に見ているのは見るべき内容があるからなのですよ。
ですから、直面できる頃になれば封印は自動的に解除されます。
その時は無理に封じたりしないようにね。」
母の注意を思い出しました。
「対面する時が来てしまったということか…。」
路のつぶやきに、ルルは頷きました。
「今朝方話してくださった内容では…あの…路さまとデートされた時の事も思い出されたようなんです。」
パシャン!
彼女はスラリとした足をぐっと伸ばすと足先についた泡をその日の恋人の頭の上に器用に載せ、あははと下品に笑いました。
「ねぇ。」
贅を尽くした泡風呂のなかで、思いっきり甘えた声で話し掛けます。
「いつもこんな贅沢してるの?」
「君だけに特別さ。」
そう言って恋人は彼女の足に唇を寄せました。
泡の中に現れた彼の顔をみて、夢希は心臓が飛び上がりそうなほど驚きました。
そして一度飛び起きたのです。
「お父さま…?」
夢希はその話しをルルにしたとき、きっと新婚の父と親友の影響で変な夢を見ちゃったんだわ、と言いました。
「でもね、お父さまは今よりずっと若くて、おひげがなくて、髪が長かったの。」
「その後寝直したそうなんですけど、今度は殴られている夢をみて…怒鳴られた言葉が忘れられなかったと。」
ルルの説明に、路はぎゅっと拳を握りしめました。
『星の王子様が迎えに来ると本気で信じてるのかよ!お前のようなアバズレをよ!ええ?
誰の子かわからん子を孕んでる奴を国に連れていくとあいつが言ったのかよ?!
それともあいつの子か?!あいつはそれ知って逃げたんじゃないか!?』
「なんだって?!」
路は血の気が引きました。
「ドリ…妊娠してたのか…?」
「長官!」
はっとして、路は周囲を見渡しました。
朝の定例会議が始まっていました。
いつどこをどうやって宙港に出勤し会議に出席してたのか、路は覚えていませんでした。
「大丈夫ですか?…やはり今日は休まれた方が良かったのでは。」
補佐官の明るい声掛けに、数人から結婚を祝う言葉がかけられます。
「あ、ああ…雫は…実家に帰ったんだ…」
路がつぶやくようにこたえると、部下たちは顔を見合わせました。
「…心配ない。具合が悪くなっただけだ。あ、ああ、つわりだ。」
心ここにあらず。
路は己が何をしゃべっているのか意識してないようでした。
周りが祝福ムードに変わって、やっと何を話したのか気づいたほど。
会議は毎日の報告が主であり、この日は大した内容はなかっとはいえ。
プライベートな問題で呆けている新任長官に対して、業務のベテランである部下たちはにこやかにかつ現実的な提案をして来ました。
路は長官決済が必要な業務は城に届けるからと勧められ、しばらく仕事を休むことにしました。
づづく。
Posted by 町田律子(pyo) at 07:00│Comments(0)
│夢希
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夢希9 ヘヴンの過労【pyo's room】at 2010年10月03日 23:12
迷惑コメントが入り始めたので「承認後受け付ける」にしています。すぐには表示されませんがお待ち下さい。